日イヅル国の魂は双炎の陽光となりて
第208話 不死鳥計画の意志を継ぐ者
世界は宇宙時代。
宇宙との交流こそが、今後の世界の覇権を握ると言われたのはもう何年も前か。
だがその宣言を成した時にはすでに、他より宇宙との情報面で圧倒的優位にあった世界最大の列強国――
それが俺の故郷たる自由と平等を
そんな故郷を覆う民族対立が激化した頃、米至上稀に見る国家分裂が起きたのは記憶に新しい。
当時穏健派で前大統領の意志を継いだ候補と、己に組する民のみを国民とし対立を煽った候補両者の、政治的対立が決定的なものとなった時――
米国が文字通り、真っ二つに引き裂かれたんだ。
「トランピア大統領はかねてより、宇宙防衛の先進を行くには……宇宙に住まう人類に対する政治的優位を確実の物とする必要があると
『聞いてるわよ、メンフィス。けど私はその考えに行き過ぎたものを感じているわ。』
その頃よりトランピア派閥に属していた俺と、ラテン系美人のマジェスカ・ハイマンは派閥の私設部隊として働き――米国宇宙局出身な事もあいまって火星圏へのミッション参加権を取得していた。
美人ではあるが彼女……実の所彼であるマジェスカは、米国を初めとした人種差別問題や性的マイノリティー問題へ毅然と立ち向かい、それらが社会的権利を得るため世界を飛び回りながら差別根絶を
その奮闘ぶりから世界各国で、彼女こそ真の米国に君臨するべき自由の女神と賛美すらされていた。
俺としても、旧知の中である彼女が誇らしく……否――彼女に好意さえ抱いていた事をなんら恥じてはいなかった。
そんな彼女と迎えた火星圏人類との交渉と言うミッション。
早い話が最悪の結末を辿ったのだ。
火星圏で勢力を誇り、旧マルス星王国を滅亡に追いやった現火星中枢……アレッサ連合政府は当時すでに火星地上の至る所へ拠点を持っていた。
地球から火星へ一番乗りした我ら米国へ、火星で見た真実全ての隠蔽工作を要求して来た国家だ。
そして彼らはすでに地球地上の過激派扱いであったトランピア派へ、最大の警戒の元対応をと動いていた。
米国所属の俺達粛清と言う警告を以って――
「マジェスカ! 返事をしてくれ、マジェスカ!! 」
「……メン、フィス……。ごめん、ヘマしちゃった。」
「バカ言うな、お前がいつヘマをしたんだ! これは奴ら
『お取り込み中の所申し訳ないが、こちらも任務だ。我らが管轄の火星遺跡区画への侵入は何人たりとも許可されてはいない。自業自得として諦めたまえ。』
地上人としては、火星の情報は喉から手が出る程に有益なもの。
その中で地上は強行派たる米国トランピア大統領からの勅命を受けていた俺達は、火星地上へ降り立ったシャトルから、当時は知り得なかった火星在住
そこへ問答無用の攻撃が行われた訳だ。
宇宙船外活動用に米国が開発した地球最先端の有人型調査ロボット……それに搭乗していたマジェスカを襲ったのは――俺達の技術概念と根本から異なる機動兵装。
火星圏地上 アレッサ連合政府が所有する、当時前線で活躍していた
抵抗虚しく投降を余儀なくされた俺とマジェスカだったが、粛清を逃れんと投降を提示。
マジェスカの傷治療と保護を最低限の条件として、奴らの軍門に下って以降は彼ら内部で米国とのパイプを持つ役を俺は会得した。
そう――彼女をなんとしても生かしたいと言う願いから、俺はその恥辱に塗れた人生を選んだはずだった。
苦渋の選択も事件から数週間後命を引き取ったマジェスカによって、何かが壊れてしまった人生を――
》》》》
しかし開発の主軸は、今世界を脅かす戦乱を意識したものではなかった。
ファクトリーが有するソシャール型工場施設各所で、ロールアウトを心待ちにする機体のどれもが、純災害防衛に特化した機動兵装群。
有人無人問わず居並ぶそれは、かの
「地球上がりとか言ったな……君はいったい何をしているか分かっているのかね? 」
「分からないのか? ここにある戦争の道具を、俺が火星圏政府への
「ふざけるのもいい加減にし給え! ここにあるのは、
「人が搭乗し銃砲装備を身に纏う……これで命を救うだと?笑わせるな。地球では、銃を備えた兵器は如何な理由があろうと戦争の道具と成り果てる運命。お前達の平和ボケぶりには反吐が出る。」
「……話にならないな。地球で住まう同族が、ここまで穿った思考で存在しているなど……議長閣下の理念も通じぬとは。」
だが今
地上から上がった
しかしたった一人で単身乗り込んだ米国上がりは、それを悟られ不利になる事を嫌い虚勢を張る。
数日間に及ぶ救命ポッドを乗り換え繋いだ執念は、未だ衰え知らぬ火星圏の手先としての猛威を宿していたのだ。
その米国上がりは潜入後ほど無く、周囲に察知されないよう工場ソシャールへ偽装を施し……評議会が擁する防衛軍の目を盗む様に動いていた。
監禁したソサシャールに住まう工場社員とその家族を、生活もままならない一区画へと押し込む米国上がりは……入り組んだ工場各所へ様々なトラップを仕掛ける様に、隈なく内部を見て回る。
「この機動兵装群には傷を与えず、何としても火星圏政府が持つ制宙域へと戻らねばならん。幸いソシャールの星間航行用システムは備えてあるな。ならば――」
「ソシャール丸ごとの機動兵装群献上を以って、米国トランピア派の面国は保たれるだろう。」
米国上がりの思考はあくまで、国際テロの脅威を日常とする地上から上がった故の偏った概念によるもの。
かつて己が抱いていた祖国への愛国心が、歪んだまま今の彼を突き動かしていた。
正義を成すはずであった地球最大の国家に属する者が、その正義を向ける先を見失ってしまっていたのだ。
米国上がりが監禁区画を離れて程なく――
工場居住者の中で一人彼の脅威に立ち向かった、その地を纏める工場長 サダハル・コーラル・マツダ……歯噛みする胸の奥で、決して屈さぬ闘志が昂ぶっていた。
「君達は彼に気付かぬ様、壁となっていてくれ給え。私がこの区画内にある非常通信施設で、評議会にSOSを送る。」
「マツダ工場長、危険です! やつはあの地球から上がった戦争の権化……そんな相手に抵抗するのは――」
「そう……彼が地球上がり――米国出生の者ならば意地でも屈する訳にはいかない。私の友人には、私の祖国を大切に思い……今も守りに就いてくれている米国軍人がいる。我が祖国が再び他国の戦火に脅かされぬ様に――」
「私の友人はかつて、彼の国が我が祖国 日本を戦火で焼いた事をとても悲しく思っている。だからこそ、日本を守ると米国海軍兵へと志願した素晴らしき存在だ。」
工場長は己の心の全てを懸けて、制する社員へと語りかける。
彼の心には口にした思いだけではない、確固たる理念がその芯を貫いていた。
「(
「(でなければ私が若き頃、ここへ来る許可を取り付けてくださった恩人たる会社……戦後の街を命懸けの奮闘で蘇らせた、
工場長まで登りつめた彼の持つおにぎりにも似たペンダントには、若かりし頃の工場長を囲む会社
それを見やり、工場長は決意を新たにしていた。
「(ロータリー47士の魂を継ぐこの私。会社への大恩から、名乗る名に制限が少ない
僅かな過去、暁上る国を焼いた戦禍と言う名の地獄の業火。
その業火からの復興と、一つの町会社が立ち上がった。
そこで戦災からの復興を懸けた、とある自動車エンジン開発を彼らは
――飽くなき挑戦――
そんな誇りを継ぐ者が
暁の国家にある、平和を望んで止まない奇跡の再生を実現した町の誇りと共に――
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