第207話 蒼き閃光、そして舞い上がる太陽



 中継地点であるラックラッドでの補給・兵装整備を終えた救いし者部隊クロノセイバーは、長期任務となる火星圏までの道のりへ再び赴く事となる。

 航続距離としては、木星圏からの距離よりも数天文単位分近い日数での到達を予定するが、小惑星アステロイド帯宙域を纏める中央評議会に向けた諸々の情報伝達が急がれた。


 その理由は言わずもがなで、太陽系全土の通信を永きに渡り担っていたソシャール ニベル壊滅こそが要因であり――

 現在古の技術体系ロスト・エイジ・テクノロジーへの制限を受ける宇宙人そらびと社会では、星間を跨いだタイムラグなき通信さえ不可能な事態ゆえの追加任務であった。


「旗艦の航行に関する全てに於いてオールクリアー。いつでもキャリバーン、出航可能です。」


「うむ、了解した。クオン……何やらΑアルファフレームの調整に手間取っていた様だが、それは旗艦出航後に持ち越す事は可能か? 」


 禁忌の聖剣キャリバーンはすぐにでも出航可能な状況下。

 そんな旗艦の出航を前にした旗艦指令月読の耳へ、少し含みを持たされた機体整備情報が届いていた。

 それは英雄少佐クオンが臨時に出した連絡であり、整備チームから赤き霊機Αフレームへの不安を聞き届けたとの報告である。


 少佐含む一部の者が知り得る情報であるが、事をぼやかしていたのだ。


『調整そのものは持ち越しでも問題ありません。ただ少し出撃に関しては、一時見合わせたいと整備チームより連絡があり……こちらも状況を確認した上での報告としました。』


「そうか。、多くを問い質す事もあるまい。そちらは任せるゆえ、一度旗艦出航前の待機へと――」


 英雄少佐への信頼度は最早不動となる旗艦指令。

 機体の不調がわざわざ少佐経由で報告された事へ、何かを悟った指令は苦笑の後その点での全権を彼へと移譲した。

 のだが――


 その件を横に置く様に、英雄少佐が別件となる提案をぶち上げる。

 それはすでに強化した性能をまざまざと見せ付けた蒼き霊機Ωフレームと、今後覚醒するであろう赤き霊機Αフレームの運用方針に関わる案件である。


 そして……その提案は、旗艦指令に止まらないブリッジクルーへ詰める全員へと熱く刻み込まれる事となった。


月読つくよみ指令、その件とは別に少し提案があります。これはΩオメガΑアルファ双方の、現状を鑑みた物である事を先に付け加えて置きます。現在すでに両霊装機セロ・フレームの継続運用時間は、実験機の範疇を大幅に越える域に達し……本来機体固有名称を待たぬ両機は未だ呼称されています。しかしながら――』


『すでに実装している様な状態の機体であるならば、相応の呼称にて言い表すのが我らの――宇宙人そらびと社会が受け継いできた、万物へ宿る魂へ向けた畏敬の念を表す伝統と考えます。』


「うむ……確かにそれは一理あるな。機体運用上のそれ以前に、我らの理念大半はかの地球は日出ずる国 日本国由来の物が多い。万物へ向け畏敬の念を贈る行為そのものが人間性さえも決定付ける、かの国が伝統的に受け継いだ誇りある文化。いいだろう……それで両機の個体名称は何とする? 」


 英雄少佐と旗艦指令のやり取りへ、任務も忘れて聞き入るブリッジクルー達。

 その一端へ関わった若き気鋭ディスケスなどは、


 それを大格納庫で通信していた英雄少佐はモニター越しで一瞥し、告げる。

 国際防衛に携わる者が皆、多くの困難と耐え難き犠牲を乗り越え未来へと歩むキッカケとなる事を願いながら。


『提案承諾に感謝します。これより我らが駆る霊装機セロ・フレームの機体正式名称とし、Ωオメガフレームをブルーライトニング……Αアルファフレームをライジングサンと呼称します。これはすでに、各員でも了承を得た所です。』


「ブルーライトニングに、ライジングサン――、か……。ふふっ……思い描いた通りの、まさしく君達が駆るに値する凛々しさに雄々しさを兼ね備えた御名だな。聞いたな、各員これより速やかに、Ωオメガ及びΑアルファの呼称を変更後正式登録――」


「以後は我らの頼みの綱たる霊装機セロ・フレームをブルーライトニング、ライジングサンとして運用を図る。では旗艦発進準備……キャリバーンはこれより、情報伝達任務として小惑星アステロイド帯宙域は中央評議会へ一端進路を取る。キャリバーン……発進せよ。」


「イエス、サー。キャリバーン機関40%で安定……微速前進、アイ。」


 旗艦指令の号令に反応する諜報部少佐ロイックの声を皮切りに、禁忌の聖剣キャリバーンがさらなる旅路に着かんとする今、それはとごこおりなく刻まれて行く。

 蒼き閃光 ブルーライトニング……そして舞い上がる太陽 ライジングサン――



 これより訪れる戦禍を前にした二柱の巨人は、かつて起動すらままならなかった過去を超え……新たなる未来将来のかなめとして生まれ変わったのだ。



》》》》



 救いし者部隊クロノセイバー中継ソシャールラック・ラッドを発つ頃――

 小惑星アステロイド帯宙域がにわかに慌しくなっていた。


 飛ぶ通信は、かつて救世の部隊を足止めするも災害から救い上げられた、評議会子飼いの防衛部隊のもの。

 その彼らがこのまま防衛軍としての面目が潰れるを良しとしない気概で、ある件調査に乗り出していた。


『そちらは発見には至らなかった様だな。なるほど、あの往生際が悪いと見える。』


「カベラール議長閣下のお言葉通りですな。あのトランピアエッジを率いたメンフィスとやら……帰還する術もない奴では、この宙域から簡単に逃げおおせるものではありません。」


『うむ。引き続き捜索を続け給え。クロノセイバーばかりに負担を掛けていては、それこそ防衛軍の名が泣くぞ? 』


「耳が痛いですな。イエス、サー!我ら評議会中央防衛軍は、かの敵対者捜索に引き続き尽力します! 」


 中央評議会防衛の要である旗艦ビックハーケンは、かつて疑心の部隊としてこの地への出向を命じられた救いし者部隊クロノセイバー――そこで覚醒を見る事となった英雄少佐クオンに多くのクルーを救われた艦である。

 防衛軍としても備えはあったはずの宇宙災害コズミック・ハザード防衛対応が、ものの見事に無力と化し……かのΩオメガフレーム改め蒼き閃光ブルーライトニングの到着がなければどこまで被害が膨らんだかは想像に難くない。


 そこよりの防衛軍は、対テロリズムだけではない対災害防衛部門でも専門家を交える徹底した備えに乗り出し、さらには救いし者部隊クロノセイバーから提供された災害防衛最新対応データも網羅。

 より一層の防衛強化を図っていた矢先である。


「各艦ローラーシフト航行にて、このセレス宙域をしらみ潰しにするぞ! これ以上民の安寧を脅かされるなど言語道断……早急にかの地球上がりと黙されるトランピア・エッジの頭目の男を捕獲する! 」


「散会……広域レーダー警戒を厳と成せ! 」


『『『『イエス。サー!! 』』』』


 今まで不甲斐無い配備で救世の部隊に水をあけられた評議会防衛軍。

 だがこの宙域で警戒を張るいずれの艦も、かの部隊に追いつけ追い越せとばかりに邁進を続けていた。


 それだけでも、救いし者部隊クロノセイバーが世に残した功績は計り知れないものとなっていたのだ。


 だが――

 災害防衛は兎も角としても、対テロ防衛などの経験は言わずもがな……一歩及ばなかった。


 遥かに続く深淵の宇宙そらの片隅にある浮遊岩礁宙域で身を潜める影。

 音も無く、かつて己が用立てた無人戦略兵装の残骸に紛れた救命ポッドが漂う。

 目標を、セレス宙域にある機動兵装工場であるS・A・Fセレシオル・アームズ・ファクトリーへと定め――


宇宙人うちゅうじん宇宙人うちゅうじん……平和に胡坐あぐらをかく宇宙人うちゅうじんどもが! 地球は米国の誇りを汚した貴様ら、このままですむと思うなよっ! 貴様らの仕出かした罪を俺は許す訳にはいかない――」


米国でも迫害に負けぬ強い心を持っていた。俺の掛け替えのない親友だったんだ。それをあの――ちくしょうめっっ!! 」


 ポッドの中で激しく憎悪をブチ撒けるは、不逞の部隊トランピア・エッジをそこへ展開した部隊長 メンフィス・ザリッド。

 地上上がりながら、この宇宙そらと言う世界で救命ポッドを乗り継ぎ生存したしぶとさは、彼の生い立ちが深く関係していた。


 新米国を名乗るトランピア派閥御用達の宇宙防衛軍……かの国が誇る独占的なまでに特化した宇宙情報と軍事力の塊たる組織からの出向。



 そんな彼の口から、孤独な宇宙そらの中で漏れ出していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る