第189話 ニベル管理民を救い出せ!決死の救出作戦!



 蒼き霊機Ωフレーム対災害兵装セイバーガーヴで防衛にあたる中、一陣とも言える微小惑星群の襲来を防ぎきった頃には各機動兵装もニベル宙域へと到着する。


 さらには事後承諾の様な通信を飛ばし駆け付けた艦が、即座に救助者搬送のためと巨大通信施設ニベルへ舞うや——

 慌てたのは英雄少佐クオンであった。


「エンセランゼ大尉、なぜ〈いなづま〉を〈いかづち〉より先行させた!? まだ微小惑星の脅威は過ぎ去っては——」


『だから、よ?クオン。この救命艦がいつまでも後方にいては、救える命も失ってしまう。それに——』


ではなくって? 』


「……はぁ——了解した! 確かに君の言う事には一理ある、が……無茶はするなよっ!? 」


 英雄少佐とて、妖艶な女医ローナが思考した目的で妹少尉クリシャを新部隊へと推し出した。

 が……同時に彼は今まで同様、自分達霊装機隊が矢面に立つ作戦をと思い描いていた。

 現に、そう部隊に属する者へは通達済みであったのだ。


 しかし——

 妖艶な女医の言葉で己が見落としていた点が脳裏を過ぎり、彼女への苦言では無く己へ責を科す方向の嘆息をこぼした。


 それは、宇宙特殊自衛小隊を含めた部隊運用上で肝心な……であった。


 そんな少佐の表情を見やる双光の少女ジーナが続いて通信を繋ぐ。

 すでに霊装機乗りとしての、一端の面構えを以って。


『クオンさん! 私のエクちゃんならば、Ω本機支援と救助シャトル直衞も同時展開が可能です! ウォーロック中尉の実戦経験不足分はカバーして見せます! 』


「……ああ、了解した。オレとΩオメガには頼もしいバックアップがいたな。ではジーナはウォーロック中尉バックアップとして、救助シャトルのピストン運行をΩオメガ本機と同時支援! 信頼しているよ、ジーナ! 」


『はいっ! お任せです! 』


 その頼もしい通信で、同時に英雄少佐の脳裏へ救急救命任務を熟す上での新たな基盤が浮かび上がる。

 以前の様な、戦う力を持つ者ばかりが中核となるのではなく……そのバックアップを果たす者も含めた救助作戦の全容。


 背を守る双光の少女に加え、新たな部隊発足を待つ妹少尉の存在こそがそれを呼び寄せたのだ。


「(ジーナがいれば、後ろにウォーロック少尉もいる。ΩオメガΑアルファ……そしてバンハーロー大尉やアシュリーだけじゃない——)」


「(そして皆がそこに揃うならば、今まで出来なかった新たな防衛線展開も叶う! )」


 蒼き英雄の双眸が爆ぜる。

 自分とΩオメガを含めた、宙域で救助活動に飛ぶ全ての仲間を組み込んだ対災害防衛構想の新たなる段階——

 それを思考しながら微小惑星第二陣に備え、恐るべき速度でシステムと作戦立案を進めて行く。


 英雄少佐の次なる指示までは、率先して命守る艦護衛に付く各機動兵装隊。

 程なく艦から発進する救助シャトル一陣に寄り添う様に、救いの女神シャムも残る二人の若手を引き連れ巨大通信施設へ気焔を上げ飛んだ。


「こちらクロノセイバー所属、救急救命部隊医療艦〈いなづま〉です。元ザガー・カルツ所属であるクジャレー・ネイビル投降兵よりの依頼にて参りました。現在ニベルを保護する方々へ——」


『……ク、クロノセイバーがっ!? まさか……なんとこれは——クジャレーの奴め、最高の支援部隊を引き連れて……! す、すまない——」


『こちらは元ザガーカルツ所属 スターチン・ベルガルーゼ大尉!聞き及んでいるだろうが、今ここにいるソシャール管理民は先にテロ屋に監禁された影響で命に関わる者が多数! どうか、恥を忍んで頼みたい……彼らを助けてやってくれっ! どうか……――』


 向かう中で妖艶な女医が飛ばす通信へ、神が降臨したかの歓喜を浮かべた銀髪の初老スターチンが吼える。

 己の事など後回しにしても、そこで生死の境さえ彷徨う管理民の救済を。

 嗚咽さえ混じった……食料を管理民へ優先した結果、やつれ細った懇願の眼差しで――



 それほどの民への労りを見せ付けられた救いし者部隊クロノセイバーが、動かぬはずはない。

 即ち……電撃救助作戦の本作戦開始である。



》》》》



 モニターへ映る深淵を、迫り来る出あろう影を想定し睨め付ける。

 それを踏まえた現存戦力による、対宇宙災害コズミックハザード防衛線配置を組み上げ通達する。


 さらにソシャール ニベルへと向かう〈いなづま〉の護衛の元、救助シャトル搬送を同時展開する事態は一刻の猶予もない故の判断だ。


「各員そのまま聞いてくれ! この電撃救助作戦は、今までこなした作戦の様な時間的制約以上のリスクが付き纏う! それを考慮した結果、現存する戦力を的確に配置する方向の布陣を敷いた——」


 皆への指示として、該当作戦布陣含む必須データを同時送信。

 各員も傾注する中で、ある意味佐官として初めての危機的状況に於ける現場指示を繰り出した。


「まずはオレとジーナのΩオメガ両機を、全域カバー可能な地点へ陣取らせ……その後方へΩオメガフォースとΑアルファフレームを配置! まずは微小惑星の大半をここで防衛する戦線を張る! 続いて——」


「現在すでにニベルへ向かう〈いなづま〉を中心に、Αアルファフォースは護衛を引き続き展開! そしてΩオメガに着くレスキュリオ機動支援チームは救助シャトル運行の際直衞へ……救助チーム含めた護衛をこなす! その際、エクセルテグからもヴァルキュリアを着かせて防衛力を増強させる! 」


 すでに己の為すべき事を悟る各員が指定ポイントへ散り、最後にΑアルファフォースへの遊撃的な対応を指示しようとしたオレへいつきが意見具申して来た。


『すんません……クオンさん、意見具申いいっすか? 』


「……参考までに聞く。猶予は無いぞ? 」


『ありがとうございます。その……以前イクス・トリムを救済した時の様に、俺がΑアルファで小惑星を止める——って手は使えないんすかね? 』


 手短に意見を述べさせれば、オレ自身も選択案件の中に入れていた策が飛び出した。

 だが——


いつき、思い上がるな。あの時はいくつもの奇跡が重なった故に、可能と判断した最終手段だ。そもそも今回お前が向かわんとするは、ソシャールへいとも容易く破滅をもたらす大自然の驚異——」


「加えて、現在巨大小惑星の精密観測がなる艦〈あかつき〉と〈ひびき〉が到着していないんだ。その勇猛さは別のベクトルへ向け、常に最悪を想定し……今何を為さねばならないか熟慮して任務に当たれ。いいな? 」


『す、すんませんした! 俺……配慮不足でした! 肝に銘じておきます! 』


 飛び出た意見へ勇猛果敢は買う方向で却下する。

 それはいつきが任務上少しでも事が優位に運ぶ様にと、彼なりに思考を必死で巡らせているから。

 さらに意見の後、それが分不相応と感じれば即座に誤ちを謝罪している。

 それこそが、彼の成長に必要なファクターだった。


 今のいつきに必要なのは、確かな情報と積み重ねた経験だ。

 だからこそ意見具申も許可した。

 誤ちを恐れず、そして己を過信せず——そうやって宇宙災害コズミックハザードに立ち向かう者は成長して行く。


 そんなオレ自身が経験した物を後進へ……この背を守る家族へ向け余す事なく伝えるのは己の使命でもあった。


「ではΑアルファフォースの配置について——」


 いつきとのやり取りを、黙して静聴していた仲間に謝意を視線で送りつつ——

 電撃救助作戦概要を伝達したオレは、機体をすぐさまひるがえして睨め付けた。


 各機動兵装も配置に付き、それに併せて〈いなづま〉が速やかなる救助活動へと進路を取る。


 救助者の数は500名。

 しかし……旗艦へと同行を懇願したクジャレーの話では、それらを今まで支え続けた元ザガー・カルツの搭乗員も含まれると聞いた。

 そちらの疲弊も限界のはずだ。


 もはや敵対していたなど関係ない。

 

 でなければ、救急救命の志士として名折れもはなはだしいから。


 そう思考していたオレを嘲笑う様な物体群が、モニター映像へ映り込む。

 言うに及ばず——それらは視認した時点で、すでに驚異と認定される速度で迫っていた。


「各員、警戒せよ…… 残り微小惑星群が迫っている!さらにその遥か後方、慢心せず事に当たれ! ——では……対宇宙災害コズミックハザード防衛任務をフェイズ2へ移行! 各員、散れっっ!! 」


 言うが早いか、オレは再びG・Pグラビティー・パラゾレート=スタッドをバラ撒き宇宙そらを舞う。



 後方で要救助者の元へ向かう家族の……知らないままに——

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