第163話 漆黒を断つ、ブルーライトニング



 それは蒼き閃光。

 禁忌と呼ばれた終焉を呼ぶ機体。

 誰もがそう称して疑わぬ存在であった。


 だが――

 その禁忌の機体は、二人の心在りしパイロットと供にあった事で生まれ変わったのだ。



 救うべき弱者の下へと閃光の如く駆け付ける蒼き霊機。

 ――Ωオメガフレーム グラディウス ブルーライトニング――



》》》》



 小惑星アステロイド帯宙域。

 今も要救助者である評議会議員らが救出を待つ隔離区画にて――


 舞い飛ぶは二条の蒼閃と漆黒に付き従う復讐の女神。


 救助者がいるそこへ救急救命隊たる救いの御手セイバー・ハンズを導くため、禁忌と呼ばれた蒼き霊機Ωフレーム先鋭機エクセルテグにて奮戦するは英雄少佐クオン双光の少女ジーナ

 対し……漆黒を纏い、多脚砲台から人型へと変幻自在な砲戦騎クリューガーにて光学戦車砲をばら撒くは漆黒の嘲笑ヒュビネット

 その後方支援に付く、華奢な体躯も備えた重装火砲は宙域にいるどれをも凌ぐ復讐の女神エリュニス――背部から延びたそれが多段連装砲を髣髴ほうふつさせる機体を狂気の狩人ラヴェニカが駆る。


 数にしてたった四機。

 しかしその宙域を飛び交う十字砲火は、大隊規模のフレーム型機体による全力衝突とさえ思わせた。


「ジーナ、後方支援……ラヴェニカ機の火線砲は侮れない! あの対艦奇襲専用のハーミットは、この形態を隠す偽装だったと言う訳か――」


「あくまでヒュビネットのゲームとしての駒――それも彼女はある意味、奴の隠し玉だろう! ならばこそ、君の協力が不可欠だ! 」


『こちらでも確認しました! 確かにあのハーミット時に比べ、重装火砲支援兵装はそのまま――けれど重装甲と引き換えに得た運動性能……ヒュビネット大尉の乗機 クリューガー・Sの弱点を補うには充分の動きです! 』


 漆黒ヒュビネットは旋回・回避において、鈍重の部類に入る蒼き霊機Ωフレームの対災害救済兵装仕様を捲くるため……本来岩礁宙域での多角的な変則機動こそが真価である多脚砲戦機体を直線的な機動力へ特化させた。

 鈍重な機体であればそれだけでも、交戦時に絶対的優位を確保する事も叶う。

 が――

 裏をかかれた形の漆黒の機体は、今まさに蒼き霊機Ωフレームが得た対敵勢力制圧を視野に入れた武装と……その兵装を活かす形でロールアウトした蒼き先鋭機エクセルテグの参戦で想定外の苦戦を強いられる。


 即ち……有利と想定し準備した機体調整で、蒼き霊機Ωフレームの後塵を拝する事となったのだ。


「こちらはΩオメガの相手で忙しい! お前はそのを相手にしろっ! 」


『了解……! ラヴェニカ・セイラーン、これよりΩオメガの片割れへの迎撃行動へ――』


 無人管制制御にて各個編隊が独立して隊列を組み、一個大隊同等の部隊砲撃戦を実現する蒼き先鋭機エクセルテグの〈ヴァルキリー・ジャベリン〉。

 すでに不逞の部隊トランピア・エッジの擁した無人機部隊が大敗を帰した事態をモニター端で眼に留めた漆黒が、自分に追い縋る狂気の狩人を従える事で辛うじて戦力バランスを保った状態でもあった。


 そこへ、漆黒の想定を上回る事態が訪れる。

 否――、彼は求めていたのかも知れない。


 突如蒼き機体らへ、一層の煌きが走り抜けると――

 蒼き霊機Ωフレーム蒼き先鋭機エクセルテグが……急激な加速機動を開始した。

 そしてそれを光学映像で漆黒は、狂気に憑かれた様に口角を上げる。


 漆黒の砲戦騎ブラック・クリューガーの光学映像より――


Ωオメガ……っ!?――くおっ……!!?」


 刹那、襲う無数の衝撃。

 漆黒は衝撃の襲い来た方向を、メインカメラで捉えんとするも……追えるのは蒼の残光のみ。

 そこで漆黒は理解する――理解してしまう。

 彼は蓄積した情報から、蒼き霊機Ωフレームが現状発揮出来る機体限界性能は60%が関の山と踏んでいた。


 そう――その本来の60%に止まる機関出力が今、彼の策略を脅かす脅威へと変貌したのだと。


「クククッ……! Ωオメガ――禁忌を体現する者よ! それこそが人類へ破滅を齎す、因果調律の使者の姿――」


「それを扱えると言うならば見せてみろ! お前達がその資格を真に持っていると言う、相応しき戦いの全てをっっ!! 」



 英雄少佐と双光の少女……対する漆黒の嘲笑と狂気の狩人。

 小惑星アステロイド帯宙域を揺るがす因縁の戦いは佳境を迎える事となる。



》》》》



 機体の性能は現状での限界。

 それをギリギリの状態で保ちつつ、ジーナの駆るエクセルテグとの同調も最大とする。

 同期双交増幅加速シーケンシャル・ツイン・アクセラレートは、偏芯回転機関ロータリックリアクターが発する統一場クインティア・フィールドをエクセルテグ側とリンクさせ――限定的な時間・空間内での量子テレポートを応用し機能する機関エネルギーの連続量子加速交流機構だ。


 これはメインとなるΩオメガフレームがエクセルテグからの管制制御を受け付けるため、一定の距離内でいる必要がある点を利用した強制出力ブースト機構とも言える。


 当然未だ100%の性能を発揮出来ない関係上、あくまで全体を底上げする程度の加速だが――……一般的な機体の追従速度ではもはや捕捉する事そのものが困難となる。


 それこそ同じ霊装機セロ・フレームであるΑアルファフレームやいつきの持つ能力でもなければ、事実上勝敗は決した様なものだった。


「そちらはどうだ、ジーナ! 心身は良好か!? 」


『大丈夫……です! もう、大丈夫――心が……身体が行けると言ってくれてます! 』


 これはΩオメガフレームが単機であった際、ジーナの不調を感じた故そこからの機体アップデートを中断していたもの。

 当時の彼女では肉体的に極めて危険な事態に陥る事を考慮しての判断だった。

 しかし現在――彼女の搭乗を前提としたあのΩオメガエクセルテグの装備が、今は覚醒間も無い彼女の肉体的な不足分を補佐してくれている。

 ジーナ自身の成長度合いに合わせてその補佐レベルを可変させる、対高G特殊制御コックピットの存在こそが……機体の限界ブースト制御を可能としたのだ。


 Ωオメガフレームとエクセルテグの機体反応速度がリンクする様に、今まででも最高の値を記録する。

 自身でさえ味わった事のない未知の加速領域――いくら天才エースパイロットと言われた漆黒ヒュビネットでさえ、それを捉える事が叶わなくなる。


 同時にこの機体運動領域ではすでに、生身での目視による敵狙撃にも限界が出始める。

 即ち……Ωオメガフレームが加速すればするほど、人間が反応出来る知覚領域から遠ざかると言う訳だ。


 けれどその対応策は準備していた。

 言うに及ばず、切り札。

 さらには切り札の具体的な展開方法も言わずもがな。

 オレが、五感を超越した感覚にて宇宙を感じる手段。


 いつきがした様に――双眸を閉じて感じるままに世界を宇宙そらへと向ければ……きっと彼も見たであろう騒がしき素粒子の真空が身体を支配する。

 宇宙そらを感じ取ったなら、後は愚発的にではない……己の意志でその重なりし者フォースレイアーの力を発動する。


 ――宇宙そらの騒がしき真空を支配するんだ――


「ではヒュビネットへ見せてやるとしよう、奴の手駒の様に躍らされて来たオレ達が……そのノド元へ食らい付く戦いをっ!」


「≪――宇宙そらは、我なりっっ!!≫」


 宇宙そらと重なるための魂の霊言、〈フォノンワード〉を自ら放つ。

 それが宇宙そらと繋がると言う宣言だ。

 刹那――脳裏に流れ込むは、膜宇宙ブレーン・スペースの神秘的な次元層。

 数多の輝きとドス黒い情念渦巻く小惑星アステロイド帯が、通常の知覚領域では決して見えぬそれを映し出す。


 そこで一際強く宇宙そらを歪めていたのは――漆黒ヒュビネット

 驚くほどに一片の輝きさえ宿さぬそれに、オレは恐怖すら覚えた。

 そこまでを超感覚で感じ取った事で、オレは理解してしまう。


 エイワス・ヒュビネットと言う男は、

 それも彼自身と言う概念を遥かに凌駕する……――


 だからこそ――


「エイワス・ヒュビネット……受け取れ! これが人々の人生と希望を背負う、蒼き因果の一撃だっっ!!! 」


 エクセルテグ制御にて舞い飛ぶ量子の妖精乱舞を従え、Ωオメガフレームが構える対敵対勢力制圧兵装 〈ガン・エッジ〉ビーム・ガトリングブレッドを変則機動でばら撒くと……刺突の構えで奴の機体目掛けて限界加速。

 それを阻まんとするラヴェニカの新型機も、妖精乱舞に紛れる無数のビームブレードの突撃が排除。



 強制通信により叩き付けられる奴の禍々しき狂気を打ち払うが如く……〈ガン・エッジ〉の刃となるビームエッジを、ブラック・クリューガーのメインカメラ部へと突き立てた――

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