観測者達の黄昏3

第??話 観測者は遥かな姉妹と黄昏る3



 小惑星アステロイド帯宙域を目前に控えた深夜の時間帯。

 第二の艦橋とも言えるそこへ、すでに馴染んだ影が宇宙の深淵を見つめて立ち尽くす。

 これより因果の荒波へ飛び込まんとする救いし者部隊クロノセイバー——その際の重要戦力となる旗艦の、いにしえの封印解除に伴うあらゆる生体認証をこなしていた監督官嬢リヴ


 ふとその際意識を深淵に沈めると、そこには別の人格が成り代り……進める歩をその第二艦橋へと向かわせていたのだ。


 観測者に準える者——リヴァハ。

 何時いつぞやの如く遥かなる姉妹へ向けた高次的な言霊を送らんとした彼女。

 しかしその双眸は酷く険しき眉根で深淵を睨め付けていた。


『……リリス。ご機嫌がかんばしくはありませんね。』


 すると珍しく、遥かなる蒼き大地よりの言葉が先んじて響いた。

 今も地球と言う母なる大地で、訪れる試練への備えを万全に期さんとする観測者 アリスである。


「アリスか……当然じゃろ? わらわもっとも恐れていた事態それが、至る所で争いの火蓋を切っておるのじゃ。それを上機嫌で傍観などできようものか。」


『そう……ですね。すでに因果は三つの大きな渦を、この太陽系に産み落としました。ままならないとはこんな事を言うのでしょう。』


 神なるもの達は、彼女達にしか分かり得ぬ言葉の羅列に終始する。

 当然それを聞きおよぶ他者などそこには存在しないのであるが。


 だが突如——

 今まで高次霊量子の言霊でのやり取りであった地球の観測者が、第二艦橋へ霊的なる身姿を映像の如く展開した。

 同時に回線と思しきモノが開かれ、惑星間でのやり取りにあったタイムラグがほぼ消失を見る。


 その霊的なる姿を視認した憂いの観測者が僅かに双眸を細め……問うた。

 これまで以上に逼迫した現実を悟った様に。


「お主、この高次映像回線を展開したと言う事は——来たのじゃな? かの這い寄る混沌が。あの……。」


『はい……。そして彼女は提示しました——この蒼き地球が滅亡するか否かの選択を。』


「なんと、言う……。これでは最早、太陽系の其処彼処そこかしこが戦乱の渦中ではないか……。」


 第二艦橋であるそこで、歯噛みし——視線を落とした憂いの観測者リリス

 その様をリアルタイムで視認した地球の観測者アリスが……落ち込む視線から一転——僅かに微笑みを讃え声をかけた。


『確かに因果が導く戦乱は避けようも無いのでしょう。ですが——……輝きを増しているのでしょう? それはこの地球からでも、確かに感じる事が出来ます。それに——』


「……お主がそれ程までに声へ歓喜をにじませると言う事は——すでに? そして、。」


『はい……まさに。』


 確かに因果の渦は太陽系の至る所で想像を絶する危機をぶち撒けている。

 だがしかし——観測者と言う神なる存在が求めし救世の志士達もまた、抗うために己の心と技と……そして魂を研ぎ澄ませているのだ。


 彼女達はそれを知り得る。

 例えその座より動く事が叶わずとも、その因果の歯車たる救世者達が今……世界の命運を背に立ち向かっているのだ。


 そこより暫しの沈黙を挟み、憂いの観測者が口を開く。

 少しだけ……軽くなった心の内を明かす様に。


「お主が愛する人類に観測者としての力と権限を奪われたその身で、なお人類に希望を見出すと言うなら——わらわも賭けるしかないの。」


「あい分かった。これよりわらわも肝を据えて人類の行く先を見届けようではないか! もう後戻りなど出来ぬと言うなら、覚悟を決める。事と次第によってはこの身より、。神々の盟約に基づき……調律者レゾナンサーとしての道を歩むと! 」


『それはいばらの道ですよ?リリス。まあ……どの道私も似た様なものですが。』


 交わされる視線には、それぞれの戦いの場へおもむくための覚悟が迸る。


 調律者たる存在は、同時に神格存在たる権利と力を所有してはならぬと言う……神々の盟約が存在する。

 それは神格存在が直接人類の歴史に関わる事を避けるための、必定の掟。

 神々たる存在が有り余る力で人類の因果に干渉した場合——

 そこより導かれる想像を絶する因果の揺り戻しが、宇宙に激変を齎すほどの物理的且つ霊的に莫大なエネルギーの相転移フェイズシフトを誘発するのだ。


 即ち——観測者たる存在が神たる力を翳して人類史へと干渉した場合……宇宙開闢ビックバンさえも起こり得る事を意味していた。


 故に神格存在が関与せざるを得ない超常の危機が生じた場合は、観測者が己の神格である証を全て放棄し……人類と同格である調律者レゾナンサーまで降格する事が第一条件とされていた。

 それこそがいにしえより人類の歴史を監視し続けた、観測者たる者達を縛る因果にかけられた永劫の呪いであったのだ。


 映像で現れた同胞である二人の姉妹が見つめ合う。

 これよりその邂逅が、霊的なる今生こんじょうの別れとなる事さえ想定して——


「アリスよ。決して己が愛した人類を……負の因果などにはくれてやるなよ? 」


『リリス、それは貴女もです。貴女を慕う素敵な因果の志士——決してむざむざ死なせたりはしないで下さいね? 』


 その会話を最後に……観測者達の星をまたぐ会話が終了を見た。

 そのまま監督官嬢リヴに意識を渡した憂いの観測者であったが——

 第二艦橋たる場所でのやり取りは、全て星霊姫ドールたる彼女へと余す事無く刻まれていた。


「リリス様……事は全て私の意識に刻まれましたのです。私も出来うる限りのお力添えを……戦いの渦中へと向かう救いし者達へ贈りたいと思います。」



 そうして観測者の覚悟の程が伝わった監督官嬢は……すでに目前に控えた小惑星アステロイド帯での戦火対応とし——

 禁忌の聖剣に施された封印解除に当たらんと、ゴシック調ドレスをひるがえきびすを返すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る