第210話 開放戦線の雄姿再び



 赤き霊機ライジングサン大改修が、ファクトリー宙域到達を前に突貫工事にて開始される。


 そこへ赤き大尉綾奈へ事情が漏れたのを機に、一気に仕上げてしまおうと言う炎陽の勇者の意見と、ファクトリー奪還作戦の機軸に赤き霊機ライジングサンを据えるとした英雄少佐クオンの号令が勢いを乗せた。


 さらにかかる大号令は、赤き大尉を古くから知る諸々の仲間達を奮起させるには充分であり……その大尉が長年抱き続けた宿願を叶えるためにと、たける熱気が灼熱の炎と化す。


 あたかも新たなる炎陽をそこへ産み落とさんとするが如く――


いつきがまさか、あそこでバラして来るとは思わなかったが……結果的には良い方へ運んだな。」


「いや、マジすんません(汗)。せっかくクオンさんが事の責を被る方向に動いてたのを台無しにして。」


 禁忌の聖剣キャリバーン大格納庫――

 さらに奥に位置する改修区画の熱気を見やるは、英雄少佐と炎陽の勇者。

 苦笑の英雄の配慮を台無しにした勇者が、嫌な汗のまま視線を泳がせる。


 しかし英雄少佐にとって、勇者の上げた声こそが重要であった。

 霊装機セロ・フレーム乗りとして少年を導いていた彼もまた、少年から多くを学び取っていた故に。


 彼が己を追い上げる勢いで背を脅かす姿に、頼もしささえ覚えていたのだ。


「おいコラ、バカいつき。こんな所で突っ立ってないであなたも手伝いなさい。言いだしっぺでしょうが。折角監督官様がライジングサンのメインシステムへ、調整のメスを入れられる様対応してくれてるのよ? 」


「あっ、と……すんませんアシュリーさん。じゃあクオンさん、行って来るっす。」


「ああ、そっちは任せた。頼むぞ?いつき。」


 感慨にふける英雄少佐と己の独断先行謝罪に徹する炎陽の勇者。

 その背後から男の娘大尉アシュリーが小突く様に勇者を急かし、慌てた勇者もそそくさ英雄の下を後にする。


 そのまま機体の方へ向かう勇者を横目に、男の娘大尉が英雄少佐へと言葉を洩らした。


「あのバカにはほんと、驚かされるばかりだわ。それにあいつが提案したアレは確実に、霊機改修計画よね? 」


「はは……間違いない。いつき綾奈あやな霊装機セロ・フレームメインパイロットとして宇宙そらへ打って出るなら、――と踏んだんだ。」


、まさに渡りに船なんじゃないか?アシュリー。」


「……からかうなし。でも、感謝してるわ。その案をガチで作戦に組み込んでくれたあんたも……いえ、サイガ少佐にもね。」


 炎陽の勇者の想いの真相を語る男の娘大尉は、いつになく頬を赤らめていた。

 英雄少佐もその胸の内が分からぬ訳ではないからか――その想いが指し示す二人の話題へ……赤ら顔な彼女が豪語する、自称ファンクラブ代表との言葉を差し込んだ。


 からかわれた男の娘大尉はそっぽを向くも、英雄少佐の配慮をありがたく受け取っていた。

 かつての彼女では考えられぬ程強い、男性への信頼と共に。


「この話はここまでとし、オレも各機体の改修に参加するよ。いつきにはライジングサンを任せるが、今アシュリーが口にした通り……必要性が生じているからな。」


 その言葉で雑談よりも成すすべき事をときびすを返し、英雄少佐が向かうはΑアルファフォースを構成するシグムント・ヒュレイカ三機の元。

 詰まる所、男の娘大尉を炎陽の勇者と赤き大尉主導の改修支援へと付かせる間、英雄が残る三機の改修に立ち会うと言う事である。


 告げられた熱い労りを乗せられた大尉は、英雄少佐をはにかみながら見送るやクルリと身をひるがえして――


「さあ、私も手伝いに行きますか! 」



 己を鼓舞する様に赤き巨人へと足を向けた少女の表情は、



》》》》



 赤き霊装機セロ・フレーム ライジングサン。

 今そのブラックボックスとも言えるメインシステムへメスが入れられる。


 本来霊装機セロ・フレームの様な機体を戦禍への備えと振る場合、相応の管理元からの許諾が必要とされるけど……現在はその辿るべき手順をすっ飛ばさざるをえない事態が捲き起こりつつある。


 それをカベラール議長閣下からの通信で読み取った月読つくよみ指令の依頼の元、観測者に関わる存在の監督官嬢が緊急措置として臨時許諾を通してくれていた。


いつき様、綾奈あやな様。こちらのメインシステム最深部への介入を許可しましたのです。以降は私がモニタリングし詳細把握に務めますので、機体への過ぎた干渉となる行為はお控え下さいませ? 」


 しばらく聞いてなかった、星霊姫ドールな監督官様――達観しながらも、あどけない少女の様な雰囲気から放たれる言葉に一層気を引き締める。

 これより俺達が介入するは、本来人類がみだりに犯してはならぬ禁忌の領域。

 ライジングサンにブルーライトニングを初め、旗艦であるキャリバーンにも通じる


 この機体を軍部へ納入したお袋が俺達が踏み込むんだ。


「分かったっす、リヴ様。俺達でシステム改修へ移る状況確認、お願いするっす。じゃあ綾奈あやなさん、そっちのサブパイロット側のシステムの……綾奈あやなさん? 」


 リヴ嬢の合図でシステム改修の準備が整い、さっそく綾奈あやなさんとシステム面での改修をと機体モニター越しに呼びかけた先で――

 何やらえらく鋭い視線で俺を見た綾奈あやなさんが、無言で作業に没頭して行く。


 え?俺何か、彼女を怒らせる様な事したっけ?

 確かにこのライジングサン改修その物が、綾奈あやなさんへのサプライズを兼ねてた所はあるんだけど……もしかして、その点を黙って進めた件への怒りが未だに継続中なのか?


 そしたら俺、ある意味地雷踏んだかも知れん(汗)。


 と、思考に時間を費やす間も作戦時刻は刻一刻と迫ってる。

 だからその点は考えない事とし、改修へと全霊を注ぐ事にする。

 ……修羅か羅刹からの怒りの視線を痛いほどに感じながら。


 この大改修に必要な点はまず、綾奈あやなさんの格闘技に合わせた機体運用。

 彼女は元々地球は守護宗家が擁する、対テロ組織管轄の特殊部隊を排出する御家の血筋と聞いていた。

 その辺はカノエさんやエリュトロンさんが、無意味に詳しかったから耳にした点だけど……地球のテロ組織はまずもって正々堂々なんて概念が存在していない、利己的な者達が際限なく暴走する悪意の奔流とも聞いていた。


 敵を罠に陥れる事や、無関係な人を当たり前の様に人質に取り、巨大な国家さえ交渉の場へ着かさせる非道を何とも思わない、非合法且つ合理的に自分達のみ得をする利益を求める集団。

 それでも目的を達成できなければ、人質を問答無用に撃ち殺す……耳にしただけでも止めどない憤怒が湧き上がる悪意の集合体だ。


 綾奈あやなさんはそんな組織相手に手を変え品を変え、危険極まりない場所へ潜入しテロ組織を壊滅させて来た宗家の懐刀。

 彼女の生い立ちに関わっていた、あのユウハとか言う傭兵もきっとかつてはその括りと見て間違いないだろう。


「お袋は俺が格闘戦で苦労する様、敢えて手技に特化した改修を加えてたけど……綾奈あやなさんの戦い方に合わせるなら足技主体が良いって――確かアシュリーさんが言ってたっけ。」


 俺がどう転んでも成す事は出来ない特殊部隊戦闘。

 それを幾度の死線を潜りながら繰り返した綾奈あやなさんの戦術は、武装を手に持ち繰り出せる足技に特化する。


「……はぁ(汗)。なんで綾奈あやなさんが無意識に俺を足蹴にしてたかが、今になって分かったよ。」


 今まで彼女といるたび嫌な汗を流しつつ、機内通信で本人へ聞こえない様に零してしまう。

 絶賛激オコ中と思われる綾奈あやなさんがこれを聞いたなら、コックピットを蹴破って――まあそれは無いにしても……後で何をされるか知れたものじゃない。


 嫌な思考を振り払い、システム改修に取り掛かる。

 まあ俺が出来る範囲の改修は少ないんだけど……分かる範囲で機体への反応など、格闘家にしか感じ取れない微調整を加えて行く。


 そして――


『バカいつき、外殻と各部関節機関の改装予定はこれね? 』


『これぐらいの改修ならば、現状旗艦に積載している物資で事足るっす。いつきさん、これで改修を進めるっすよ? 』


「ああ、旗城きじょうはそれで頼むよ。あとアシュリーさんも、旗城きじょうのシステム側からライジングサンへのリンク調整なんかを頼むっす。」


『あんた達は揃ってスースー五月蝿うるさい。』


「『ひどいっ!? 』」


 定番の弄りをかますアシュリーさんも、言うほど機嫌が悪い訳ではなく……俺を見てくる。

 何それ?逆にアシュリーさんの笑顔の方が恐いんですけど?


 そして同機体内からは、未だに衰えぬ綾奈あやなさんの怒りの視線。



 もう……何なのさ……(汗)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る