第183話 星霊姫の名の元に
新生アンタレス・ニードルの再結集。
そんな夢が叶うなんて思っても見なかった。
かつて星王国の意志を継ぐ者と、それを支援する者で立ち上げた反政府の象徴。
すでに現火星政府により解体されて久しかったそれが、核ミサイル搭載艦含めた軍艦隊に対して人道的立場による防衛線を張り巡らせていた。
それもあたし達が貫き通した、無用の死傷者を出さぬ矜持を以って。
『――以上が、太陽系中央評議会代表 ハーネスン・カベラール議長閣下よりの勅命概要である。よって……我らアンタレス・ニードルの防衛行動に意を唱えるならば、評議会の決定へ意義を唱えると同義である旨を熟慮し――』
『この場は速やかに武装解除の上、火星政府への撤退を要請する。撤退の意思さえ確認出来れば、こちらは旗艦らへのこれ以上の攻撃は一切行わない事を約束しよう。』
あたし達が核ミサイル搭載艦がいた宙域へ戻るや響くのは、懐かしく……それでいて聞き慣れたヨンの大切な叔父であるソウマ殿。
当時の組織を纏め上げていた堅牢なる御仁だ。
そのソウマ殿から、政府軍へと伝えられる警告文言に含まれるそれで納得がいってしまう。
何の事はない……あたし達の親愛なるあしながおじさんが、一芝居うってくれていたのだ。
すでに感謝をいったいどれだけ浮かべればと笑顔をモニターへ向ければ、ヨンの笑顔が返して来る。
その視線で、ソウマ殿の指示に従い撤退を始める火星政府軍を注視していた。
「ソウマ殿、その……お久しぶりです。」
大半が撤退したのを見計らった頃、駆け付けてくれた親しき御仁へと通信を送る。
その声に、僅かな驚きと懐かしさを込め微笑をモニターで返された。
『……ああ、息災でなによりだユーテリスお嬢。議長閣下のお言葉通り――よい目をして戻ったな。これまでは子供達のためとはいえ、漆黒の部隊に属しながらの従属生活――』
『ヨンお嬢のみならず、ユーテリスお嬢にも多大な負担をかけた。星王国と
「そんな……。膨大な借金があったとはいえ、あたしはザガー・カルツでその銃を同胞に向けていた身。お世辞にもそれを美化できる立場ではありません。」
口からスラスラ溢れる自責の念は、今までのあたしでは考えられないほどに素直に――そして清廉な気持ちで吐き出された。
それこそシスターたるヨンの前で今までを懺悔している様な、そんな気持ちにさえ駆られていた。
そこまでを口にし、彼らに新たなメンバーを紹介せねばとの思考に辿り着く。
言うに及ばず、今シュトルム・ブースターからのモニターに映る新しき妹の事。
何をおいても
「それよりもソウマ殿。今のあたし達に加わった新しい仲間を紹介しておこうかと。あたしが任務上で偶然出合った――」
任務上でと正体を濁したのは、リューデのロストドールであった時を考慮したもの。
ロストドールの存在は、人類にとって良い印象が持たれていない事が通説だったから。
その上で素敵な妹となった彼女を紹介しようと、デイチェの艦内にいるソウマ殿へとモニター映像を転送。
次いで当の本人へと視線を移したあたし。
それと同時に通信へと鳴り響いたのは――
『――の、私を……! この私をなめるなーーーーーっっ!! 』
聞き慣れぬ冷徹なる絶叫。
通信元は政府軍の旗艦と思しきそれ。
反射的にモニターへ視線を飛ばしたあたしの目に映ったのは……その旗艦から発射された高速移動物体。
すでに無力化した核ミサイル搭載艦からではない、旗艦へ偽装されていた最後の破壊の権化の姿だった。
「そん……な!? やらせるかっ!! 」
あまりの事態に反応が遅れるも、シュトルムの集束火線砲を辛うじて構える。
が――皆との合流地点へ向かう途中の射程ではすでにギリギリ。
そこで非常事態に反応出来た者は誰もいなかった。
『ユーテリスは万一に備えて~~狙撃準備をお願いします~~! 』
「……!? リューデ、何を!? 」
そう……誰もいないと思っていた中、すでにリューデは核ミサイル発射に対応していたんだ。
そのままあたしの返答も待たずに、シュトルム・ブースターが気炎を纏い
現在の彼女に於ける最上の得物……
》》》》
言うに及ばず、正式に古の姫達の姉妹と認められた事がそこへ由来する。
そしてそれこそが、彼女自身で見つけ出した命の証であり……同時に命の誕生にも匹敵する奇跡の出来事なのだ。
「ユーテリスとヨンのあんな顔~~二度と見たくはありませんね~~。これは踏ん張りどころです~~。」
彼女は核熱弾頭が人類を焼く事がどれ程恐ろしき惨劇かを、人類の姉妹となった者達から感じ取っていた。
同時にフワフワ少女に生まれた霊量子情報の糸が、遥かなる星の記憶庫へと繋がるや——脳裏へ流れ込む想像を絶する惨状で彼女の思考さえも焼き尽くされて行く。
人も動植物も、堅固なる建物までもが悉く灰燼と化した地獄。
生きながらえた人々が、生きているのが信じられぬ程の悲惨なる姿を晒す——地獄。
フワフワ少女は元々の生い立ちが由来し、人類が持ち得る大きな感情の変化は備わっていなかった。
そんな彼女でさえ……あまりに壮絶すぎる惨状が思考を支配するや、双眸に溢れる雫を湛えていた。
「
表情に口調は努めてユルフワ。
しかし双眸に宿る決意は確固たる輝きを顕とする。
もう彼女は、新たなる
「人の生死が
程なく
「そん……な……私が露国から用立てた力が! そんな——」
その頃——
当の破壊の権化を撃ち放った火星政府擁する露軍旗艦内……己が
力無く崩れ膝を付く冷徹な女官がそこにいた。
艦内で彼女に服従する艦クルーらも、訪れたあまりに呆気ない幕切れで絶句していた。
と……その機を逃すまいと、侵入を試みた新生サソリ隊がブリッジを占拠する。
非人道的行いが敢行される前にと発した武装解除勧告。
それを無視して強行策に打って出た、外道の輩を決して逃さぬために。
「……っ!? ここまで侵入を許すとは——ギ、アッ……!? 」
いち早く気を取り直した冷徹な女官だったが……彼女はその双眸で目撃してしまう。
大切な家族へ破壊の砲火を向けられた、
その憤怒の心情持ちて——
手にした実態弾式拳銃が火を噴き、女官の足を撃ち抜いた。
飛び散る鮮血と同時に、冷徹な女官が舞い飛ぶ影に腕関節を決められ抑え込まれる。
銃弾を放ったのはサソリの砲撃手。
抑え込んだのは
「本当は撃ち殺してやっても良かったけどね。シスターの手前それは勘弁してあげるわよ。それに、あたしの家族の子供達はそんな事望んじゃいない——」
「その弾丸の一撃はせめてもの情け。生体治癒ナノマシン含有弾だから、すぐに傷は塞がるけど……暫く痛みは取れないよ。」
「良かったわね、女官さん。ウチのユーがブチ切れてたら、すでにあなたの命なんて無かったからね? 少しはその痛みで、力無き者達の苦しみを味わうといいわ。」
訪れた刹那の捕獲劇に、対応出来る露軍兵はそこにはいなかった。
程なく戻る
火星圏廃ソシャールでの危機的事態回避を見た、反旗を翻した者達は改めてと穏やかな再会の言葉を交わし合う事となる。
「やれやれ……荷が重い所か拘束される顛末とは。また厄介な仕事が舞い込みそうで嫌になるねぇ……。」
訪れた一部始終を、離れた宙域の岩礁地帯で目撃していた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます