第161話 ブルーショック・エクセルテグ
本来恒星間航行を可能とする蒼き翼の性能は、航宙巡航艦として用いる事で初めてその真価を発揮する。
その能力を
だが――
その機能は、あくまで人類が正常に進化を遂げた場合に齎されるギフトでしかない。
人類が万一進化の過程を大きく誤った場合に振り翳される破壊の力……それを双光の少女は解放したのだ。
「なんだ!? 何がどうなっている! こちらトランピア・エッジ、メンフィスだ! 状況を説明せよ! 」
『――……こち……ら、増援――い! フレーム搭載艦――』
「おいっ! 貴様、状況を――」
『こちら、フレーム搭載艦 スレッジハンマー級 アミテージ! 光が……光が我が艦の機関メインスラスターを――スラスター停止! 航行不能! 繰り返す、航行不能! 』
『ウォーハンマー級 ヒューストン! 発艦したディセクターフレームが……すべてメインカメラと動力機関を破壊されました! これはいったい何なのですか、ザリッド殿! 』
「なん……だと!? 」
直後より
しかし増援を機に巻き返しをと息巻く様な声ではない――
だが不逞の部隊長が確認すただけでも、増援を排出すべく戦場入りしたフレーム搭載艦での死者に重傷者は出ておらず……よくて軽傷者に止まっているとデータが舞い込んだ。
そう――極めて軽度の人的被害に対する様に、想像を絶する被害を受けていたのは……増援部隊であるはずの無人機動兵装である。
その時間にして三分を数える頃には、部隊長の視界を正気とは思えぬ惨状が覆っていた。
「我らが虎の子のディセクターフレームとその搭載艦が……三分で全滅だと!? そんなバカなっ!! 」
驚愕のまま信じられぬ光景を目撃した不逞の部隊長。
彼の機体モニターには、まさに信じらぬ物が映りこんでいたのだ。
姿は巡宙艦としては小型であるも、先鋭的なシルエットに蒼き光を纏うそれ。
そこより放たれていたのは――形態の異なる量子無線小型ビット兵装と思しき、三位一体のマイクロシップ。
さらにそれらが一機のマザーシップと呼べる個体に追従する。
そのマザー機体も四ユニット存在し、
それこそがあの双光の少女が解放した
半自立式機動兵装 アサルト・ガン・シップ 〈ヴァルキリー・ジャベリン〉と銘打たれた、超広域 量子無線誘導殲滅兵装であった。
ガンシップとシールドシップに加え、ソードシップを一部隊とし……それらを内包するマザーシップ〈ク・ホリン〉四機を備える
運用次第では、先鋭機単機で一個中隊規模同等の戦力を有する。
「クオンさん、こちらメレーデン少尉です! ヴァルキリー・ジャベリン展開により、敵無人機体の殲滅を確認――」
「同時に、敵の増援艦は推進機関のみ破壊し航行停止に成功! なお……兵装はこのまま、ヒュビネット機の迎撃へ移行させます! 」
舞う
英雄少佐でさえ羨望を投げずにいられぬ、彼女の華々しき
『ああ、了解した! ではこのまま
「はいっ! 」
蒼き二条の閃光が雷光となり、
すでにばら撒かれる支援砲撃の閃条総数は、先の数倍までに跳ね上がっていた。
形成に於いてはもはや漆黒側が不利以外の何物でもない事態に――
「ククッ……クハハハッ! どうだ……それこそが禁忌の呪いの一端だ! すでに真の戦いの砲火が放たれたと同義――」
「見えているな、ラヴェニカ! 直ちにお前のハーミットの封印を解き放て! 偽装外殻を解き放ち――内に仕込まれたる神代の機体を……〈復讐のエリュニュス〉の砲火を以って俺を支援せよ! 」
『了解……。これよりハーミットの偽装外殻をパージ。あなたの――ヒュビネット隊長のお傍へ向かいます。』
漆黒の機体内。
モニターへ映る深淵の如き御髪を揺らす少女は復唱する。
その声色に、待ち侘びた時が訪れたとの恍惚すら宿して漆黒の部隊長を見つめていた。
狂気が暴走する様に、開く口角を大きく吊り上げながら――
》》》》
モニターの先で捲き起こった戦況の激変に、オレは歓喜さえも覚えていた。
当然それが戦火を
視認するだけでも今まで経験した事の無い大部隊。
群れなす無人機とそれを排出するフレーム搭載型巡宙艦の総数。
恐らく無人機全てが有人機であれば、この戦況は導けなかったかもしれない。
だが――
彼女の放った砲火は、無人機群をピンポイント攻撃にて行動不能へ……さらにはフレーム搭載艦らさえメインスラスターの破壊に止めていた。
宇宙製ではないが……巡宙艦の形状からすれば、その系統を擬似的に再現したのは想像に難くなく――それら同様宇宙航行を踏まえた分厚い隔壁に囲まれたスラスター室があるはず。
ジーナの放つ開放された禁忌の一端は、それのみを撃ち貫き人的被害を最小に止めていたんだ。
「続けっ! ジーナっ! 」
『はいっ! 』
響く返答のなんと気持ちの良い事か。
これが
今その真価がようやく現れた形だった。
しかしそんな歓喜に包まれる中――響くアラートが、
同時に、奴からこの事態に対する焦りなど微塵も感じられない。
そこで生まれる状況の解……それはこの事態さえもエイワス・ヒュビネットは想定していたと言う事。
ジーナ・メレーデンと言う少女の想定外の覚醒以外を――だ。
「ジーナ! あの漆黒の部隊が誇る、後方火砲支援機体が来ている! まずはあちらを足止めして――」
重装火砲支援機体。
確かスーパーハーミットと称されたそれは、オレも以前相手取り性能の高は把握していた。
完全に後方支援に徹する装備と、無熱源対艦ミサイル射出を可能とするクレインクインを備えるあれは……とても前線で近接戦を
ないが――
アレと接敵した際、微妙な違和感を感じたのは覚えている。
確かに重装備ではあるも、あそこまで直線機動のみの機体制御は不自然であったから。
全方位を機動域とする
言い換えれば、何かを包み込む様な……偽装を持った機体の様な――
『クオンさん、警戒を! あの支援砲撃機体が変容を! 』
漆黒の新型機と鍔迫り合う中、僅かに余計な思考に至っていたオレの意識を呼び戻すジーナの警戒。
その視界――モニター越しで捉えたのは、もはやこれで何体目になろうか……オレの想定を嫌な方に突いた衝撃であった。
「くっ……! いったいヒュビネットは、どれだけの規模で新型機体を隠しているんだ!? 」
飛来する砲撃支援のハーミット。
その機体装甲――否……己が想定した通りの偽装外殻がパージされると、それは現れた。
実質の体躯は偽装に対し遥かに華奢に見えるが……注目すべき特徴はその全体像。
明らかにこの宙域に舞う機体でも斎とやり合う鉤爪の悪魔か、かつて斎を襲撃した傭兵隊の女性のそれに近しい禍々しさ。
言うなれば――人工的な雰囲気を宿さぬ、神代の技術を体現するかの殺戮の女神がそこにいた。
そんなオレの動揺を見抜いた様に漆黒からの強制通信が飛ぶ。
やはり焦りなど欠片も存在せぬ、いつもの嘲笑と供に――
『さぞかし驚いただろう?だが残念だ……。あらかたの戦力は出し尽くしたが――俺の得物は未だ調整中。まあ今はこの宙域にお目見えした、神代にありし異形の技術の洗礼で我慢してもらおうか! 』
言うやさらに吊り上がる口元に、オレも覚悟を決める。
奴は間違いなく「俺の得物は未だ調整中」と口走った。
即ち、これだけの戦力を保有しておきながらまだその先がある――と言う事実に他ならないからだ。
漆黒の砲戦機と姿を見せた異形の女神。
そして
引かれ合う様にその砲火を交えた。
因果はその
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます