第188話 襲い来る危機、巨大小惑星の脅威



 禁忌の聖剣キャリバーンは最大戦速にて、巨大通信施設宙域へとひた進む。

 その旗艦に先立ち発艦した暁型第六兵装艦隊。

 さらにそこより飛ぶは、蒼き霊機Ωフレーム蒼の支援機エクセルテグ

 彼らは少なくとも事に対して慢心などはなく……準備に想定も危機的状況を踏まえた対応であった。


 そんな彼らの、想像を超える事態が巨大通信施設を覆っていたのだ。


「ジーナ、各旗艦へエクセルテグ経由で緊急超距離通信を! オレはすぐにこの対象危険因子群をE・Dエマージェンシー・ダスター1として、宇宙災害コズッミックハザード対応装備による被害軽減に移る! ——」


「このニベル公転軌道宙域はすでに、! このままでは、要救助者達の命さえ危うい! 急ぐんだ! 」


『了解です! これより旗艦及び先行する〈いかづち〉へ緊急通信、開始します! 』


 英雄少佐クオンが鳴り響く警告音に導かれてモニター視認した事態は——巨大ソシャールへと次々降り注ぐ微小惑星に隕石群の雨であった。


 巨大通信施設ニベル一帯は火星圏から木星圏の間の公転軌道に位置する小惑星アステロイド帯から、太陽の横道軸を中心に急な縦角度を取る長大な楕円軌道を有する。

 さらには太陽系全体の量子通信を初めとした通信波を一挙に集める目的に加え、資源確保を目的に小惑星アステロイド帯公転軌道を往復で突っ切る軌道となっていた。

 しかしその際ソシャール側で危険とされる微小惑星群回避がなされ、通常重篤な危機に陥るのは稀であったのだが——


「この公転軌道……なるほどニベル軌道へ侵入した小惑星は! それが異常なまでの微小惑星を〈オールトの雲〉より引き連れた——クソッ! それがこれだけの被害の要因か! 」


 歯噛みしつつもで対宇宙災害コズミックハザード防衛装備を展開する英雄少佐。

 彼が叩き上げ議長ハーネスンより緊急であつらえられた、〈通信ソシャール ニベル軌道 天体運行図〉から導いた解は……巨大通信施設の公転軌道上へ数年前より突如として浮かび上がった巨大な影の正体。


 それは外宇宙から飛来した小惑星。

 さらに太陽系へ侵入する際横切った〈オールトの雲〉宙域で、大量の微小惑星群を従えていた。

〈オールトの雲〉は太陽系最遠一万天文単位から十万天文単位弱へ広がり、この星系でもっとも多量の小惑星を蓄える〈小惑星の巣〉と言われる地帯である。


 外来小惑星が太陽系へ飛来する場合は必ずその巣を突っ切る事となり、偶然それにより引き連れる無数の微小惑星によって被害が際限なく拡大してしまうのだ。


『クオンさん、つい今しがた臨時旗艦及び総旗艦へ緊急信号通信完了です!けどこの微小惑星の量は異常です! まさか——』


「ああ、ジーナの想像通りの経緯だろう! 今SSクラス小惑星がこの軌道上に存在する——と言う事は即ち、それがオールトの雲から大量の微小惑星群を拾い集めて……そのままニベル公転軌道へ捕らわれた形だ! 」


 巨大施設であるソシャールは、小惑星間を突っ切る軌道であったとしてもそこへわざわざ突撃する無謀は踏まない。

 たった一つの微小惑星襲来に、ソシャール壊滅さえ考慮する必要があるからだ。

 故にそれは小惑星を回避ないし事前に打ち払う行動を取りつつ、資源確保としてその軌道を通過する相反した事情間の綱渡りが必須なのだ。


 だが……大自然の脅威たる巨大小惑星は

 あまねく微小惑星の海を慣性の法則のままに突っ切り——そこに存在する無数の微小惑星を弾きとばし……また従えながら宇宙の旅路を行く。


 つまりはそれこそが、太陽系に於ける小惑星衝突と言う大災害の筋書きなのである。


 確認される微小惑星群の弾雨は蒼き霊機Ω・フレームで観測出来る下限サイズ。

 言うなれば、それより微小な物は観測上では見えぬ所で無尽蔵に降り注いでいる。


Ωオメガの観測にかかる物でもこの量……! 早々な特殊観測艦の〈あかつき〉到着が必要か! さらにその先には——」


 旗艦への通信を双光の少女ジーナへと任せ、蒼き霊機Ωフレームひるがえす英雄少佐。

 機体へ事前対策として備えた対宇宙災害コズミックハザード防衛装備……換装システム〈セイバーガーヴ〉へ強化増設された傘上重力鋲グラビティー・パラゾレート・スタッドをありたっけばら撒くや最終防衛線を構築する。


 が——


「くっ……E・D=1ゾーンが近付き過ぎている!? これでは守護対象を守りきれない! ジーナっ! 」


『了解です! エクちゃんのヴァルキリージャベリンを緊急展開——E・D=1破砕支援を敢行します! 』


 今までの比では無い状況が英雄少佐へ焦燥を生んでいた。

 降り注ぐ微小惑星群の広がる範囲に対し、護衛に当たる巨大ソシャール一個体の防衛規模はいくら霊装機セロ・フレームと言えど手に余る。



 まさに、救いの旗艦率いる後詰め部隊との合流が急がれる事態であったのだ。



》》》》



『こちらニベル宙域より、ジーナメレーデン! キャリバーン及び〈いかづち〉へ緊急通達! 当宙域はすでに宇宙災害コズミックハザード危険度 クラスSの只中!』


Ωオメガ本機とエクセルテグで防衛線を張るも、未だ被害沈静化は絶望的!よって両艦の早々の合流による連携を要請します! 繰り返す……――』


「なん……了解した!これより〈いかづち〉は速やかにそちらへ合流する!」


 その報が届くや歯噛みしたのは救いの猛将俊英

 総旗艦たる禁忌の聖剣キャリバーンより先行していたとはいえ、それさえも間に合うか否かの事態が英雄少佐クオンらを襲っていたいたから。


「暁型兵装艦隊は全速前進! これより可及的速やかに、ソシャールニベル宙域へと向かう! Ωオメガフォース及びΑアルファフォースはこちらを待つ必要はない……最大戦速でサイガ少佐の援護へ向かえ! 」


「このままでは、救急救命艦が到着したとて! 手段は選ぶな……何としてもソシャールへ飛べっ!! 」


 常に最悪を想定して事に当たる救いの猛将。

 だが己の口にした言葉は、彼らにとっての屈辱的な敗北と同義。

 救うはずの命を救えず……結果数多の亡骸との対面を迎えるなど、救急救命任務に於ける戦果としては最低だった。


 故に猛将は、先行調査に出た双光の少女ジーナよりの通信が届くや機動兵装部隊への急行を指示した。

 守護対象へ特定方向・超広範囲で飛来する微小惑星群を、機動兵装の数に任せた防衛線を張る事前策の元に。


「了解した! Ωオメガフォースは直ちにソシャール ニベルへ急行し、Ωオメガの対災害防衛支援に付く! ウォーロック少尉、分かっているな——」


「現時点では少佐が提示した部隊は実験段階……故にこちらの指示通りに動いてもらう! 」


『了解であります、バンハーロー大尉! 先の訓練通り……いえ、それ以上の厳しさでお願い致します! 』


「フフッ……良い覚悟だ! では、ディン……パボロも私に続け! 」


『『イエス。サーっ!! 』』


 異なる部隊とは言え、羨望ある新人教育を任された鉄仮面の部隊長クリュッフェルが厳しさ乗せた指示を飛ばし……それに答える様に妹少尉クリシャも一層の活躍を面持ちへ覗かせた。


 緊急を要する有事の最中であるも……その気概こそが作戦精度上昇に繋がると信じ——

 Ωオメガ支援を担うエリート隊が気焔はしらせ先んじた。


 その猛きエリートを追うはΑアルファフォース。

 救急救命隊を守る女性を目指す者達と、救命救命を熟す女神達である。


「いいわね!?シャム! こちらであなた達をしかと護衛して見せるわ! 今回の救助活動環境は過去最悪……けれどあなた達こそがそれを救い上げる力——セイバーハンズの底力を見せてあげなさいな! 」


『言わずもがなだ、アシュリー大尉! 救助者を救い上げて見せるさ! 』


『その、冗談で済ませてよ? それでなくても前例があるんだからね? 』


『あら~~。確かにシャム中尉の腕は一度折れてたわね~~。』


 変わらずのやり取りにも緊張が見え隠れする、オネェ中尉カノエニューハーフ少尉エリュトロン

 彼女らとしてもかつて赤き大尉綾奈と共に巡った解放戦線の記憶が過ぎったのか、過酷な戦場へおもむいた際の覚悟が双眸へ浮かんでいた。


 その彼女らともすでに家族同然たる救いの姉中尉シャム

 「肝に銘じておく」との返答の後男の娘大尉アシュリーを先頭に機体へとムチを入れる。


 それらを見送る救いの猛将。

 、猛将の心へ


Αアルファフォースとクリシャがいるならば、私も急行させて貰おうかしら?工藤艦長。どの道500名の救助者は、病床数からみても総旗艦へのピストン搬送が必須。ならば――』


『病床につけない救助者の負担を考慮し、時間短縮としてニベルへ〈いなづま〉を向かわせる方が得策と思うのだけれど。』


「……そう、だな。時間的な猶予をかんがみれば、それが最良だろう。だが、エンセランゼ大尉……君は医療の要だ。決して無謀な行動には出ないでくれたまえよ? 」


『忠告、痛み入ります。ではこれより〈いなづま〉はニベル宙域へと急行。各機動兵装隊の護衛の元、要救助者らの受け入れを含めた緊急対応に入ります。』


 救いの旗艦ブリッジモニターへ映る妖艶なる女医ローナの眼差し。

 、救いの猛将さえも一層のざわつきに揺れ——

 緊急事態であるにもかかわらず、救命救命のための指示を言い淀んだ。



 忠告を発する猛将を尻目に、命守る艦が機関にさらなる火を入れ宇宙そらを駆ける。

 今より救い上げねばならぬ、多くの救助者達の元へと馳せ参じるために——

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る