第153話 再会、貧しきあの日から
「あたしが乗り込んで閣下と議員達の居場所を確認する!英雄さんは宙域の警戒と護衛を頼めるかい!?発見したら後は、人命救助専門なあんた達の方が得意分野だろ!」
『了解した!閣下には我らが協力している旨をお伝えしてくれ!その方が君も閣下らと対話し易いはずだ!』
「持ちつ持たれつ……そうさせて貰うわ!」
隔離区画接触と同時、機体より降り立つ
区画宙域の見張りを
船外活動式パイロットスーツのまま実態弾使用のハンドガンを手に、隔離区画通路を浮遊する様に飛ぶ。
程なく外郭部から、居住可能エリア侵入と議員ら避難を考慮し重力制御を回復させ通路に足を付いた。
その重力制御パネルコンソールを見やった彼女は、僅かな違和感を感じ取る。
「……?セキュリティが複数回書き換えられてる?一度は間違いなく〈トランピア・エッジ〉のクズ共だろうけど——」
察した感覚が砲撃手の思考へ警戒を呼ぶ。
例え先客がいたとて、それが侵入を試みる理由が存在しないからこそ
故に薄桃色の砲撃手は急く様に事を進めたのだ。
その議員らの中には確実に、〈ピエトロ街〉の子供らが返しても返しきれぬ恩を抱く
焦りを必死に抑えながら二つ目の通路に差し掛かった砲撃手。
刹那——まるで元部隊内の狂気所に匹敵する殺気を感じ取った彼女は……通路脇にある分かれ道に立つや、気配に向けて銃を突き付けた。
直後その視界を占拠したのは——
そこで対面するはずがない者が、自分と同じく警戒のため自動小銃を突き付けて来た姿だった。
「よ……ヨン!?あんたなんで——」
「それはこっちのセリフ!?……なんでユーがここに!?」
それはあの廃ソシャール内スラム、〈ピエトロ街〉で……子供達を救うために政府の傘下に下って以降——
もう会えないとさえ思っていた、大切な家族との再会であった。
》》》》
それは想像もしていなかった再会。
もう二度と会えないとさえ思っていた、大切な友人であり家族だったシスター ——ヨン・サとの再会だった。
「デイチェと打ち合わせ上異変があった時の対処で、通信を切断する手はずではあった。けどなんで、あなたとこんな所で会うのか説明を要す——」
「デイチェも来てるのっ!?……ったく、考える事が同じなんて。あたしとした事が想像も出来なかったわよ。」
重なる様にそれぞれの思うままを言い放つ私達は、身を潜め不逞の残党を警戒する。
通路の物影で懐かしむ様な……けれど互いを戒め合う様な視線を交わしていた。
けれど——
私はこのシスターがどの様な経歴を持つか知っている。
加えて今の現状を知る事が出来たなら、彼女がどう動くかが今更ながらに思考へと浮かんで来た。
なら……今あたしがやるべき事は一つしかない。
目的が確実に同じである彼女と——外で警戒に当たってくれてる英雄殿と共に、彼を救い出す事。
私達スラム育ちの素敵な恩人……あしながおじさんである、ハーネスン・カベラール議長閣下を——
「ねぇヨン。今あんたがここにいるのがあたしと同じ目的とするなら……多くを語らず協力して。あたしは議長閣下含む議員方を救出するため、外で警戒に当たってくれてる防衛隊とここに来たの。」
「防衛隊?もしかしてあの国際救助隊とか言う……。けどトランピア・エッジが動いてるのよ?そんなにわか部隊が役に——」
協力を申し出てみれば、不安が彼女の口を突く。
当然だった。
彼女が地球より上がった議長子飼いの〈トランピア・エッジ〉を知ると言う事は、議員方の拉致を許したのが評議会防衛軍の体たらくと認識しているのは明白。
つまりは……ただの防衛軍では、その不安を払拭出来るはずなんてなかったんだ。
だからあたしは己の今までを説明する意味で、直前までの経緯の重要点を提示した。
「あたしはついさっきまで、その国際救助隊……正式名称をクロノセイバーと言うらしいけど——」
「その部隊に敵対する漆黒の部隊、ザガー・カルツに所属してたんだ。」
「ザ……ザガー・カルツって!?今〈トランピア・エッジ〉と
あたしが経緯を語るや驚愕するヨン。
あらかたの情報を詰めた上でのここでの遭遇――相変わらずの抜け目無さ。
けれど全部言い終わる前に、こちらの事情を悟ってしまい言葉を
廃ソシャール運用に伴う火星軌道 航行費用と言う途方もない借金——彼女はあたしが、それを未だに背負っているであろう現実に辿り着いたからだ。
故にヨンは私を責めない……責められるはずがない。
何たってこの子は、自ら子供達を養うシスターになるなんて言った——とても優しい子だから。
そんな彼女の不安を取り除くための言葉は準備してある。
何の事はない……あたしが今まで敵対していた防衛軍は、そんじょそこらのにわかなど足元にも及ばない。
その真実をただ告げればいいだけなのだから。
「にわか部隊……か。あんたが言う様に本当ににわかだったら、あたしも投降してまで彼らに協力要請など出さないって。知らない様だから言って置くけど——」
「これは元同僚からの目撃談。あの部隊は、文化交流に訪れていた星間航行ソシャール〈イクス・トリム〉の……システム異常から来る木星超重力圏への落下を阻止した程なのよ?」
「……は?え、ちょ……待って!?木星の超重力に捕らわれたソシャール落下を阻止って——そんな事不可能じゃないの!?」
「その不可能を可能にしたのよ……あのクロノセイバーと言う、
そもそもあたしが彼女や子供達と
木星の超重力となればその桁が一気に跳ね上がる。
そんな不可能な事態からソシャールを救った事実は、さしもの彼女の不安すら欠片もなく吹き飛ばす事に成功する。
呆然とする彼女の視線が次第に希望に満ち溢れて行く様で、それは容易に想像出来た。
英雄殿を待たせている現在、これ以上のロスは逆に彼ら部隊への不信を与えかねない。
感じ取った視線で、もはや説明は不要と決断したあたしは作戦概要を説明して行く。
ヨンとあたしがかつて名乗った反政府ゲリラ……〈アンタレス・ニードル〉復活を告げる様に——
》》》》
『英雄……クオンだったっけ!?こっちで予想外の戦力を得たわ!信用は私が保証する——だから彼女も議長方救出に協力させて欲しいの!』
「構わないが……せめて信用に足るなら、協力者の素性提供を求める!こちらも部隊指揮の重責が最近跳ね上がったばかり——」
「事と次第によっては、優遇も可能だからな!」
『感謝するわ!素性は火星圏反政府組織〈アンタレス・ニードル〉の首謀者……それで以降の経緯は分かるはずよ!』
「なっ……アンタレス・ニードルだって!?またそれは珍しい組織名が出てきたな! ――なるほど、詳細は確認した!」
聞き及ぶ英雄さえも耳を疑う名称をデータ照合の後、
同時に英雄少佐は己が現在有する前線部隊指揮権限に於いて、その協力者との合同作戦へ移行する旨を全体指揮を担う
「
「さらに彼女が推薦する協力者が合流した模様!それらを踏まえ、彼女らと議長閣下を初めとする評議会議員方の合同救出作戦を展開したいと思います!」
『くっ……!?
言うに及ばず――
評議会議員らの救出作戦……。
そして、
荒れ狂う因果の荒波の中に光明を探す様に、英雄少佐は遥かなる暗黒の深淵を睨め付けていた。
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