第167話 戦禍の傷跡
深淵よりの使者は殊の外強大であり……霊機動力機関となる、
『
さらにはその浸蝕の牙は二人のパイロットにさえも伸びていたのだ。
『はっはーーっ!! よく持ち堪えたなぁ、赤いの! だがこっからが——あん?撤退だと?』
『——異論には背中から撃つも辞さねぇ……ってか。チッ……これからだったのによ。』
意識を飛ばす寸前でさえ、
その忍耐力は恐るべき深淵の闇を相手にしながらも、敵方が撤退を余儀なくされるまで凌ぎ切る奮闘を見せた。
すると恐るべき気配が嘘の様に霧散した狂気の拳が、改めて通信を投げる。
『おい、赤いの。今までの戦いは賞賛に値する。その機体名と、テメェの名を教えろ。』
「……機体、名は……アーデルハイド G-3。俺の名は……
『イツキだな?覚えたぜ。だが赤いのの名は気にくわねぇな。どうだ? 俺様がテメェの愛機へ名を贈ってやる。その赤き巨人——』
『宇宙の深淵の浸蝕でさえ耐え抜いた最強の勇者の名は……アーデルハイド・ライジングサンだ。どうだ?』
それは想定すらしないやり取り。
敵対者であるはずの存在が、
だがすでに限界に達する炎陽の勇者は、満足に答える事すら出来ず意識を飛ばす事となる。
そんな
背中越しに、意識を飛ばす少年の深層意識へと手向けを刻んで行く。
『〈イツキ。テメェは、今はその辺の恒星程度かも知れねぇ。が……いずれベテルギウスかアンタレスに匹敵する、赤色超巨星に化けんだろう——〉』
『〈そん時は、いつでもこの俺に……深淵の宇宙へ挑んで来やがれ。俺様は人類の概念には当てはまらねぇ存在だ。それまでは精々その拳を磨きあげるこったな。〉』
炎陽の勇者は確かに意識を飛ばしていた。
しかしその深層意識へと、深々と刻み込まれたのだ。
弱者を守るために立ち塞がった勇者を讃える、深淵の宇宙からの挑戦状が。
すでに
彼女が足止めを敢行していた、復讐姫の
最新機の端々へ刻まれた剣痕は善戦の証である。
「全く……。弱者を背にしたなら、死ぬ訳にはいかないとか豪語してたのは誰かしら? それで意識を飛ばして倒れてたんじゃ、元も子もないでしょうが。このおバカは……。」
呆れが口を突く男の娘大尉だが――
双眸はそれと対照的なほど穏やかに、炎陽の勇者の顔をモニター越しに見やる。
彼女も今回勇者が相手取った存在が、如何に強大なモノかを感じていたが故の労りであった。
すでに生命維持装置のみが起動する
男の娘大尉も盛大に息を吐きつつモニターを切り替え、辛うじて意識を保つ愛しき存在へと言葉を投げた。
「お姉様、後は私達にお任せ下さいな。責任を持って
『――ごめん、ね?アシュリー。あなたに……助けられる日が来るなんて――』
「無理をなさらないで、お姉様。今は少し、お休み下さい。」
柔らかな言葉が、今まで上官として気を飛ばすまいとしていた
あの
それを察知した男の娘大尉が……心酔する女性へ贈った精一杯の恩返しであった。
画して
それは
少なくとも今後……救世の志士達はそれらを纏めて相手にしなければならないと言う現実が、否応なしに事の深刻さへ拍車をかけていたからである。
》》》》
ヒュビネットへの一撃は、確実に敵部隊への致命打となったのは言うに及ばず。
あの厄介な
そんな中でも、オレ達の一撃が相当のダメージと察したヒュビネットの引きの速さは……相も変わらず鋭い判断。
加えて、操る得物も戦う場所も選ばぬと言う万能さ。
恐るべき相手であるが、そこには感嘆すら覚えた。
今まで噂でしか聞き及ばなかった、
「こちらクオン。ユーテリスにヨン・サ、だったか……この度は議員方の救助に協力して貰った事に、感謝しか――」
ザガー・カルツと、いつの間にか姿を消していたトランピア・エッジ。
その撤退を確認しつつ今回の協力者側周囲を観測。
ユーテリス達が締め上げた奴ら以外は、逃げ
状況終了と今回の功労者達へと通信を送ろうとしたのだが――
『ああ~~、英雄さん? あたしはその……元々敵対してた訳だし、いくら白旗揚げたからって無罪放免て訳にもいかないでしょう? て、訳で――』
『あたしに力を貸してくれたヨン達はそもそも、ザガー・カルツとは無関係。だからあたしはすぐそっちへ投降するんで、軍規上の対応で拘束でもなんでもしてもらえないかしら? 』
律儀に己が敵対者であった事実と供に、軍規に
通信の端で喚く声は恐らくヨン・サと言う女性だろうが、彼女の意見に納得がいっていないのは明白だったが。
かく言う自分もアーガスの一件が頭を過ぎり、同時に己の権限を高を照らし合わせる。
今なら自身の正当なるわがままも押し通せると――
「残念だが、君にはすでに国際救助のために尽力してくれた協力者として対応している。そんな相手へ蒸し返す様に、白旗を揚げる以前の戦犯罪状を引っ張り出す訳にもいかない。」
「それにそんな事をすれば確実に、当の命を救われた議長閣下からの厳しい叱責が待っている。オレも責を負う立場となって早々、閣下からの批判に晒されたくはないんでな。」
『いやっ!? でもそんなわがままが通る方がおかしいでしょう! そもそもあいつ――アーガスはすでに、あんた達クロノセイバーの捕虜なりなんなりとなってるはずじゃない!』
彼女は少々の軍事関連状況には明るいのか、想定される元同僚の今を推定で口にした。
本来ならばそれが筋。
アーガスにユーテリスは軍規上の措置にて、戦犯の罪状付けされて
けど――今世界を襲う事態は、一般的に通用する常識を超え始めている。
そんな中では最早、通常の軍規など役に立たない現実さえ考慮しなければならない。
だからオレは敢えて、彼女の同僚に対する扱いを伝達する。
きっとあの
「アーガスは我らクロノセイバーへ敵の捕虜としてではなく、ウチの
「今彼は簡易監視付きではあるが、あの皇子殿下直々の護衛の下……自らの進退を決め部隊を離れた所だ。それに
『な……んなの、それ!? ゲストって……!?』
いろいろと反論があっただろう事は理解している。
だがオレが伝えた言葉がよほど想定外だったのか、モニター越しでも驚愕しているのが確認できるな。
すでに我らも帰投指示が飛ぶ中、山積みの事後処理も待っている。
そこでこんな離れた場所での問答もなんだと、彼女ら協力者達を旗艦へ招待する算段を付ける。
あくまで国際的な、協力者を迎える体で。
経緯を
晴れ舞台を飾った
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