第155話 蒼き双光、戦いの舞台へ



『これはどう言う事ですかな、エイワス・ヒュビネット大尉殿!よもやそちらの旗艦主砲が我らの商売道具を巻き込むなど——』


「これはお言葉だな、トランピア・エッジ指揮官メンフィス・ザリッド殿。我らは共に革命の狼煙を上げんとは宣言したつもりだ。が——」


「議員らを巻き添えにするなど、余計な策を講じた覚えは無い。これは、その様な目的にそぐわぬ行動を取った場合の制裁と考えて頂こう。」


『……おのれ、ぬけぬけと。了承した——今の攻撃は互いの意見相違が生んだ事故として処理させてもらう。(宇宙人そらびと共が、やってくれた……!)』


 禁忌の怪鳥フレスベルグより禍つ火砲の一撃ボルテクス・ヴォクスターを放った漆黒の指揮する部隊ザガー・カルツ

 その旗艦前方に付く黒き砲戦騎ブラック・クリューガーで漆黒は不貞の部隊トランピア・エッジとの口撃を繰り広げていた。


 漆黒ヒュビネットとしてはあくまで利害の一致として扱う不貞の部隊トランピア・エッジ

 しかし彼はその不貞が己の策に、無用の不安要素を持ち込むなら制裁も辞さないとチラつかせた。

 純粋なる戦力比で及ばぬと悟った不貞の部隊長メンフィスも、悪態を付きつつ引きさがる。


「当部隊は奴らに無用の干渉はしない。各々はその旨で作戦に臨め。」


『『了解です、隊長。』』


『分かってるぜ?そんなのは報酬に含まれてはいねぇからな。だが奴らから挑んで来た場合は——』


「その時は。覚えておけ。」


『……ちっ、分かったよ。ああ~~おっかねぇな。』


 復唱にも、心酔する狂気の狩人ラヴェニカ電脳姫ユミークル——対する傭兵隊の苦労人隊長ニードでは異なる対応を見せる。

 それ以外の傭兵に至っては、それぞれが返答も無く別の場所を見やると言うおざなりな感。


 だが——

 ある種のカリスマを持ち得る漆黒に従う者達の統制は、傲慢に力を振り回す不貞の部隊トランピア・エッジなど足元にも及ばぬ団結を見せ付けた。


『隊長……奴らの旗艦及び追従する部隊が、こちらを攻撃対象に加えた模様。指示を請います。』


「了解した。これより俺も前線に出るが、主にはΩオメガの相手をしてやる。お前達は好きに立ち回れ。まあ——」


、すぐに前線へ送ったがな?。」


 次いで、すでに応戦する救いし者部隊クロノセイバーを標的に捉える禁忌の怪鳥フレスベルグ

 人ならざる少女ブリュンヒルデから管制制御を横取りした形の電脳姫が指示を請うと、モニター越し……トレードマークの嘲笑を浮かべる漆黒は告げた。


 この小惑星アステロイド帯宙域に於ける、真の戦いの火蓋を切って落とす様に——


「では、ザガー・カルツの諸君……革命の狼煙をこの宇宙へと上げてやろう。進軍だ……。」



 狂気をその背に纏う、堕ちた聖者とその仲間が進軍を開始したのだ。



》》》》



 旗艦宙域を舞う無人機の群体を、エリートたるクリフ大尉達が次々叩き落とす。

 その前方ではいつき君とアシュリーさんにカノエさん、エリュトロンさんが立ち回る。

 さらにそこから離れた宙域に——クオンさんが今、議長閣下達を含めた議員方の人命救助に当たっている。


 けれど今の私は旗艦に接続されたΩオメガエクセルテグで

 そう……

 きっと昔の私ならその現状に耐えられず、自分の境遇に絶望し——違う事なく判断を誤っただろう。


 だけど何故かな?

 今戦場の隅から隅まで私の視界に映り込んでいる。

 これまでΩオメガフレームの動力機関統制に手一杯で、何も見えてなかったこの目が……とてつもなく広い宇宙そらを見つめている。

 そうだ——クオンさんはこの光景を視界に捉えながら、それでいて皆へと想いを向けてくれていたんだ。


「クオンさん、Ωオメガの出力制御は良好です。このまま隔離区画の警備続行を——」


 通信はあくまで同じ機体内からの様に装う。

 通信傍受の恐れがあったからだけど、どの道戦場を挟んで行う通常回線通信では悟られるのも時間の問題。

 しかし、思考をしかと研ぎ澄ませてその機を伺っていた。


 私に与えられたこのエクセルテグが、真のヴェールを脱ぎ去る瞬間が来るはずだったから——


 と、突如 私の脳裏を微かな光が駆け抜ける。

 正体は分からない……分からないけど知っている気がするそれ。

 思考を——遂には全身を駆け抜け、それが二つの閃きをもたらした。


 一つは蒼く輝く閃光が舞う姿。

 もう一つは……宇宙を包む漆黒の闇の様な——


 刹那、響いたのは声。

 私が何より待ちわびる声。

 けど通信では無い、

『奴が来る!今が翼を羽撃はばたかせる時だ!』と——


 私はスッと顔を上げた。

 でもそれは無意識だ。

 同時に意識する事なく、言葉が自分自身の口より強き霊波を帯びて解き放たれたんだ。


 ≪私はもう、自分をおとしめない≫


 ≪私はこの目で……前を見るっっ!!≫


 刹那——

 エクセルテグのOPオペレーティングコックピット内を無数の宙空モニターが埋め尽くし、それを視界に入れるや……私は正気を疑う速度で必要となるシステムルーチンを組み上げ始めた。


「機体アクセルカヴァー反応クリア。半自立制御 擬似アルゴリズム構築。Ωオメガ兵装管制――ナイト、セイバー両機構アクティベート。」


「エクセルテグ 遠隔独立管制制御スタンドアロン・リモート・オペレーティング・システムΩ・X・Dオメガ・イクス・ドライブ——システム起動!」


 オールクリアされたシステムへ反応する様に、コックピット内へ蒼い機械光が走り抜けると……私は自分の身体の変化にようやく気付く事となる。


「私、は——」


 けど分かってる。

 それを思考している暇は無いって。

 刻まれた意思のままに、通信を月読つくよみ指令へと繋ぎ……モニター越しに視線で今なすべき事を訴えた。


『メ……メレーデン少尉!?……ふっ、もはや皆まで言うまい。発艦を許可する!』


「了解!ジーナ・メレーデン、Ωオメガエクセルテグ——ライズアップ!!」


 告げられた発艦許可は、これより私の全ての力を解放する。

 接続された旗艦ハンガーアームが解除を見るや……エクセルテグの声を聞いた気がした。

「行こう。共に。」と。


 自分でもらしからぬほどに口角を上げた私は、機体出力を一気に上昇。

 私が目指すべきは……

 そこへ蒼き双光となって駆け付けるんだ。


「行くよ、エクちゃん!これからが私達の独壇場だっっ!!」



 新たなる一歩を踏み出す私は、蒼き翼を纏い宇宙そらはしる。

 この広大な深淵と心を重ねあう様に——



》》》》



 それは三つ目の奇跡。

 蒼き宇宙そらの胎動。

 だがそれはただの胎動にはあらず。


 宇宙そらに住まう一部の者さえ、地上に蔓延はびこる人類は退化の極みとののしった。

 それほどまでに地上人類の霊格は低下の一途を辿っているのだ。

 そこに覚醒者と言う概念を持ち込む事さえ、烏滸おこがましいと断言できるほどに。


 しかしその時は訪れた。

 言うに及ばず——宇宙そらと重なった三つ目の魂は、であったのだ。


「こちらクオン!至急、セイバーハンズの出撃を……っく!?」


『随分と久しい事だな、!どうだ!?先に味わった猛毒の味は!』


 サソリの砲撃手ユーテリスからの要請を伝えんと、旗艦への通信に臨んだ英雄少佐クオンであったが——

 それよりも早く襲う影が蒼き霊機Ωフレームへの砲撃を敢行した。

 だが、先に大破撤退したディザードマイスターズから乗り換えた新型機は英雄の想定を大きく狂わせる。


「この砲撃どこから……!?そうか——またガラにもない機体を持ち出したな、ヒュビネット!!」


 砲撃は確かに蒼き霊機Ωフレームを捉えるが、浮遊岩礁地帯であるのを逆手に取り巧みに視界から姿をくらますそれ。

 命中精度もさる事ながら、標的を定められぬ事態がさらに漆黒の存在を厄介たらしめた。


小惑星アステロイド帯での戦闘に特化したその機体……——厄介極まりないっ!」


 新型機の名は伊達ではなく、漆黒がそれを駆れば途端に高性能長射程機動砲台と化す。

 地上の砲戦車両など置き去りにする機動力を、引・斥力発生式ベアリングローラーを備えた多脚にて支える命中精度。

 加えて……狂気の狩人ラヴェニカによる漆黒専用調整の結果——機動よりも機動に特化させたそれは、高火力戦車と高機動戦闘機の機能をあわせ持つ人型強襲兵器と化していた。


 それは即ち——災害防衛兵装のままで戦場へと訪れた蒼き霊機Ωフレームにとっての、致命的な戦略ミスとも取れる状況である。


 そう……その時点までは——


『すでに、Ω。ならば大人しくこの俺に狩られ——』


 強制外部通信にて英雄少佐を煽りにかかる漆黒。

 だが……彼はモニター越しで目にしてしまう。

 そんな煽りなどハナから通じないとの、煽り返す様な双眸の英雄を。


「何を寝ぼけている?それでもあんたはエースと言われた男か?、本気で考えている様なら——」


……漆黒の嘲笑 エイワス・ヒュビネットっ!!」


 英雄の双眸にはすでにそれが映り込む。

 機体モニター内に表示されたアンノウン——否……Ω英雄へと活路を見出させる。


『クオンさん、Ωオメガ換装型兵装システム……いつでも準備できています!』


「了解だ、ジーナ!ではΩオメガフレーム……対抗争兵装〈ナイト・ストライク・ガーヴ・システム〉——換装開始シフトチェンジっ!!」



 この因果渦巻く宙域で……遂に、蒼き双光がはしり出したのだ——

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