第177話 再始動の咆哮、アンタレスニードル
火星圏宙域で捲き起こる、小部族ソシャール防衛戦。
その情報はすでに火星圏地上の政府関連施設へと轟いていた。
「――以上があのバーゼラ共の護衛と現れた者達の全容です。いかがいたしましょう。」
『いかがも何もあるまい。こちらはあの星王国王族の生き残りを発見したとかで、懸賞金を懸け探し回る非常事態。そちらまで回す余力など存在せん。』
「了解いたしました。何とかこちらの部隊を手回しする事で対処しましょう。」
『任せた。では――』
火星衛星軌道上 連合国政府の擁する火星軍ステーション内部。
ダイモス宙域で作戦妨害勢力ありとの旨を火星地上政府へ伝えた将官と思しき男。
しかし地上部でも非常事態に奔走する連合国軍は、会話に織り込まれた王族の生き残りの件に執心のまま支援要請を突っぱねた。
結果、僅かのやり取りで切断されたステーション側に居座る軍部将官は舌打ちを響かせる。
「ちっ……いるかも分からない生き残りに軍の殆どを回し、さし当たって大問題たるバーゼラとのいざこざは後回しだと?火星を導く存在とは笑わせる――」
「いいか。バーゼラの民は生かせば
「心得ました、ロッテンハイム准将殿。」
配下士官と思しき男が一礼後、ロッテンハイムと呼ばれた将官を残し将官室を後にする。
その間も傲慢なる准将はモニターに映し出された二体の鋼の巨神を睨め付けていた。
時にしてそれより三時間足らず――
ダイモス宙域から
それはあの〈ピエトロ街〉を内包する宇宙のスラム、廃ソシャールである。
》》》》
議長閣下からの支援確約を取り付け、アンタレスニードル再結成の道筋まで立てた私達は一路――準惑星セレス宙域から早々に足を火星圏へと向けていた。
デイチェの航宙艇は武装こそ貧弱だけど、速度は
加えて――ブリュンヒルデがあの電波なクソ女の目を盗んで、フレスベルグから強奪したのはあたしの得物である機体後継となるお宝。
フレスベルグの格納庫では入りきらぬサイズで、艦の底部へ連結されていたそれ。
本体となるフレームと惑星間航行機とも言える高速艦が合体した〈
可変機構を備えた強襲砲撃型 高速戦術機だった。
「ブリュンヒルデもよくこいつを、あのユミークル監視下から盗み出したわね。あんたでも支配が及ばなかった旗艦制御面を統率したあいつ……悔しいけれど相当な練達者だったはずなのに。」
「そうですか~~? ですがこの機体には、それほど厳重なセキュリティはかけられてはいませんでしたよ~~? 」
「……って、まさか――そんな所にまであの隊長が絡んでたんじゃないでしょうね(汗)。」
いろいろ機能がオミットされた前のストライフ=リムより、今後の作戦上有益と判断した新たな相棒に搭乗したとこまでは良かったけれど……そこにヒュビネットが絡んでいるなんて考えたくもなかった。
そんなこんなで、シュトルムのコックピット内……妹の様な関係になれたブリュンヒルデとの会話に興じていたあたしの耳へ――
妬けた感マシマシの弄りが飛び交った。
『もう、ユーったら。久々に再会できた私達は置いてけぼり? こちらにもその、ブリュンヒルデちゃんを詳しく紹介して貰いたいものだわ。』
『デイチェも同感。さっきからその子とばかりお話してる。デイチェ達も話に混ぜて、ユー姐。』
「あーいや、ごめんって(汗)。そんなつもりは――って、紹介に関してはスラムの皆と合流してからでもいいでしょうが。」
『あら~~。私も早々のご紹介は感慨の至りですよ~~、ユーテリス~~。私と言う存在を、そこまで興味深々で感じて下さる幸せは~~何度味わっても素敵です~~。』
「――はぁ……。まあブリュンヒルデがそう言うなら。」
私の妹も同然な彼女が得ていた感覚は、まさしくあたしが今までこの子と接して生み出した感情であるのを知っている。
そう思考したら、そんな彼女の言い分を無視などは出来なかった。
同時に――自身がようやくかつてのスラムで皆と暮らしていた頃に戻ったのだなとの自覚と供に、それを口にする。
本当の意味で、ブリュンヒルデを家族として迎え入れるために。
「では改めて……この子はブリュンヒルデ・クウォルファー。あたしと同様、あのヒュビネットに利用されてた様なものだけど――」
「これからは私達、新生アンタレス・ニードルと〈ピエトロ街〉の新しい家族……リューデとして迎えたいと思うの。よろしくね、二人共。」
彼女が新しい人生を歩める様に、思いついた愛称はリューデ。
耳にした言葉で双眸を見開いたのは、古き家族だけではない。
かく言うブリュンヒルデも同じく双眸を見開いていた。
激しい感情など皆無の機械人形であった彼女が……双眸へ熱い物さえ湛えて――
『そっか。リューデ……素敵なお名前ね。私はヨン・サ。これからよろしくね?リューデ! 』
『うん、素敵すぎてデイチェもちょっと目が熱い物で霞んだ。デイチェはデイチェ。リューデ……よろしく。』
『はい……はい! 私はこれよりユーテリス達との家族――リューデです~~! これからもよしなに~~! 』
溢れる雫と、はにかむ笑顔のコントラストで確信する。
この子はもう兵器として使い捨てられる人形なんかじゃない……心を確と胸に据えた一個の生命だと。
私達の大切な……家族の一員であると――
》》》》
火星圏は廃ソシャール宙域に不穏が忍び寄る。
火星地上からの支援が絶望的と見るや、
地球圏より争いの因子をばら撒く地上国家の過激派へコンタクトを取り、ダイモス宙域の小部族ソシャールへと狙いを定めていた。
衛星ステーション設備内で極秘の会談が交わされる。
傲慢な准将と……地上は露の前支配者の流れを組む、レッテル付きの過激派〈プラーミア・リヴォリーツィヤ〉の首謀者との会談が。
「以上が、我ら火星は地上連合国家の敵対勢力の全容だ。だが真に弊害となる者などよりも、政府中枢は旧王国生き残りの敗残兵にご執心――」
「このままではまた、火星圏へ無用の戦乱が巻き起こるとも限らん。独裁的に且つ高圧的に接せねば、人は容易く無用の戦禍を拡大させる故な。返答はいかに? 」
「ああ、こちらとしてもその意見には同意しかありませんな。民主主義?ばかばかしい。それを推し進めて拡大した国家の、なんとも惨めな事か。」
会談に応じる
しかし蒼の双眸へ宿すは狂気の炎。
薄いブロンドを刈り上げる様は男装美女を思わせる。
常軌を逸した言葉の羅列を依頼了承と供に返納した。
「あなた方火星圏政府のご期待に添える様動く所存。なに……あの米国の過激派はポンコツを数撃てば当たるなどと思考していた様ですが、結果は散々らしい。我らはその様な
「昔から地球で他国家を黙らせる手段は一つです。何なら近場のソシャールで、それをご覧にいれましょう。我らが地上から持って上がった、核の炎を齎す破壊の鉄槌をね。」
地上の争いを助長する存在は言い放つ。
人類史上
視線の先のモニターでその標的となる物を、狂気の双眸で睨め付ける。
彼女らが見せしめとして核の炎で焼くそれを。
廃ソシャール……今もスラムの子供達が、ささやかな安寧に包まれる安息の地を――
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