第156話 蒼と漆黒、宿命の戦い



 漆黒ヒュビネットは双眸を見開いた。

 蒼き霊機Ωフレームはそもそもの記録が単機として登録された古の禁忌ロスト・ウエポン

 それを運用するためには、メインパイロットを機軸にサポートパイロットが補助を行う事で初めて正常稼働が可能。

 少なくとも彼はそう推察を付けていた。


 言うなればそれは、機体の互換性を持たぬ単一オリジナル運用を意味し……それ以上の拡張性が無いとする結果に到達するのだ。


「〈ナイト・ストライク・ガーヴ・システム〉、換装開始シフトチェンジ!! 」


 だが眼前——突如として宙域に舞い飛んだ機体は、霊装機支援へと訪れたは明白。

 すでに黒き戦砲騎ブラック・クリューガーモニター映像を占拠したそれは、曲射砲群の洗礼を浴びせて来ている。

 小惑星アステロイド帯特有の浮遊岩礁宙域を隠れ蓑としていた戦砲騎も、統一場粒子クインテシオン曲射ビームの乱舞で大きく行動範囲を削ぎ取られた。


「……っ!? この機体……蒼の機体カラーにこの兵装——ククッ、これは……Ωオメガかっ! 」


 戦砲騎の特徴である多脚砲台の様相は、むしろ漆黒側の傭兵隊が搭乗する形態でこそ本領を発揮する仕様であり——高速機動性を投入した漆黒の機体はその汎用性を制限する調整である。

 災害防衛兵装のまま運用を続けるΩオメガへの対抗手段とした調整が、完全に裏をかかれた状態となったのだ。


 だが——漆黒が目にしたのはそれだけでは無い。

 舞い飛ぶ機体に備わった支援兵装……それが今まさにパージされる瞬間を目撃してしまう。


 同時に蒼き霊機Ωフレームへも変化が訪れる。

 背部に備わる大型共振相転移砲クインテシオン・ブラスター……それがユニット単機としてパージされたのだ。

 それは刹那の出来事。

 支援機からパージされた兵装ユニットが共振砲ユニットと入れ替わる様に、蒼き霊機Ωフレーム本体へと量子無線誘導によって接続される。


 兵装ユニット換装を成したそれを視界に捉えた漆黒は、湧き上がる狂気に打ち震えた。

 それは古の禁忌ロスト・ウエポンと呼ばれた機体の、呪われた本質の一部が解き放たれたに等しいから。



 漆黒の推測など遥かに凌駕する……かつて世界を震撼させた、破滅を齎すとされた存在。

 終わらせる者オメガの真の姿の一端が。



》》》》



 響いた声。

 現れた姿。

 オレは意識的にそれを放っていた。

 思考に彼女の放つ強き霊力震イスタール・ヴィブレードさざなみが届いていたから。

 そして彼女はその意思に従い、この宙域へ舞い飛んだんだ。


 現れた彼女の翼はΩオメガをさらなる高みへと誘う力。

 されど使い方を誤れば、人類へ破滅を齎すそれ。

 だがオレ達はそれを手にした。

 使


装填完了シフトホールド! ジーナ、こちらのエネルギー回路は接続良好だっ! 」


『はい、初換装としては申し分なしかと! では——』


 モニターへ良好と視線を投げれば、彼女にしては珍しい口角を上げた表情。

 それだけでも彼女の自信が見て取れた。

 そして思考へようやくオレ達が共にある事で生まれる、真の戦いが幕を開ける——そう刻まれたんだ。


『Ω、Ω……オメガオメガオメガオメガーーーっっ!! そうでなくては、そうであろうよ! さあ——』


『その呪われた禁忌の力を見せてみろっ、Ωオメガフレーム……クオン・サイガっっ!!! 』


 続いて木霊したのは、ヒュビネットの狂気に満ち溢れた双眸で吐き出す咆哮。

 同時に——エクセルテグの曲射砲の嵐を、まるで踊る様に回避しながら宇宙そらを疾る機体を高域策敵システムが捕捉。

 今まで岩礁宙域へと身を隠しながら、超遠距離砲撃を見舞っていたそれが姿を現した。


 その様相は——


「この姿——なるほど、ただの多脚砲台などと侮れば痛い目を見る! まさかΑアルファフレームの持つ〈膜宇宙を渡る力ブレーン・スペース・フェイズ・ドライブ〉に匹敵する機能を有した機体——」


……とんでもない代物だっ!! 」


 奴が駆る新型機は、多脚砲台へ可変する機動兵装程度の括りでは縛れぬものだった。

 それもそのはず——あのいつきを最強たらしめる、位相宇宙を足場にする力に近似する航宙機動システムを備えていたから。

 漆黒の機動砲台が生むのは機体前方へと伸ばされた膜宇宙の道ブレーン・スペース・フェイズウェイ

 半物質化したビーム位相路面を斥力場の類を有するホイール面で捉え、戦車どころの話ではない——迫り来る。


 宇宙位相があれば何処でもその疾走を可能とする、脅威の戦闘車両が奴を強敵へと昇華させた。


「だが……新たな得物を得たのはあんただけじゃない!行くぞΩオメガ……対抗争戦闘用兵装、システム起動っ! 」


 眼前で宇宙そらの路面から舞い飛ぶ機体は瞬時に人型へ移行。

 備わったビーム機関砲をばら撒きつつΩオメガへと舞い、それを回避すればすかさず機体がヴィークルモードとでも言うそれへと可変。

 生み出される宇宙の路面へするや、量子ダストを巻き上げながら加速する様はオレが得意とするモータースポーツのそれだった。


 しかしこちらとてただ回避に徹する時間は終わりだ。


 すでに換装した〈ナイト・ストライク・ガーヴ〉の本領でもある、近接兵装〈クイント・ガン・エッジ〉と曲射アサルトレーザー砲台〈レビン・ヘッジホッグ〉——

 それらが統一場粒子高機動複列推進機クインテシオン・ハイマニューバ・ツインスラスターと一体となり、単一の換装式背部兵装システムを形成する。

 モニターで確認したのは、現状最大展開出来るだけでも先の災害防衛兵装とは比べものにならぬ対抗争戦闘能力を秘めた戦術兵装。

 災害防衛で真価を発揮するシステムから、対抗争戦闘を主眼に置いたシステムへ……視界に映る全てが書き換わって行く。


 その装備を中心に奴の曲者の様な機体を相手取る。

 確かに目にするどれもが、オレ自身でも初となる戦術兵装。

 だが眼前に舞う漆黒の脅威を前にし尻込む訳には行かなかった。


 戦闘スタイルとしては、中距離近接ミドルレンジにて〈クイント・ガン・エッジ〉でのビーム機関砲射撃と超近接クロスレンジによる一体型共振ブレードによる接敵。

 間接支援として、〈レビン・ヘッジホッグ〉をばら撒きつつ奴を追い立てる方向だ。


 さらには——


『クオンさん! こちらで〈セイバー・ガーヴ・システム〉を待機と同時に兵装展開します! この兵装でも支援程度は充分と思いますので! 』


「ああ、任せる! 見せてやろう、この漆黒へ! ……Ωオメガだと言う事をっ!! 」


 大型支援兵装であるΩオメガエクセルテグには〈セイバー・ガーヴ〉を待機装備させる事で、充分戦術支援をこなす能力を持たせている。

 加えて、ジーナが培ってきたオペレーティング能力はヒュビネットを翻弄するには充分過ぎた。


 言うなれば、奴の落ち度とも言えるのだ。


 それでも……モニターに映る漆黒の機体には驚愕する。

 これほどの支援攻撃による弾幕の嵐を受けてなお、それらを寸ででさばき切る技術。

 改めて奴が天才エースパイロットと呼ばれた事実が脳裏を掠めた。


 超近接クロスレンジで、Ωオメガのガンエッジと人形を取る黒き機動砲台のビームブレードが対消滅反応をともなう電子の火花を散らす中——

 奴がさらなるあおりを強制通信にて叩きつけて来た。


『どうだ、禁忌と言われた呪いの実力は!それがあれば! 』


「ふざけるなよ、ヒュビネット! オレがΩオメガを駆るのは多くの命を救い上げるためだ! その様な世迷言に向ける力など持ち合わせていない! 」


 衝突する刃を退けるや、互いが弾かれる様に離れ——同時に双方機体が備える支援ビーム砲台で牽制。

 そしてさらなる衝突を繰り返す。


 そんな中、オレの思考に生まれた意思を奴へあおりと共に叩き付ける。

 オレからの——宣戦布告とも言える決意の言葉を。


「ヒュビネット……! どうやら因果を相手取るなら、あんたとの戦いは避けられないんだろう! ならば宣言してやる——」


「あんたが因果を超えるための障害として、オレの前に立ちはだかるなら……オレはあんたを超え行く! 」


 モニター越しに映る奴の双眸が、狂気で怪しく見開かれる。

 まるで、


「エイワス・ヒュビネットと言う最大の敵を超えて、因果の果てに何が見えるかは分からない……。それでもオレはあんたを——乗り越えてやる! 覚悟しておけ、漆黒の嘲笑!! 」



 そこで……ようやくオレと奴との戦いの火蓋が切って落とされた。

 否——……、戦いの火蓋が……。

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