第162話 人ならざる少女は、新たな家族の下へ
「少佐殿! いったい戦況はどうなって――くっ……!? こっちにトランピア・エッジの新手が来てんだけど!? 」
『まずいよ、ヨン! あの地球上がりの奴らが大量の無人機増援を! 』
「バカっ……デイチェ! 通信は切っておいてと事前に――えっ……!? 」
現在救助保護を待つ評議会議員らを護衛するべく、
だが、戦場となる宙域から離れたそこへも確実に砲火の流れ弾が届いていた。
同時にそれはピエトロ街上がりの二人が、殺さずに昏倒させた敵勢力……その援軍を呼び込む時間を生み出してしまう。
「無人機の大量投入――これじゃ……これじゃ火星圏の戦場と何も変わらない! トランピア・エッジめ……よくも……! 」
「今は落ち着きな、ヨン! こんなとこで昔のアンタに戻るなんて、それこそピエトロ街の子供達が悲しむよ!? 」
導かれた惨状が、今火星圏を包む戦火を連想させ――その渦中で多くの子供達を守り抜いて来たシスターが歯噛みする。
同じく事をあらから知り得るサソリの用心棒も思いやる様に言葉をかけた。
その二人の警戒を跳ね上げさせたのは――
「くそっ、奴らが侵入者だ! この宙域の戦場は無様な邪魔が入り上手く進まん――そこでこちらまで荒らされては、トランピア代表に示しがつかんぞ! その二人を殺せっ! 」
「ちっ……! もう少し時間を稼げればよかったんだけど! ヨン、応戦! 」
「分かっているわ! 誰がこんな所でやられてやるもんですか! 」
突如として二人を襲う銃弾の強襲は、浮遊隔離区画近隣で防衛線を張っていた不逞の部隊の守備陣営 白兵戦人員。
彼らは議員らを監禁したそこへ侵入者ありとの報告を、今も
戦術的には各々が好きに立ち回る
その裏では、情報面支援と言う形で漆黒が宙域を操っていたのだ。
すぐさま応戦する
ここに来て――アサシンシスターが身軽になるために、護身用の武装をほぼ破棄してきた事が裏目となる。
「ユーと一緒ならこの程度のミッションも楽勝――そんな考えを抱いた自分を恨みたいわね! 侵入した場所に殆ど武器を置いて来るなんて、とんだ凡ミスよ! 」
「それはこちらも同じよ! まさか国際的な人命救助が宣言された状況で、そこへの問答無用の攻撃をかける
対となる機械柱へ供に身を隠した二人――銃撃に移るサソリの用心棒を尻目に、思わず己の判断ミスへ後悔を浮かばせるアサシンシスター。
少なくとも、
国際救助の旗印はそういう時にこそ証として掲げられるのだ。
その
『――ヨン、ユー姐! マズイ事になった! トランピア・エッジの残党がこちらに眼を付けた――感付かれたよっ!? 』
「ディチェ、そっちは何とかして! こっちもその一部に絡まれた所……身動きが取れない! 」
さらに飛ぶ通信は、
国際救助中立区となった場所を、問答無用で戦火に巻き込む地上上がりの部隊の所業。
それは地上の同胞に対する大きな偏見を植え付けるには充分過ぎる愚行である。
まさに後を断たれた双子の闇サソリ。
その絶望を破ったのは――場を全く読まぬ様な、ゆるふわな通信の響きであった。
『大丈夫ですか~~ユーテリス~~。これより私が、支援しますぅ~~。』
「……って、はぁっ!? なんでブリュンヒルデがここに……今フレスベルグの機関制御最中じゃ――」
『ああ、それはブッチしちゃいました~~。どの道~~ユミークルが全て乗っ取った様な物なので~~。それに――私を大事にして下さるのは、ユーテリスしかいないのですよ~~? 』
届くその声で、アサシンシスターまで気が抜け落ちる。
そんな危機的状況の二人の視界――隔離区画の通路上にある強化複合ガラスの外。
陽光を煌かせて舞う一隻の高速戦闘艇が、
「ブリュンヒルデ……それ――」
『はい~~。ユーテリスといたいがために、ザガー・カルツから拝借して参りました~~。』
鋭き剣の如きシルエットのそれは、あの
サソリの用心棒が侵入口に待機させた機体と供に、彼女達の眼前に堂々と姿を現したのだ。
》》》》
ユーテリスからの通信で絶句してしまう。
あのトランピア・エッジを名乗る部隊は、非人道兵器である無人機を大量投入するだけでは飽き足らず……国際救助の旗提示により中立区として指定された場所への武力行使を敢行したんだ。
「バカなっ……国際救助旗 提示の意味さえ知らないのか、あの部隊は! 」
こちらはすでに漆黒の
無人機はジーナの活躍で増援を確実に屠った訳だが……それでも未だ〈
加えて——
そんな状況へ拍車をかけるのは、漆黒の傘下であった事が確実な傭兵隊。
旗艦さえフレスベルグと近接対艦戦闘に移るという未曾有の戦況。
もはや人命救助と言う大義名分も吹っ飛ぶ、凄惨な戦火が広がりつつあった。
『クオンさん、隔離区画宙域へアンノウン反応——えっ!? これは……アンノウンが隔離区画宙域の無人機群を一掃しています!』
「アンノウンがだと!? 一体何が——」
ここに来て要救助区画である場所に現れたアンノウンの存在は、さすがに自身も詰んだかと絶望すら過ぎったが——
それがまさかの無人機一掃と言う、良い方への事態急変を呼び込んだ。
さらに直後ユーテリスより、この戦場をあるべき状況へ導く決め手となる通信が放たれる。
『こちらユーテリス! 今そっちの反応にアンノウンがいるでしょう!? それはあたしの大切な家族の機体――識別コードを送らせるわ! こっちのヨン・サ戦力側の高速艇コードも併せてね! 』
「——確認した! なるほど、そう言う事か! ヒュビネットが準備した戦力の一部が、君らの反旗によってこちらの戦力と化したと! そちらの、シスターの仲間の船は言わずもがな——」
「すぐにそのコードを旗艦と共有する!救助隊たるセイバーハンズ到着まで、何とか持ち堪えてくれ!」
『いいわ、了解よ! 希望さえ見えれば、やりようはいくらでもある! 議員方を救い出しましょう! 』
溢れかえる絶望の因子をひっくり返すは今。
何よりオレ達が優先すべきは救うべき救助者だ。
例えヒュビネットの
モニターへ、すでに救急救命の同志の如きしたり顔を覗かせたユーテリスへ首肯。
すぐさまその宙域への進路を完全にクリアとするため――それを成す事の叶う愛しきパートナーへと咆哮を上げた。
「ではジーナ!〈
『はい! やってやりましょう、クオンさん! エクちゃんの準備は上々……いつでも行けます!』
こんなにも
そしてかつては足枷となるも――今の手足の如き機体運用を実現したのは、疑いの余地無くジーナがいたからこそだ。
だからこそ彼女へと指示を飛ばした。
オレ達がこの破壊の化身と呼ばれた禁忌の機体を、命を救い上げる救世の使者へと生まれ変わらせるために。
「
「
自身が研究して来た
その封印を今こそ解き放つんだ。
さらなる上を完全開放するためには、ロータリックリアクターの本質へとメスを入れる必要があり――現状の上限は間違いなく機体の限界値。
さあ、供に歩みし古よりの相棒よ――偏心回転機関の咆哮を上げろ。
オレとジーナがお前の真価を呼び覚ます。
今こそ命の……救うべき弱者の下へと
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