第150話 救いの意思は時空を超え…
それが何を意味するかを知る彼らは底知れぬ絶望に駆られる事となった。
「……まさかあの火星圏で頭角を現していたトランピア星州が、この様な——」
「これでは、我々が守り抜いて来た千年来の平穏が崩れるのも時間の問題……だぞ。」
評議会ソシャールの一角にあった隔離区画へと閉じ込められる議員ら。
彼らが隔離されて程なく、〈トランピア・エッジ〉による破壊工作が開始し——この
そもそもこの宙域には、評議会が誇る防衛部隊が駐留していたはずである。
が——まさにその部隊への襲撃を敢行したのが、
多く負傷者を出した評議会防衛軍。
漆黒への投降を条件に大半の軍人は生き長らえ、議員らが拉致された場所とは別宙域へと隔離される。
しかし漆黒の策上では、議員らまでもを人質に取る様な段取りなど加味しておらず——それは漆黒が零した言葉でも明白であった。
即ち——ビジネスと称して売り込み機体テストを画策した
「皆々様、どうか落ち着いて下さい。確かに事態は深刻であります。が……よくお考え下さい。今トランピア・エッジなる者らと銃を交えし者は誰かを——」
訪れた非情なる事態の最中。
絶望に叩き込まれた議員らへ声を掛けたのは……
「現在あの者達と事を構えるは、最初に現れた際は反意の虚偽をかけられ——それでも宇宙より降り注ぐ天の業から数多の命を
高らかに宣言される言葉で、議員らが心へ落ち着きと……切実なる望みを抱き始める。
「故に我らに今出来る事は……心を落ち着け耐え忍ぶ事。でなければ彼らが振り翳す正義の剣に迷いが生じる。待ちましょう……この
一度は事態へ右往左往した議員らではあったが……叩き上げと称された閣下の、これまで一同をまとめ上げてきた手腕は伊達では無かった。
その一声で不安の入り交じる言葉が
この叩き上げ議長もまた、評議会に於いては掛け替えのない存在であると——議員らの視界の中に
「(お膳立ては整えた……。クロノセイバーよ——今こそ君達の真価を
議長の視線は今まさに戦火を切って落とした部隊へと向けられ——
そんな状況に、あらぬ所からの風が舞い込む事となるのであった。
》》》》
さらには愚物の集団に、拉致された評議会議員らと——混乱を極めた
その中にあって、戦火に紛れる様に火星圏方面より一隻の大型戦闘艇が忍び寄る。
全長は100mに満たぬが、外装に明らかなる武装を
その様からしても謎の戦闘艇は
『いいか?ヨン姐。私が船を接近させたら、迷わずあの評議会ソシャール隔離区画へ。』
「ふふ……皆まで言わないでも分かってるわよ。はぁ——ユーがこれを知ったら怒るかな……。」
少女らしき声が何らかの備えに勤しむ女性の、耳元超小型通信機へと送られ……答える女性は了解と嘆息を同時に返した。
『大丈夫だ、ヨン姐。ユー姐——ユーテリスはヨン姐の事をよく知ってる。ヨン姐がかつて、火星圏独立組織を率いていた事も。』
「でも私がスラム〈ピエトロ街〉の子供達を養うシスターになる……そうあの子と約束したんだよ?絶対ユーも怒るって……。」
それはかつて
同時に語られた火星圏独立組織とは――
現在火星圏の大半を支配化に置く巨大国家、アレッサ連合政府に滅ぼされたとされる
反政府ゲリラ 〈アンタレス・ニードル〉はすでに現火星圏を支配するアレッサ連合政府に解体され――大半の構成員が何かしら実力がある事を理由に、様々な部署で強制任務に付かせられると言う仕打ちを受けているのだ。
そんな中、組織を纏める筆頭でもあった当時の部隊長 ヨン・サ。
実情としては、当時の火星圏で戦災孤児の多くが援助を受けられずに命の火を消していく事態があり――
旧王国で生きながらえた者達が連合政府へと投降後、連合国穏健派へ姿を変え暗躍。
それら戦災孤児を社会問題として提示した彼ら自身が、自ら支援に専念する事を条件に……連合政府からの社会的排除を免れていた。
連合政府としても、そのような面倒事に関わりたくない――が、国民の反意を抑えるため致し方なしとの決議結果による譲歩案。
その適任へかつてのゲリラ首謀者であったヨン・サを監視付きの条件提示の下、戦災孤児の養育係へと推したのだ。
『ヨン姐……隔離区画まで10000を切った。準備を。』
「うん、了解だよ……デイチェ。」
戦闘艇格納庫では、防弾カーボンケブラーベストとベルトに備わる複数のマガジン――さらには自動小銃に短機関銃を詰め込んだ収納ケースを手した
船外活動も可能なパイロットスーツを着込むと息を吐く。
ヘルメット下のヘッドスコープ赤外線モードの動作確認をした彼女は、視線へ覚悟を宿らせた。
彼女としてもスラム暮らしが板に付き過ぎ現役の感覚は遥か遠くである。
それでも――
「私はあの子達のためにここへ来た。〈ピエトロ街〉での暮らしの最中も、私達へ金銭面と情報面の援助を惜しまなかった……遠く
「最後の通信から突然情報伝達が途絶えてからの、〈トランピア・エッジ〉外縁侵攻。
これより向かう宙域へ向けた眼光は、シスターの慈愛など欠片もない――現役の
薄桃色の砲撃手が負った借金によって、かの廃ソシャールは辛うじて火星圏の衛星軌道上に止まっている。
が――火星圏政府はそれで支払われた額はあくまでソシャールの軌道維持と……そう突っぱねて来たのだ。
子供達への
しかしそれを聞き付け、さらなる国際支援援助を申し出た者がいた。
すでに砲撃手がいた頃より支援を送り続けていたその者。
アサシンシスターは、社会情勢を考慮しつつ対面上の名前を伏せてまで支援を惜しまなかった彼を〈あしながおじさん〉と呼んでいたのだ。
艇内を暫しの静寂が包む。
仮にも議長らを救出するならば、
それでもアサシンシスターは決意しそこへと訪れていた。
艇内にいるはたった二人。
その二人で議員ら――最悪議長閣下だけでも救出する算段だった。
『……ちゃんと生きて帰って来る?ヨン姐。』
「当たり前。こんな事で死んだらそれこそユーに叱られちゃう。必ず助け出すよ?あしながおじさんを――」
「〈ピエトロ街〉の子供達を、影からずっと支援し続けてくれたハーネスン・カベラール議長閣下をね!」
沈黙に耐えられぬと
大切な家族を想って。
それにアサシンシスターも笑顔で生還を約束した。
議員らが拉致される隔離格納区画が浮かぶ宙域。
そんな彼女達は知らなかった。
自分達が壮絶なる因果の奔流の、その手前まで足を踏み入れている事実を。
そこで
さらに自分達が居る宙域に程近い場所で、因果の呪いを振り切らんとする……新しき因果の定めが産声を上げた現実を――
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