第209話 ファクトリーの危機、再び



 中継ソシャールラック・ラッドからの帰路を急ぐ禁忌の聖剣キャリバーンへ、評議会よりの指向性特殊通信の一報が届いた。

 その内容に歯噛みした旗艦指令月読は、一先ずその旨を優先して伝えるべく機動兵装パイロットらを小ミーティングルームへと集合させる。


 すでに英雄少佐クオン炎陽の勇者を初めとした者達は覚悟を以ってその会議へと挑む。

 だが――


 その事態に動揺を隠せなかった赤き大尉綾奈は、焦燥していた。


「あのトランピア・エッジを率いたメンフィス・ザリッドが、ファクトリーソシャールを……。」


「うむ。これはファクトリーから送られたSOS通信によるものと、議長閣下から報告があったが……そこに地上は米国が確実に絡んでいるとの事だ。」


 現在地球では、暁上る大国日本と米国は友好条約の下協力体制にある。

 だが強硬派のそれは、宇宙そらと言う世界は条約も範疇の外と言わんばかりの暴挙であった。

 何より米国軍部の一部と地上 三神守護宗家は、世界の国際テロから民を守るため海原を越えて手を取り合う同志である。


 その同志たる国家の者が宇宙そらで暴挙に及んだ今、彼女の心は何よりも痛め付けられていた。


「なお今回、あの旧米国尖兵を名乗る者が……我らは極力隠密に行動を取らねばならぬ事態が発生した。相手は対人戦術作戦のいわばプロフェッショナル――詰まる所我ら宇宙そらで住まう者でも経験した事のない、スニーク・ミッションを想定している。」


 そして相手が相手だけに、旗艦指令は慎重に慎重を重ねたミッションを提示する。

 すでに禁忌の聖剣キャリバーン航路は中央評議会まで数日もない、双方の電波・量子通信圏内に位置し……さらにそれ以上評議会ソシャールへ近付けば、準惑星セレス宙域にあるファクトリーへ作戦概要漏洩の恐れすらあった。


 米国上がりメンフィスがそれを知り得た際に及ぶ、最悪の凶行さえ考慮しなければならないのだ。


 沈黙が小ミーティングルームを包んで行く。

 機動兵装隊に属する彼らは、宇宙空間での戦闘を専門とする地球上の軍隊で言う空軍に相当する。

 対するスニーク・ミッションを専門とするは地上陸兵部隊。


 機動兵装もその大半が、宇宙戦闘に特化し建造されている救いし者部隊クロノセイバーとしては火急を要する事態も手詰まりであった。


「……評議会との通信は情報漏洩を鑑み、明朝10:00以降中断する旨を伝えている。それまで一日弱の時間があるが、その間にファクトリー奪還と社員・家族ら救出プランを立案させてもらいたい。以上、解散。」


 そのまま作戦概要の定まらぬまま解散を言い渡された機動兵装乗りらは、各々の一次休息へと向かって行く。

 例え作戦さえ定まらぬ困難が立ち塞がる今であろうと、すでに人命救助任務から重なる疲労が蓄積の一途を辿る彼らにとって、休息こそが最大の戦力増強に他ならないからだ。


 そんな中――


「(スニーク・ミッション……聞いた事はあったけれど、きっと俺じゃ何の役にも立たないな。ライジングサンは兎も角、。だけど――)」


「(、この作戦何とかなるかも知れない。スニーク・ミッションも可能とする陸上白兵戦システムを組み込んだ、……!)」


 炎陽の勇者の思考に踊るは、赤き霊機ライジングサンの持つ新たなる可能性。

 そこに据えられる、赤き大尉が培って来た努力と研鑽が齎す真価。


 二つの要因が重なる事で誕生する、



 全ては彼の考案した、チェーン・リアクションシステムが鍵を握っていたのだ。



》》》》



 クオンさんから各員へ休息が言い渡されて時間を置いた頃。

 俺は今まで積み重なる心身の疲労と、これから訪れる事態を聞き及んだ事で緊張と不安入り混じる艦内を散策していた。

 根を詰める時はしっかりやりつつ、気晴らしも適度に入れろと厳命された上での今でもある。


 けど――


「(綾奈あやなさんの得意とする足技主体の格闘タイプへ機体を変形させつつ、機体制御システムを瞬時にからチェンジ……か。よくお袋もこんな無茶な設定盛りまくったな。)」


 現在Αアルファ改めライジングサンは、Ωオメガ改めブルーライトニングも真っ青の大改修中。

 おまけに殆ど外見では分からない変化が、その内面で進められている。

 ディスケスが中心となりマケディ軍曹指揮の元、整備チームがフル稼働……って、そういやどうでも良い事だけど、あのマケディさん――ファーストネームがマクファーソンってのは初めて聞いた。

 かっちょいいな、ちょっとムカつく。


「もう、マケディ軍曹とかチーフで良かった様な……(汗)。って思ってたら、改修の進捗が気になって来たなぁ。」


 思考すまいと思ってたけど、やっぱりあいつ……ライジングサンの新たな姿に心躍った俺はいても立ってもいられなくなり――


「はぁ……やっぱり来ちゃったよ。あれ? 」


 休息の厳命を、ちょっとだけ違反する様に大格納庫奥の機体改修専用区画へ足を向けてしまった。

 ――「やっぱり来たか。」みたいな苦笑を浮かべるクオンさんにジーナさんと……おい待て、整備部門ども、内緒にしてろって言ったじゃねぇか(汗)。

 ディスケスとマケディ軍曹が三割増しで縮こまる眼前で、……これバレたかな?


 はぁ……と嘆息した俺は、こっそり綾奈あやなさんを応援する計画が早くも頓挫しちまったとゲンナリしつつ、けれど機体状況が気になって仕方なかったのでそこへ便乗する事とした。


「どうしたんすか?クオンさん。それに、みんなしてこんな所へ。」


 とか、何もしらない体を演じながら。


「どうした?じゃないわよあなた。何でアル……じゃない、ライジングサンの大規模強化改修が私抜きで勝手に進められてるの? 発起人はあなたと聞いたわよ? 」


 そしたら仁王の憤怒の矛先が俺へと飛び、ビクゥ!とこっちまで縮こまった最中視線を奥に向けるや、改修区画床で延びてるアシュリーさんを見つけてしまった。

 ああ……最初にバレたのはこっちかい(汗)。

 どうせ綾奈あやなさんが、宇宙そらにフレームのメインパイロットとして上がれる事にウッキウキだった勢いで、クオンさんが愛車を駆る如くロングサイド・ドリフトさながらに口が滑ったってとこだろうけど。

 、もう少し粘ってほしかったね。


 ただ綾奈さんの口ぶりからすれば、大規模改修そのものはバレただろうけど……それが誰のためと言う点は何とか隠された状況と推察できた。

 きっとそこはクオンさんの鶴の声があったんだろうな。

 本当にこの部隊にこの人がいて良かったと、今さらながらに感激してしまう。


 そんな英雄に「どこまで?」と、綾奈さんに悟られない視線を送れば「大丈夫。」的に大筋を隠したと苦笑を送られた。

 これは改修本筋をぼかしつつの、それでも今後を見据えたモノとし――発起人は俺でも開始の合図をクオンさんが下した体を演出した感じか。


 そして改めて、ほんとに英雄はスゲェ。

 だからこの人に着いて行きたいと思う。

 だから……この凄くデカイ背中を守る最強の盾になりたいと、心のそこから本気で思ってしまうんだ。


 だからこそ、今――


「実は綾奈さんに相談があるっす。機体改修を内緒にしてたのは謝るっすけど……それをとがめるって事なら、後で整備部門やアシュリーさんよりまず俺に責任を振る方向で――」


「さらにこれから向かうセレス宙域の、ファクトリーと社員奪還作戦にかかわる作戦概要の……があるっす。」


 言っちゃうの!?みたいな整備部門にジーナさんの視線と、今までボコられてたハズのアシュリーさんが飛び上がる様に起きたのを視界に捉えつつ、俺は言い放つ。

 英雄にばかり責を押し付ける訳にはいかないから……、それを口にするべきと責任を負う方向の相談を持ちかけた。


 するとそれに一番驚いたのは綾奈さん。

 見開いたそこへ宿す驚愕は、俺が責を負う点だけではない……俺が付け加えた綾奈さんが主体となる作戦概要の点なのは言うまでもない。


 いつの間にか集う面々は整備部門で活躍するチームでも、綾奈さんとは親しい間柄の人達だろう。

 あと、女性を目指す二人も後に来てたのに気が付いた。


「ライジングサンの、ブラックボックスな面へ手を加えると言う事ですね!? でしたら私の協力は必要不可欠なのですよ、皆様! 」


 最近いろいろご無沙汰してた監督官嬢まで引き連れて。


 そうだ……宇宙人そらびと社会で、クロノセイバーの母体であるC・T・O含む防衛軍本部の誰もが知っているんだ。

 Ωオメガと呼ばれた機体に情熱を注いだジーナさんって言う女神が居た様に、Αアルファにも人生の全てを注ぎ込んだ女神がいた。

 神俱羅 綾奈かぐら あやなっていう、ちょっと玉にきずな地球を代表する日本の大和撫子が。


 これは彼女が宇宙そらの大舞台に立つ序章。

 そんな晴れ舞台に、俺は演出する裏方役を申し出た。



 これより日本の大地から上る暁の如き、大舞台の裏方を。

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