第151話 禍つ翼の電脳姫
「各機……発艦し、陣形を組め。だがまだ攻撃はお預けだ。」
『うわっ、マジで楽しそう!早くぶっ放してぇ~~キヒヒッ!』
『頼むから、漆黒の部隊長さんの指示を聞いてくれよ!?この発狂女!でないと仕事料が吹き飛んじまうからな!』
『あの赤と蒼――聞いていた性能からの数値向上が顕著だ。ふむ……流石にそれなりの対策を施して来たか。』
『やっぱりあんたは相変わらずね。私は赤いのを殺らせてくれさえすれば――』
発狂女スーリー、苦労人隊長ニード、冷徹な傭兵カスゥール――そして復讐姫ユウハ。
それらが駆る
戦争に飢えた傭兵達が足並み揃えて
その後方――こちらもすでに発艦していたストライフ=リムと、ハーミットが並び……凶鳥甲板上に佇む
『よう、漆黒さんよ。あっちは不動だけで構わないのか?』
そんな不敵に座す狂気が通信で漆黒へと問い掛ける。
この場とは別行動を指示された
不敵な
無用の談笑は不要と言わんばかりに――
「確かにあの御堂が
「だがそれは奴とて同じ。この太陽系宙域は、何かと観測者に属する者の加護を多分に受けた世界――故に超常の力には常に奴らが課した制限が付き纏う。全くもってままならん世界だ。」
それだけ口にすると沈黙に浸る漆黒。
あまりの味気なさに、狂気の黒も盛大に嘆息した。
嘆息の傍ら――
漆黒も感付いてはいるだろうとの思考の元、狂気の黒は味方陣営を一瞥する。
その中で今明らかに不協和音を奏でる者が存在していたから。
狂気の黒は邪神勢力ではあるが……それらに選別された、人類とは事なる生命種との認識が正確であった。
そう言った特殊なる立ち位置が、何よりその不協和音を強く感じ取らせていた。
黒と赤の狂気内モニター越しで映る機体が放つ、負の感情とは明らかに異なる感覚を。
さらにその感覚を違うベクトルで察する者もいた。
「何を考えている……あんたの行動が理解できない。」
彼女の機体は漆黒の指示により艦のメインシステムとリンクさせたまま、艦内でのシステム運用に止まっていた。
万一 ――メイン動力のコアである、人ならざる少女を欠く事態が襲った際の保険として。
繋がる機体ごと、禁忌の怪鳥の管制制御を行う前提の待機であるのだ。
漆黒の思惑通りに一つとならんとするザガー・カルツ。
最後の不穏分子に向け、様々な思惑がモニター越しに叩き付けられる。
薄桃色をした……後方支援砲撃機体へ向けて――
》》》》
隔離区画宙域へ忍びよる様に、孤児院組が大型戦闘艇接近を試みる。
が——接敵した木星圏よりの部隊の、予想を遥かに上回る戦力を目の当たりにし右往左往していた。
その隙に乗じる形となった孤児院組は、奇しくも隔離区画への侵入を難なく成功させる事となる。
『あの木星からの部隊……最近噂の国際救助隊。火星圏の政府防衛隊など置き去りにする。』
「——みたいね。まあこちらもそのお陰で侵入には困らなかったし。けどいくら国際救助隊だからと言って、今の議長閣下を救出できるかは
そこへ関係する火星圏の実情——
そんな防衛軍が火星圏星州を抑えきれない現状で、その渦中……廃ソシャールにて孤児院の子供達と貧しい暮らしを余儀なくされたアサシンシスター。
確たる信用を得られないのも無理はなかった。
船外任務用パイロットスーツに身を包み、隙を好機と戦場宙域から死角となる外部アクセス通路隔壁を開錠——
当人からすれば長いブランク後。
しかし傍目からするその無駄なき手際は現役さながら。
手にした掌サイズの端末で手近に見つけた集合装置へ電子的侵入を開始。
瞬く間に隔離区画の全体図データ入手に成功した。
「セキュリティーは奴らが書き換えた?それにしては驚く程脆いわね……。重力制御装置は付近には無し、と。けど好都合——」
「かなり範囲は広いけど——警備に回す人員が少な過ぎるのは儲けもの。議長閣下がいるのは……ここね。」
視界に映る隔離区画警備状況を頭に叩き込んだアサシンシスターは、重力制御がなされていない通路を漂う様に進んで行く。
その一方で——
『お前……何のつもりだ!早々に引き返せ!』
「追ってくるんじゃ……ないわよ!この操り人形!」
それが程なく進軍の指示を受けたのだが、放たれた指示より先に隊列を離れた影があった。
否——
その影は明らかに戦線に参加する方向ではない宙域へ向けて気炎を上げていた。
そう……
だがその動向を監視していた
『アレ……いいのか?漆黒よぅ。』
「構わん、ラヴェニカに事を任せている。討てればそれで良し——逃した所で、こちらの策にはさしたる影響はない。あらかたは想定済みだ。」
『そうかい……んじゃま、俺はこっちに集中するかねっと!』
それは仲間意識などが関係しての事ではない。
純粋に戦闘が始まった事への——戦いに飢えた者としての興味本意であった。
それすらもサラリと流した漆黒は、眼前の戦いに集中せよとの注視を狂気の黒へ送り付け——渋々承知の意を送る狂気もそこまでとした。
漆黒としても狂気の狩人を監視に付けた時点で砲撃手の反意は想定済み。
そして——それが導き出すさらなる事態さえも想定の範疇であったのだ。
砲撃手と狩人。
殺意交える二機が、部隊から大きく離れた宙域で砲撃戦を開始する中——
別ベクトルで生まれた想定内の事態が漆黒の部隊を襲った。
『隊長……ブリュンヒルデが凶鳥のシステムを一部掌握。同時に、格納庫に搬入していた恒星間航行戦術機体を強奪。指示を請います。』
それでも眉ひとつ動かさぬ漆黒は口角を僅かに吊り上げ指示を出す。
さらなる不測の事態が、全て手の内にあると言わんばかりの面持ちで。
「そちらの動きは早かったな。もともとその事態を考慮した上での補佐をユーテリスに指示していたんだ。それに——」
「すでに完成した代理管制システムは旗艦へ搭載済み——なれば人形コアがなくともそれは動かせる。と言う事で……今後のフレスベルグ航行管制はお前に任せる。」
モニターに映し出された電脳姫の待ち詫びた視線へ、嘲笑と共にそれは命じられた。
電脳姫帰還に合わせた大幅な対応変更全容の一部となる……彼女にとっての最強の得物会得となる指示を——
「ユミークル・ファゾアット。与えられし禁忌の力を以って、地球で認められる事もなく散るはずだったお前の能力を開放せよ——」
「かのクロノセイバーへ、存分に革命の砲火を浴びせてやれ……。」
墜ちた聖者の言葉が電脳姫の魂へ救いを齎す。
誰にも認められずに消えるはずであった少女の双眸が、狂信的な光で輝いた。
『了解です、隊長。これより我が隊旗艦をユミークル・ファゾアットが完全掌握します。』
暖かな家族の絆を捨てた女性は……墜ちた聖者を崇拝する、悲しき狂信者と成り果ててしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます