第154話 命を救う者、命を刈り取る者
評議会隔離ソシャール内で実弾型ハンドガンのマズルフラッシュと、暴動鎮圧用装備であるテーザーガンの咆哮が共演を見せる。
かつて、火星圏政府への抵抗を続けた元マルス星王国所属の彼女達——
サソリの暗殺者と名を連ねたのは、
「なんだこいつら、どこか……ぎゃっ!?」
「……ば、バカな!?こいつらあの〈ジェミニ・アンタレス〉……火星圏星州の監視下にあったはずじゃ——」
「ご丁寧に紹介ありがとね!じゃあ……あばよっ!」
「な、ぎっ……——」
互いの死角を補いながら敵を圧倒する様はまさに
敵の実力を完全に見誤った
「全くエゲツないわね、そのテーザーガンは!下手に銃弾
「いや、銃弾打撃ち込まれる方が確実に痛いでしょう!?っと——敵はこれで最後ね!」
「そうみたい……だねっ!ヨン、あそこの大部屋に議員らを確認したわ!」
最後の見張りを当身で昏倒させ縛り上げる
物々しい装備の数々を捨てて選んだテーザーガンは、予想だにしなかった友人と出会いが生んだもの。
一人ならばそれなりの覚悟であった彼女も、かつて共にあった心強い助っ人を得た事で得物を変更したのだ。
彼女らは反政府行動以降 無用の殺生を控えていた手前、現在もその方針に終始する。
それは何より、今も〈ピエトロ街〉で暮らす子供達との誓いをそれぞれの心に刻んでいる故である。
子供達と共にある限り、決して人の命を殺めないと——
程なく機械式大扉両側で、二人は速やかにコンソールへのアクセスを開始。
すでに幾度も書き換えられたセキュリティーは、脆くもその攻勢に敗北を帰し——
排気音と共に重厚なそれが開け放たれた。
「……なんだ?また奴らの下らぬ戯言を——」
「待て……アレは?」
二人の視界に映るは、疲弊の中にあった議員らのどよめく姿。
困惑と焦燥が、すでに彼らの体力を限界まで削ぎ落としているのは明白であった。
そんな中、議員らの中で立ち上がる男性。
信じられぬモノを見た様な……しかしそれを知る彼の双眸が、次第に希望を宿して行った。
「お前達……は、まさか——〈ピエトロ街〉の!?」
「直接お会いするのは初めまして、ですよね?私達のあしながおじさん。」
歩み出たる男性は、ハーネスン・カベラール議長その人。
口にした通り、アサシンシスターも直接の面識ではない……モニター越しの対面を思い出す様に名乗りを上げた。
「議長閣下、敢えて素性を名乗らせて頂きますが……私は先程までザガー・カルツへ所属していたユーテリスと申します。」
だが直後に、薄桃色の——
それを包み隠さず言い放った、あのスラムで見た覚えのある女性へと問うた。
「先程まで、と申したな。では今は違うと言う事かな?」
ザガー・カルツとの名乗りで騒めく議員らを尻目に、叩き上げ議長は言葉を紡ぐ。
冷静に……しかし油断なく。
「はい。今私は即興ではありますが白旗を翳して投降後……議長閣下が全幅の信頼を置く部隊との合同作戦にて、ここへ赴いた所存です。」
「そう……か。では——そこまで来ているのだな?かの
「ええ……私達と議員方を救出するために。今すぐ側に……。」
投降からの協力要請を申し出た身であるサソリの用心棒。
だが……あしながおじさんと呼んだ男の前に立った彼女はすでに、世に不穏をばら撒く狂気の一味ではなく——数多の命の希望たる者達と共にある実感を感じ取る。
同時にそれが、いかに誇らしき事であるかを……眼前で次々と希望を宿して行く議員らの姿で確実とした。
その現状を確認した叩き上げ議長は双眸を閉じ、後は任せるとの意を二人の……スラム街の希望へと託し——
伝わる議長の意に、視線を合わせて首肯しあう二人。
そして、サソリの用心棒は通信を飛ばす。
今彼らを預けるに最も相応しき存在へ。
「こちらユーテリス!サイガ少佐……たった今議長閣下及び議員らを保護!けど捕虜となっていた事で、議員ら全体に極度の体力疲弊を確認!至急、急救救命隊派遣を要請するわ!」
通信を発した彼女は、すでに狂気をばら撒く部隊所属の面影など欠片もなかった。
それは正しく……命を救うために
》》》》
残存する敵機体。
それも搭乗者のいない無人機を相手取りつつ、宙域を一望する。
俺の周囲にはアシュリーさんを初めとした
後方ではコル・ブラント護衛に当たる、クリフ大尉率いる
そして戦線となる宙域から離れた場所にある、議長閣下らが拉致されていると報告のあったそこでクオンさんとあの元ザガー・カルツ砲撃手の機体を確認した。
実質謎の部隊トランピア・エッジとか言う奴らの戦力は、無人機にこそ戦慄を感じるもさほどの脅威は感じていなかった。
むしろそんな程度の傲慢など置き去りにする、壮絶なる意思の本流が今俺を包んでいる。
複数の無人機へ安らぎを与えんと一撃の下粉砕した俺。
そんな気配無き機体の遥か後方——それは舞い降りた。
異常なまでのエネルギー波動が猛烈なる勢いで迫り来る。
咄嗟に俺はその正体となる物を悟り、コル・ブラントへと咆哮を上げた。
「
モニターに映った指令が双眸を見開くと同時、問答も無用と艦内へと指示を飛ばした。
『旗艦防御障壁 ミストル・フィールド、前方へ緊急展開!急げっ!!』
直感が功を奏した危機一髪。
俺の視界斜め前を……敵無人機体群を巻き込む様に
『こ、このバカ
『いや、今のは無理でしょうよ隊長!むしろ賢明な判断よ!?』
『そうね~~ちょっとビクッたわね~~。優先順位、大事ね~~。』
「お二人の言う通り!だから全周波通信で叫んだでしょうがっ!?」
怒り心頭なアシュリーさんも分かってる。
少なくとも経験の差か、俺よりも早く異変を気取った三人は射線の外へ動いていた。
だからこそ回避運動が間に合わない旗艦に届く全周波通信を送ったんだ。
そして——
言うに及ばずその瞬間からが俺たちの正念場。
恐るべき脅威となる超高エネルギー波は紛れもなくあの船……ザガー・カルツ旗艦〈フレスベルグ〉からの物だったから。
『
「クリフ大尉……了解です!」
『
クリフ大尉に
上官たる方達がクオンさんの後方を守る俺を鼓舞してくれる。
けど……その言葉を聞き終える前に——
俺は今まで相手取った事の無い、恐るべき存在の襲撃を受けたんだ。
『よう、赤いの!俺と遊ぼうぜっ!!』
「なん……この気配は!?」
感じたそれは、きっと
強制通信から響くのは間違いなく人間が発する荒々しい言葉。
それなのに……俺が同時に感じたのは、それこそ宇宙の真理が牙を剥いた様な錯覚だった。
発せられた言葉の主であろうそれがモニターへと映し出される。
猛烈なる負の瘴気を纏うそれは、あのアーガスが駆っていた
格闘を生業とする体は見て取れたが——武とかそう言う物では無い……猛獣が命を刈り取るため身に付けた御業を感じさせた。
腕部に煌めく二対三爪の鉤爪が否応無しにそれを悟らせて来る。
「っ……こいつ、とんでもねぇ!?パワーが今までの何よりも——」
『ハッハーッ!いいねいいね……そのちっこい機体で、俺様の爪をまともに受け止めるたぁ——楽しめそうだぜっ!』
接敵する巨体腕部が繰り出す鉤爪の一撃は、まともにやりあうのが馬鹿らしい程の突撃力を持っていた。
視界を占拠する黒い機体はあのヒュビネットを彷彿させるも、各関節集光部が血の様に赤く光り輝く……差し詰め黒い鉤爪の悪魔だった。
『いつ、き……君!?この機体は、旗艦の機動兵装ライブラリの何処にも存在していない!——未知の存在よっ!』
「そうっすよね!?こんな物、人類の作った物ですら——」
ぶつかり合う
互いが距離を取る様に離れた時、敵さんからわざわざ自己紹介を叩き付けてきた。
アーガスよりも幾分か幼くも見え……それでいて、あのヒュビネット大尉よりも禍々しい狂気に満ちた双眸で——
『あんだ?俺様の正体を知りてぇってか?なら教えといてやるぜ……俺様はマサカー・ボーエッグ――神代の時代に生み落とされた宇宙の闇そのものだ!』
『この機体……
告げられたのは奴が宇宙の闇その物だと言う事実。
俺と
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