第152話 新たなる因果の道筋



「し、指令!戦場宙域から大きく離れた場所より高速で飛来する反応が……しかしこれは——」


「ザガー・カルツが現れたかっ!?」


「いえ……それが——そうなのですが、おかしいです!機体反応はかつての交戦記録ライブラリから、ザガー・カルツに属していた砲撃手のストライフ=リムと推定——」


「しかしその機体は、白旗をこちらへ提示しており——さらにそれが同部隊のハーミットより攻撃されている模様!」


「なっ……どう言う事だっ!?」


 唐突に旗艦へと現れた反応が、オレ達部隊を困惑へと誘った。

 超広域スキャンシステムで索敵を敢行していたコル・ブラントで、疑問符の嵐が吹き荒れ——程なくそれがΩオメガフレームのモニターへ映像と共に飛んだ。


『クオン、想定外の事態だ!たった今ザガー・カルツと思しき反応を感知したのだが、それはたった二機のみのもの!加えて——』


『一方の機体名称ストライフ=リムは白旗を提示中!同部隊、ハーミットの識別を持つ機体の攻撃を受けている!』


「なんですって!?一体それは——」


『聞きたいのはこちらも同じ……ならば状況把握が必要だ!任せられるか!?』


 確かにオレはザガー・カルツへの対応として思考の網を張り、前方で舞い飛ぶ勇者率いるΑアルファフォースの進撃と——旗艦方向へ逃れる敵迎撃に奔走するΩオメガフォースの姿を見定めていた。


 オレを含めた何れの機体が、訪れるであろう漆黒の部隊との交戦へと向かわせられるか……最後尾より状況把握に努めていた折の不測の事態。

 まさかの敵機体が白旗を上げ——尚且つそれが仲間であるはずの者より攻撃を受ける状況には思考を盛大に掻き乱された。


 だが流石のオレもそんな事態にある考えが過る。

 オレ達クロノセイバーが一筋縄ではいかない様に、先の戦狼の件を含めても……奴らも一筋縄ではいかないと言う事実だ。


「了解しました!これより確認された座標へ向かいます!ジーナ……機体動力炉調整リンクは良好か!?」


『こちらは問題ありません!が……指定座標はリンクが現状で繋がるギリギリです!気を付けて下さい!』


「分かった、善処しよう!クリフ大尉、こちらを任せる——エリート隊の独壇場だが……指令よりの指示は忘れぬ様頼む!」


『了解だ、少佐殿!ふっ……この呼称は中々に違和感があるな!』


「言わないでくれ……まだオレも慣れていないんだ!では……行ってくる!」


 Ωオメガフレームの動力制御はエクセルテグを発艦させていない故制限付きとなる。

 加えて旗艦の防衛。

 だがその点は、敵対者の現総力を強く見積もっても心配はしていなかった。


 すでに防御力が底上げされた旗艦と、調整でさらなる性能向上を遂げたエリート隊が駆るΕイプシロンフレーム。

 単純計算でも敵を総なめにしてお釣りが来るレベルだ。


 だからこそ眼前に現れたザガー・カルツに関わる事態への対応こそが重要と……Ωオメガフレームを駆り指定宙域へと飛んだ。


 そのオレへ——


『悪いわね、唐突に白旗なんて上げたまま現れて!けれど今はそれを論議してる場合じゃ——っと、ないんだよ!耳を貸してくれないかい!?救世の英雄さん!』


「……君はザガー・カルツの——アーガスと連れ立っていた砲撃手か!?」


『名乗りはまだだったね!あたしはユーテリス・フォリジン——聞いて欲しいのは他でもない!この宙域を纏めていたはずの議長閣下の事だよっ!』


「……っ!?閣下は無事なのかっ!」


 飛ぶ強制通信はアーガスと襲撃初期から連れだつ者……名前もユーテリスと確認出来た。

 だがその後に続いた言葉で、この仲間割れの如き状況に一つの終着点がチラつき始める。


 それが視線に宿ったのを察したユーテリスが告げてくる。

 ……救世の因果とも言える輝きを纏って。


『閣下を含めた議員連中は、拉致されてはいるけど無事よ!んでもってあたしは、アーガスを始末しようとした、あの隊長の考えに着いて行けなくなったって訳!』


『信じるかどうかはそっち次第だけど……協力して欲しいのよ!議長を——ハーネスン・カベラールって言う……救い出すために!!』


 彼女はオレの決断を促す言葉を言い放つ。

 彼女が漆黒より離反した事実と——

 自分の家族を支えてくれた者……それがカベラール議長閣下だと言う下りを。


 あしながおじさんとは……地上にて貧しき子供に手を差し伸べた名も無き紳士へ、感謝を込めて呼称したとされる敬愛の名だったんだ。



》》》》



『……状況を確認した。それが罠と言う線も捨てきれぬが——それで議員らに危機が及んでは本末転倒。ならばその件への対処は任せる——』


『少佐として初の重責が乗るミッションだ……気を引き締めて行け、クオン!』


「了解!これより投降と共闘の意思を確認したユーテリスと共に、議長閣下含む議員らが拉致されている区画へ向かいます!なお——」


「現状は旗艦から大きく距離を取る事が叶わない故、旗艦も付かず離れずの距離を維持にて待機願います!」


『了解……サイガ少佐。旗艦の操舵はこちらに任せろ。』


「……っ。フリーマン少佐……ええ、お任せします。」


 旗艦指令月読へ、薄桃色の砲撃手ユーテリスとの共闘を宣言した英雄少佐クオン

 続いて響いた操舵を務めし諜報部少佐フリーマンの声にも、しかと己の任に従事する旨を伝え——災害防衛装備のままにて蒼き霊機Ωフレームひるがす。


 直後その英雄が放つ砲撃が狂気の狩人ハーミットへと降り注ぎ——


「なっ……邪魔、するな蒼いの!こちらは取り込み中……お前の相手、する暇は——」


『だったらとっとと、引き下がれよ!この操り人形!』


「……ぎゃっ!?ユーテリス……ま、さか——すでにクロノセイバーと通じて!?本当にウザイよ……お前っ!!」


 すでに共闘を宣言する薄桃色の砲撃手もここぞとばかりに援護を開始した。


 狂気の狩人にとっては想定外の事態。

 歯噛みする彼女はかたくなに、漆黒よりの任を果たさんとし——執拗なまでに砲撃手を狙い続けていた。


 そこへ飛ぶは心酔する漆黒ヒュビネットからの通信である。


『ラヴェニカ、こちらと合流しろ。どの道そいつを省いた上での作戦遂行だ。討てねばそれで構わん——こちらの作戦上の利を優先しろ。』


「……っ!?隊長……了解。これよりハーミット、隊列へ戻ります。」


 事もな気に、口走る漆黒。

 そこまで突き付けられれば、すでに無用の人材と化した隊員を追う必要も無しと……狩人も機体をひるがえす。


『英雄さん……サイガ大尉とか言ったっけ?感謝するよ!あたしに着いて来てくれるかい……議長閣下が拉致されてるソシャール隔離区画へ案内する!』


「今は少佐の身だ!それに閣下の身柄がかかる事態、礼には及ばない!では案内を頼む!」


 狂気の狩人ハーミット撤退を確認した英雄少佐は薄桃色の砲撃手に続き……残骸が浮遊する宙域を抜けて行く。


 だがその先は不逞の部隊トランピア・エッジが警備する区画。

 すぐさま警備中の機体がそれらを発見、迎撃に入る。

 が——


「エクセルテグとのリンクはギリギリか……。それでも——」


 機体のシルエットでは多少の変化に止められた蒼き霊機Ωフレーム

 が、大幅な変更がなされたのはその中身。

 されど双光の少女ジーナが駆る蒼き翼エクセルテグが近接する事で叶う換装システムは、現状全てに於いて正体を伏せた状態である。


 そんな今までと変わらぬ災害防衛兵装のままで、当たり前の様に不逞の部隊トランピア・エッジの警備を刹那で無力化して行く英雄の姿があった。


『あ……相変わらず規格外な性能ね、そちらさんは。』


「ユーテリスの機体にも充分梃子摺てこずらされたんだがな。——ここか?」


 一時は敵対した蒼き霊機Ωフレームの戦闘能力を、今更ながらに見せ付けられた薄桃色の砲撃手。

 嫌な汗のまま機体を進め、英雄少佐を誘導して行く。


 その一部始終を確認した者が——

 隔離区画の影へと潜む様に搭乗する船体を忍ばせていた。


「なんて事!?アレは防衛軍の……けど確か、聞いた話にあったザガー・カルツに属する後方砲撃支援機体も一緒——」


「なら迂闊にヨンへ通信すれば、漆黒の部隊奴らへ私達の存在が筒抜けに……!」


 降って湧いた事態に戦慄を覚えたのは、議長閣下を救わんと忍び寄っていたスラム育ち。

 ヨン・セの相棒、デイチェ・バローニであった。



 その彼である彼女は知り得ない。

 そこに訪れた後方砲撃支援機体に搭乗する者の正体を。

 かつて〈ピエトロ街〉を救うために、火星政府軍への協力を申し出ざるをえなかった素敵な家族……用心棒のユーテリス・フォリジンである事を——

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