第164話 貫く意志の代償は……
メインカメラを失った
「見事だ、少佐殿! では我らセイバー・ハンズも負けてはおれん——各機機体出力全開にて、要救助区画へ飛べっ!! 」
『『『『アイ、マムっ!! 』』』』
その進路へ舞い飛ぶ
六条の白と赤が
さらに今回、
それらを収容するべく、救急救命隊旗艦である〈
並み居る非常事態も数多
そんな歴戦の女神が率いる救いの部隊は、一糸乱れぬ統制が敷かれていた。
否——
ただ一人……いつになく感情の
隔離区画。
そして〈ピエトロ街〉の子供達を代表する男の娘……デイチェの駆る航宙艇が、救助隊を議員らの救助が容易な開けた区画まで誘導する。
『こちら〈アンタレス・ニードル〉の協力者、デイチェ・バローニ。これよりあなた方を誘導する。』
「ああ、それは助かる! 要救助者のいる区画に到着次第、我らが誇りある救急救命隊を展開させる故……その間の警戒を要請する! 」
『ん……。デイチェは了解した。健闘を……。』
無人機を相手取り奮戦した航宙艇は各所へ被弾の傷を刻むも、パイロットである
それだけでも、彼女――姿が少女そのものに見える男の娘な彼が……古くから火星圏反政府組織たる〈アンタレス・ニードル〉に所属した感を覗わせた。
が、救いの英雄もその様な点は一救助隊隊員である手前と……無用の詮索を廃して感謝を贈るに止めていた。
程なく隔離区画の開けた場所に到着するや、モニターで案内を買って出たピエトロ街の希望へ敬礼を贈ると速やかなる救助活動に入る。
「よし、状況を確認した! ここならば後方の〈
『はい~~。お安い御用なのです~~。』
いつの間にかモニターでピエトロ街の希望と視線を交し合っていた人ならざる少女が、彼女との奇妙な意思疎通を見せ――代わりにと返礼を口にした。
すでに光学映像で
隔離区画内では、ピエトロ街の希望から案内を引き継いだ〈
機体を降りた救いの女神らが、最低限の救急救命道具一式を引っ提げ救助区画深部へと急行した。
そこにいる誰もの視界から外れた場所……討ち取ったはずの無人機が、人知れずアイカメラへと最後の光を灯す中で――
》》》》
申し訳程度の宇宙非常食を与えられていたとは言え、長引いた軟禁状態が彼等の健康状態へ追い討ちをかけていたのだ。
そんな状況で一週間近くを過ごしたのはもはや奇跡に近く……まともに歩行する事すら困難な議員らも少なくはなかった。
「これより我らセイバーハンズがあなた方を救急救命旗艦〈
「とんでもない。あなたが――救いの英雄 シャム・シャーロット殿がここに現れた時点で最早奇跡。後少しの所ならば耐え抜いて見せよう。だが――」
「私は最後で構わぬ故、どうか……今立つ事もままならぬ議員らを優先して救助してはくれまいか? 」
「カベラール議長閣下……。あなたはやはり、この
救いの英雄の視界には、他の議員らを励まし続けた
しかし彼はそれでも、同胞の救助優先を申し出た。
そこに議長の過ごして来た半生の経験と忍耐力が顔を覗かせる。
議員らはあくまで一般の
だからこそ彼は己を後回しにしてでも、一刻を争う議員らの救助優先を申し出たのだ。
救いの英雄としても、その様な軍人やそれに連なる者達を幾度か目にして来ている。
そんな心意気を見せられれば、提示された条件を汲まずには居られなかった。
画して要救助者が次々と
歩くのもままならぬ議員を、
「む……重傷者は私が受け持つ。そちらの患者はすぐにICUへ。」
「だいじょうぶなのだ? 議員さん。ピチカがお体をシッカリ見てあげるのだ! 」
部隊旗艦より、要救助多数との指示を受けた〈
救助者へ応急処置を施した後、部隊旗艦である
多くの命を預かる救急救命隊の今後を
『いいわね?二人共。全員の診断状況を随時こちらへ転送し、重傷者の経過観察は怠らない様努めなさい。特にピチカ……今のあなたにはまだ早いかも知れないけれど――』
『それでも今後、今回の様なケースが幾度と無く襲う事もあり得るわ。そこでシッカリと現場を学んで来るのよ? 』
「む……委細承知。こちらはお任せ下さい、エンセランゼ大尉。」
「ピチカもりょーかいなのだ! 」
部隊旗艦の病院艦からの通信にて、妖艶な女医が彼女達へ厳しくも優しい指示を飛ばす。
「こちらシャーロット中尉だ! 要救助者全員の救助を確認した……これよりセイバー・ハンズは〈
事を終えた救いの英雄は、隊員の機体搭乗を確認すると……その
そこまでは無事に事を終えた――
しかし……誰もの死角となるそこで浮遊する無人機の残骸が、無重力の中 慣性の法則のみで漂っていた。
否――すでに撃破されたはずの機体が、僅かに生きていた回路で敵を認識していたのだ。
片腕となったそれが、錆付いたブリキ人形の様にギギィと重機関砲を
そのターゲットとなったのは――救いの御手隊長機。
直後放たれたマズルフラッシュ。
飛来する弾丸の雨。
救いの英雄は己がそんな弾幕の標的にされた事など気付くはずも無い。
救急救命専門の機体には……敵の攻撃対象となった事を示す警告システムは搭載されていないのだから。
「姉様をやらせるかーーーーーーっっ!! 」
それを――
たった一人、その宙域で発見した者がいた。
そう……他でもない救いの英雄の妹であるクリシャ・ウォーロック少尉だ。
だがしかし、彼女がそれに気付いたとて……元来人命救助専門の機体でそれに対処する事など不可能である。
であるはずが彼女の機体には――敵対勢力兵装殲滅システムと、それに必要となる武装が装備される。
妹少尉は独断にて、その兵装を機体へと搭載していたのだ。
無人機の放った弾幕は目標を打ち抜く事無く、死に体であった
迷いなき弾幕に――その胸部と動力部を打ち抜かれた爆散によって。
『ご無事ですか!?ねえさ――』
妹少尉は無我夢中。
故に気付くのが遅れてしまう。
その行為が――姉である救いの英雄の逆鱗を擦り上げてしまった事に。
「……クリシャ――何だそれは。誰がそんな許可を出した?人命救助の機体に、人命を奪う武装を搭載する許可を……一体誰が出したんだっ!?」
『これ……は。その――』
迅速な人命救助で事なきを得るはずであった
それが救急救命隊に属する妹少尉の行動で、怪しい雲行きが立ち込める事となったのだ。
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