第214話 ライジングサン・ブレイズ、起動!



 禁忌の聖剣キャリバーンを初めとした本隊が、ファクトリーの索敵圏外ギリギリで待機する中。

 一切の熱源反応を伴わぬ様配慮された沈黙の発艦サイレント・イグニッションが、各機体間で行われる。


 光学及び電波通信で感知される恐れのある交信手段は、その時点ですでに切断されていた。


 それも全て事前に打ち合わせた合図などを駆使し、部隊が準備された微小惑星群――あたかも遠方から飛来して来たかに偽装したそれらへと取り付いた。


 通信でも、機体内のメイン・サブコックピット内に於いては、骨伝導を科学的に分析実用化した超々短距離微振動交信マイクロ・スケール・ヴィブレーション・レセプター……通称〈MSVマッシヴレセプター〉と言う変わり種を持ち出し役立てる。


いつき君、私達はこのまま微小惑星を装いファクトリーへ接近します。確認しておくけれど、現状私達部隊間の通信は出来ない旨、理解してるわね? 」


『理解してるっす。何かあれば俺達が先陣を切り、ファクトリー側での傍受が困難な特殊信号回線、〈量子波動回路クオント・ハイウェーブ・サーキット〉を用いた暗号でやり取り……でしたね。』


「よろしい。でもそれはあくまで、作戦上通信傍受に気を割く必要無しと判断されるまで。いいわね? 」


 映像無しのレセプターを介した会話を成す二人は極めて冷静。

 だが現在は赤き霊機ライジングサンメインパイロットを、炎陽の勇者仕様で運用中である。

 機体を覆う程度の微小惑星に沈黙し潜むは、まさしくスニーク・ミッションを開始せんとする陸上潜入部隊のそれであった。


「潜入に用いる武装は、汎用重機関砲に近接電子介入端末。そして容救助者を確認した際の緊急医療システムと配布食料。背部コンテナへ各種配備完了。いよいよね……。」


 数個の微小惑星群に潜むは潜入部隊中核となる赤き霊機ライジングサンと、それを指揮官機として頂くΑアルファ・フォースのシグムント・ヒュレイカ三機。

 赤き大尉綾奈が主役となる作戦に相応しき、女性権威解放戦線を乗り越えた乙女達の独壇場であった。


 蒼の先鋭機エクセルテグを駆る双光の少女ジーナによって、微小惑星群を自然飛来する様に見せかける量子無線誘導式 ヴァルキリージャベリン。

 それらは半自立の性能が示す通り、あらかじめプログラミングしたデータを元に自立稼働を実現する兵装……それが浮遊物体のマイクロスラスターとして機能していた。


 宇宙そらの基本原理とも言える力より重力波のみを充填し稼働する、見た目は小さいながらも充分作戦への貢献が叶う兵装ウエポンである。


 そして――

 光学映像で、規模で言う所の3km四方を有するファクトリー 小ソシャールが確認された。

 その全貌……本来準惑星セレス宙域から小惑星アステロイド帯宙域を初めとする、近隣の民間船や軍事艦艇建造を取り扱う故の姿が、奇しくも救いし者部隊クロノセイバーの作戦難度を向上させる。


 極小ソシャールから改築、増築を繰り返した事で生み出された入り組んだ構造が、侵入を困難としているのだ。


『ライジングサン、これよりモードB〈ブレイズ・アサルト・コマンダー〉へ移行。D・T・R・Sダイタロス起動……メイン・コントロールを神倶羅かぐら大尉へ譲渡します。 』


 程なく始まる作戦開始の号令は炎陽の勇者から。

 響いた声に合わせた様に、赤き霊機ライジングサンが静かに変容して行く。

 

 陸戦潜入・強襲に備え、機体性質上今まで扱う事さえなかった汎用重機関砲と複数の弾倉パックを。

 加えて各種兵装を収納したサブウエポン・システムが、背部から迫り出し腰部へと構えられる。

 さらにはその同部分に巻かれた物理防御用小型シールドより、歪時空偏光重力壁〈アクティブ・ステルス・フィールド〉生成を目的としたミストル・フィールドが噴出。

 機体を取り巻くや、不可視の作戦実行インビジブライズ・ミッションを可能とした。


 最後に凛々しき機体アイカメラを覆う様に、周辺のあらゆる状況確認精度が向上する、指揮官機搭載を目的とした〈ハイパー・コマンディッド・バイザー〉が装着された。


「メイン・コントロール、受け取りました。神倶羅 綾奈かぐら あやな、ライジングサンをモードブレイズにて運用開始。……イグニッション。」


 メインシステム移行と共に、コックピットが炎陽の勇者が駆る時の如く、半直立姿勢の特異な操縦スタイルへ。

 新たなるΑアルファ・フレームの可能性に於ける重要なファクター……赤き大尉がそこへ収まった。



 そう……この苦難続く救いし者部隊クロノセイバーの長期任務の最中。

 遂に、宇宙人そらびと社会の歴史が動いたのだ。



》》》》



 映し出された宇宙そらは今までの物とは違っていた。

 メインコックピットとなったそこへ投影されるモニターは半全天型……必要最小限の小モニターが無数に並ぶサポートパイロットモードとの差は歴然。

 そして――


「最初 いつき君を機体に乗せた時は、この変わった操縦桿諸々の経緯を説明したものだけど……まさかそこへ、自分が乗り込む日が来るとは思っても見なかったわ。」


 高揚は確かにある。

 けれど今は、ファクトリー奪還のため尽力せねばならぬ時。

 それを思考に刻みつつ、徐々に近付くファクトリーを視界に留めた。


 気持ちは急くも、自然浮遊を装う微小惑星を演じ切らねばと思考を巡らせる中――あのメンフィスとやらが宇宙そらに於ける戦いで、こんな潜入方法もあると認識している可能性も考慮していた。

 が……ファクトリーからの長距離射撃などの排除行動は見られない所から、その危険性はないと判断する。

 ファクトリー製の対空防衛兵装ならばいくらでもあの場所へ転がっており、ソシャールを完全掌握したならそれも使い放題だから。


 故に……気付かれていない現状は、なお焦りが禁物と言えた。


「ライジングサン・ブレイズ、潜入地点へ接近。ミストル・フィールド散布と同時にASFアクティブ・ステルス・フィールド発動。機体の不可視化インビジブライズを確認――」


「残るΑアルファ・フォース全機のフィールド内陣形が整い次第、微小惑星離脱と同時に潜入を開始する。行くわよ?いつき君。」


『了解です、綾奈あやなさん。こっちは何とか初サポートを熟して行くっす。』


 ファクトリーから僅か1km弱へ流れ着いた微小惑星は、そまま通り過ぎる飛来物として廃棄し……焦熱ブレイズの名を関したライジングサンの姿を闇へと溶かして行く。

 かつてクロノセイバーへ奇襲を敢行したザガー・カルツのラヴェニカ。

 彼女の機体であるS・D・Hスーパー・ディザード・ハーミットが用いていた姿隠しステルス・シェルをデータ解析し、同様の効果を一個体のみではない限定フィールド全体へと及ぼす用プログラミングしたもの。

 それがモードブレイズ指揮官システムでの運用を想定した、ミストル・フィールド ASFだ。


 浮遊し遠ざかる微小惑星の影で、私が駆るライジングサンを中心としし……アシュリー達の機体が事前の打ち合わせ通り、不可視となった宇宙空間で陣形を形成する。

 しかしそれらをASFが持つ偏光重力壁が覆い隠すため、光学的に観測できるのは歪められた空間後方の宇宙の姿だ。


 重力レンズさながらの状態……そこにブラックホールが存在する様に姿を消したまま、私達はファクトリーへの潜入を開始する。


「かの米国は確かに、豊富な財力・技術力に経験からなる宇宙局を設けている。けれど人間は、らない事はらない――思考に存在しない事象は大抵、信ずるに値しないと切って捨てる種族だ。」


「ならば私達が駆る霊装機セロフレームを初めとした部隊が、まさか姿夢にも思わないだろう。」


 このファクトリー奪還及び関係者救出作戦の要となるのは、相手が人類であり……さらには地上出身者特有の固定観念から来る、未知の事象に対する認識欠如がある点を突く事。

 宇宙そらに上がって学んだ事だけど……宇宙人そらびと社会では、未知の最高位でもある観測者と呼ばれる者さえ、存在する前提で物事を理解していく必要がある。

 加えて――多くの宇宙人そらびとは常に宇宙そらが齎す驚異に晒されており、そこで生き抜くためには、常に万物の真理と向き合わねば未来などない。


 言うなれば、地上に住まう人々は地球と呼ばれる大地の加護が余りにも強すぎて、自分達が


 だからこそ……文明に頼り切るしかない自分達を、


 今作戦の本質を思考へ刻んだ私が、不可視のフィールド内でのみ視認が叶う各機へ振り向けば……通信などなくとも伝わる、信頼に足る女性達の機体アクションがモニターを占拠した。


 アシュリー、カノエ、エリュトロン――

 まだC・T・Oとさえ無縁だった頃に、男性至上主義社会から女性の権威の全てを開放した仲間達。

 あの頃に戻った様な絆の繋がりが私を支配する。



 さあ行こう……

 今度は私達、宇宙人そらびとの未来を懸けた任務――その一幕を越えて行く戦いだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る