第165話 赤き決意、救われた者……そして残された者



 英雄少佐クオン漆黒ヒュビネット炎陽の勇者狂気の拳マサカーが因果の戦いへと誘われる。

 禁忌の聖剣キャリバーン禁忌の怪鳥フレスベルグもまた、巨大艦同士の近接での打ち合いを繰り広げていた。

 さらには要救助者を保護した救助隊旗艦が、すでに藻屑となった無人機群の間を抜け——安全宙域へ向けた航路と取る。


 そんな宙域での、もう一つの戦場が今佳境となる。


「各機、旗艦と救助部隊のいずれへも奴らを向かわせるな! ここは我らΩオメガフォースの独壇場……傭兵如きに遅れを取るなどエリートの名折れ――奮起せよっ! 」


『了解でさぁ、隊長! しばらくなかった活躍の場で、そんな腑抜けは見せられませんぜ! 』


『パボロの言う通り——あの無人機群をジーナ嬢が一掃して、思いましたがね! では……行きましょうかっ! 』


 旗艦の護衛に着くも、まさかの近接対艦戦闘と言う特攻——軍部エリートで構成されるΩオメガフォースが傭兵隊を相手取る。

 すでにファクトリー戦で一手交えた両雄……しかし今回はいずれも状況が違っていた。


 方や先の戦闘を凌駕する頼れる得物を与えられ、Ωオメガフォースの名の下に正式な軍の任務に相応しき防衛の要を任された者達——方や同じく新たな得物を手中にしながらも、傭兵隊としての動きに制限がかかった連中。


 そして数に於いて確実に劣勢の渦中へと放り込まれたのは、漆黒の指揮する部隊ザガー・カルツの傭兵達である。


「クソがっ! やっこさんも新しい得物で登場とはな……しかもありゃ俺達さえ初見の高性能機だぜ! 」


『新・型・機っ……キヒヒヒッ! あたしが全部堕としてやんよっ! 』


『どうやら正規採用すら発表されてない極秘機体……それを先んじて救世部隊用戦力として配属したのだろう。なるほど——」


『あのユミークルとやらが離反した後に、突貫で間に合わせたと言う所か。』


「テメェは呑気に考察してねぇで、戦えよカスゥールっ! 、どんな無理ゲーだっ!? 」


 加えて、指揮系統が定まらぬ傭兵隊は言うに及ばず——

 各々が好きに暴れる現状こそが劣勢を助長させる。


 Ωオメガフォースが駆る得物 Εイプシロンフレーム〈シグムント〉は、軍部に於ける対抗争防衛戦略任務に特化させた新世代機。

 今までのA・Fアームド・フレームをベースとした汎用機を凌駕する機体性能は、この大規模抗争に匹敵する戦場でしかと誰もの脳裏に刻まれる。

 霊装機群にも匹敵する流線型シルエットを模す姿へ、広域指揮管制制御レーダー搭載のバンハーロー機を初め……中・遠距離砲撃戦武装を搭載するニキタブ機に――かの〈イクス・トリム〉救済作戦で真価を発揮した電子戦システムと光学砲撃兵装を備えるディン機。

 それを駆り対抗争防衛戦闘におもむくエリート部隊は、まさに水を得た魚である。


 あの鉄仮面の部隊長クリュッフェルがしたり顔で部下を従える様からも、彼らがどれほどそのクラスの戦力を待ち侘びたかが想像に難くない。

 多くの不貞の傍若無人に辛酸を舐めさされた彼らの、怒涛の反撃が開始されていた。


「おいっ……このアマ、何処に行きやがるっ!? 」


 Ωオメガフォースに押されながらも善戦を見せていた苦労人の隊長ニードは、機体モニター端に映り込んだ不測の事態を察して吠える。

 エリート隊を屠るために陣を組んでいた擬似霊装機神ストラフレーム 戦神姫カーリーが、突如あらぬ方向へと飛び去ったのだ。


『そちらの相手は戦砲騎クリューガーで事足るでしょう! 私は私のやるべき事を優先させて貰います! 』


「はあぁっ!? ちょ……ふざけんのも大概にしやが——ぬおっ!? も、戻りやがれ……ユウハ・サキミヤっっ!! 」


 エリートが放つ砲火を辛くも凌ぎ、苦労人の隊長が響かせた声も虚しく——

 戦神姫カーリーを駆る復讐姫ユウハは気炎を吐き飛び去った。



 今も赤き霊機Αフレーム鉤爪の悪魔デスブリンガーと激戦繰り広げる宙域へと——



》》》》



 戦神姫カーリーが向かう先に捲き起こるエネルギーの本流は、あたかも巨大重力源に引き寄せられたガス雲が赤外線をともない蒸発して行く姿を髣髴ほうふつさせる。


 巨大重力源であるブラックホールは通常永遠に存続する事は無いとされ、流入するガス雲を吸収するたび反応——事象の地平線となるそこより蒸発して行くと提唱される。

 その一部のエネルギーが強力なクェーサーとして放たれ、遥か彼方で恒星状の天体の様に観測されるのだ。

 光を吸収する特異点は光学的に観測する事が叶わずとも、クェーサーやその周囲を取り巻く赤外線計測にて存在が確認可能ともされる。


 それはまさに鉤爪の悪魔デスブリンガー赤き霊機Αフレームより、輝く陽光のエネルギーを吸収して行く様そのものである。


 守護宗家たるヤタ家を纏めるはずであった赤き大尉綾奈への、一方的な復讐に駆られる復讐姫ユウハは新たな得物をその当人が奮戦する場所へと向かわせる。

 さらに彼女の思考では、自身の復讐を邪魔立てする炎陽の勇者さえもターゲットに加えられていた。


神倶羅 綾奈かぐら あやな……我がサキミヤ家を見捨てた負け犬。そしてそれを邪魔立てするあの赤い格闘家——」


「マサカー?紅円寺?そんなポット出のエキストラに奪われてなるものか……。かつてお姉様と慕った神倶羅負け犬を討つのは、我がサキミヤ家を継ぐはずであった私——ユウハ・サキミヤだっ!! 」


 妄執に駆られた復讐姫。

 それに呼応した様に戦神姫カーリーも双眸をたぎらせる。


 元来擬似霊装機神ストラフレームと呼称される機体は、スーパーロボットに属するも神代の兵器である〈霊装機神ストラズィール〉と呼ばれる神機の様な霊格は宿さない。

 そのはずが……彼女の復讐心が宿った様に禍々しきエネルギーを放つのは、その名に秘められた神性がそうさせていた。


 機体がなぞらえたそれはインド神話上の存在、〈復讐の女神 カーリー〉である。


 炎陽の勇者狂気の拳マサカーが人智の及ばぬ戦いを演じるそこへ、水を差す様な横やりを入れんとした復讐姫。

 突如として襲う実態弾の襲撃で機体をひるがえした。


「なんだ!? ここまで来て私の邪魔をするのは——」


 苛立つ復讐姫の双眸——

 そこへ機体モニター越しに映り込んだのは……

 Αアルファフォースを名乗る女性を目指す者達であった。


『あら~~? 何処へ行こうってのかしらぁ? ——あいつが超えなけりゃならない戦いの場よ? 』


「邪魔だ……女! いや?その雰囲気は男か……。私はお前の様な用は無いっ! 」


『あら~~? で私のお株が奪われた感じだわ~~? それにしても、……そうそういないわねぇ~。』


『……エリュが私よりも先に突っ込みの口火を切るのも、そうそうないわね(汗)。』


 強制通信から送られる者達のやり取りは、復讐姫の神経を逆撫でする様な緊張感皆無の会話。

 己の目的を妨害された上での状況に、復讐姫もさらに憎悪を膨らませる。


「お前達の様なイロモノを相手にしている時間は、私には無い! 邪魔立てするならとっとと——」


『——誰がイロモノだって? 聞き捨てならないわね。なるほど、お姉様から聞いた通り……ってのは事実らしいわ。』


『……隊長がを言うの? 似た様なモノだったじゃない(汗)。』


『あら~~。見事に棚に上げたわ~~。』


『いちいちうるさいわねっ!? 』


 そんな憎悪もどこ吹く風の女性は男の娘大尉アシュリー

 ひり付く殺気さえもそよ風の様に受け流す。

 それは至極当然——同部隊のオネェ中尉カノエニューハーフ少尉エリュトロンが言葉で皮肉った通り……かつて彼女は故だ。


 それがいざ過去の自分と似た雰囲気を宿す者を目撃するや……哀れむ様に言葉が口を突いた。


『あんたは昔の私そっくりね。目的の方向性は兎も角……言い様のない復讐心で心が蝕まれ、目の前の事しか映らない。そう——』


『復讐と称し……神倶羅 綾奈かぐら あやな大尉を侮辱するあんたは、自分の事で頭がいっぱい。そんな輩が彼女をお姉様なんて呼ぶ資格はないわねっ! 』


「だから何だと言うのよ……この男女がーーーーっっ!! 」


 男の娘大尉の哀れみと言う言葉の刃は、復讐姫の心の底へと突き立てられる。

 それが起爆剤となった復讐姫は、爆発する様に接敵——戦神姫カーリーの二対四本の超振動ブレードを振り抜いた。


 が——


言うなら聞かせてあげるわ。所詮あんたは御家だとか口にしても、。けどお姉様は違う——」


「彼女が見ていたはね……! 誰かを救い守るために、あの人は人生を賭けているのよっ!! 」


 四方から襲う超振動ブレードの閃撃は、男の娘大尉仕様に仕上げられたΕイプシロンフレーム〈シグムント・ヒュレイカ〉の双銃でいとも容易く受け流される。

 続く刹那の砲撃が、復讐姫の油断を確実に撃ち抜いた。


「文句があるならこの私……かつて死神とさげすまれたアシュリー・ムーンベルクを——、超えられるものなら超えてみなさいよっ!」


翡翠色の救世者セイバー・オブ・ジェイダイト〉と称えられた大尉が今、己を救った恩人たる気高き女性のため——僅かの時だけ〈翡翠色の死神タナトス・オブ・ジェイダイト〉へと変貌する。


 さらに視線へは、彼女の深き闇を焼き払った炎陽の勇者への「こちらは任せて、思う存分戦いなさい。」との想いを乗せて双銃を乱舞させた。



 かつて

 互いが想った神倶羅 綾奈かぐらあやなと言う女性へ……真逆に向けて生まれた信念を叩き付ける様に——

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る