第148話 —天と地の邂逅—



 火星圏外縁小惑星アステロイド帯——

 救いし者部隊クロノセイバーは最初この地へ急造の部隊として訪れた折、宇宙人そらびと社会への反意の虚偽すらかけられていた。

 だが……彼らは再びそこへ訪れる。

 その背に


 無論そんな部隊に対して……小惑星アステロイド帯宙域を取り纏めるかの叩き上げ議長閣下は、先に全面協力を申し出たばかりであり——この宙域に到達してた時点で評議会の歓迎を受けてしかるべきであった。


「これは……どういう事だ。この様な——」


 故に予定宙域へと到達を見た剣を模した旗艦コル・ブラント……部隊指令である月読つくよみはその目を疑った。


 ブリッジ内大モニターに映る信じられぬ光景に、ブリッジの花形達も絶句する。

 映し出されたのは無残に破壊された評議会ソシャール群と、それらを取り巻く様に戦列を組む部隊。

 いずれも部隊識別コードが宇宙人そらびと社会のものではない……地上より上がった者達の識別を映し出していた。


『指令……我々はいつでも出撃可能です。』


「待て、クオン。出来るだけ情報収集に尽力する——必要とあれば指示を出す。故に……今は待て。」


 目を疑う光景は当然、現場の総指揮を務める事となる英雄少佐クオンの視界を占拠している。

 かの英雄でさえすぐにでも出撃し、事態の全容を把握したいと心が急いていた。


 すでに部隊としてそれなりの一体感を生みだすΑアルファフォースとΩオメガフォース。

 それぞれが視界の異常事態を目の当たりにし……はやる想いと急いた思考を必死に押し留めながら待機に努めた。


 そんな部隊へ、強制的な通信が全周波で放たれる。

 が——響いたそれは、部隊に属する殆どの者が想像の遥か外であり……聞いた事もない部隊名称を突き付けてきた。


『これはお初にお目にかかります。あなた方はお見受けします。自己紹介が遅れましたが——』


『我が部隊は地球は新生米国——まあ、我らからたもとを分かった保守派は旧米などと呼びますが……その国家における宇宙進出機構。火星州知事であるトランピア・ハイドロンの子飼いであります、特殊斥候部隊〈トランピア・エッジ〉……部隊を纏めますメンフィス・ザリッドと申します。』


「地上……?〈トランピア・エッジ〉だと?」


 放たれた言葉に反応したのは、すでに部隊全体で知り得る所となった諜報部少佐であるロイック・フリーマン・ハイデンベルグである。

 諜報部少佐フリーマンとしても、思考にあった情報から幾つかの相違点が確認されたが故の疑問符であった。


 息を飲む宙域の惨状。

 名乗りを上げた不貞なる部隊トランピア・エッジは、漆黒が指揮する部隊ザガー・カルツの影が未だ見えずとも……惨状に関わる時点で未知の脅威として救いし者達の心を浸蝕して行った。


 沈黙が剣を模した旗艦コル・ブラントを包む中、不貞なる部隊トランピア・エッジ部隊長が宣言する。

 この宙域に——否、……不貞の口から吐き捨てられた。


僭越せんえつながらあなた方には、我らが商売道具とも言える得物——ディセクター・フレームの運用テストに付き合って頂こう……そう思った次第であります。』


「ディセクター・フレーム……?聞いた事もないフレーム規格だな。それとこの惨状にテスト——そちらの意向がまるで読めぬ。ご説明頂こうか、ザリッド殿。」


『……分からねぇのか?お前らが、その的になれって言ってんだよっ!!』


 旗艦指令月読の鋭き視線からの問いに、機嫌を損ねた不貞の部隊長メンフィスが吼える。

 同じく反応した、私欲に塗れし機体群の放つ十字砲火と共に——



》》》》



 訪れた惨状は誰も想定していなかった事態。

 少なくとも漆黒ヒュビネットはこの様な見境いのない破壊行動は行わなかった。

 単純明快——

 それはいい意味で、こちらの防衛対象を絞り易くさせていた。


 てのひらで踊らされたと言えばそれまでだったが、今思えば奴の思考は作戦行動へ如実に表れていたんだ。


 だが今オレ達の視界を占拠している者達は、全くその範疇にない——ただの破壊の化身だった。


霊装機セロ・フレーム両機及び支援部隊、全機緊急発進!奴らが戦火を撒き散らすだけの輩ならば遠慮はいらん……諸君らの全力を持ってこれを排除せよ!なお——』


『我らがいたずらな戦火を呼ぶ訳には行かぬ故、敵機体のコックピット部と動力部を避けての対応とする!』


 鬼気迫る指令の表情に、モニター越し——クリフ大尉とアシュリーへ首肯で合図し出撃を促す。

 旗艦に元々備わるカタパルトに加え、防衛兵装換装時に増設された二本の電磁カタパルトは大所帯となる機体を効率よく発艦させる追加設備。

 今かと待ち侘びた両チーム支援機体が随時戦場へ向け出撃して行く。


 次いでいつき綾奈あやな……そしてジーナを見やり、即興の対応を指令へと投げた。


月読つくよみ指令……現状奴らと漆黒ヒュビネットが関わるかは判然としません!故に俺が後方——旗艦の援護に当たり、いつきを前線へ突出させようと!さらには——」


漆黒が出て来た場合への対応とし、俺はあくまで災害防衛兵装のままで……加えてジーナとΩオメガエクセルテグ発艦をギリギリまで待たせます!」


『うむ、それが妥当だろう!メレーデン少尉……いいな——この一戦は君の出方で状況が一変する可能性がありうる!だがそれは!』


『心得ています、指令!今までの様に大局所か自分が見えぬままでは、サイガ少佐の補佐など務まりませんから!……けれど、お心遣い感謝します!』


 オレの案に乗る指令は即座にジーナへの配慮を見せ、それを受けつつ今までに無い気概を見せるジーナ。

 それだけでもオレの背が心強い想い人に守られているのを感じ取り——


いつき、まずは君が先行だ!だが今より相手取るは真の武装勢力——これまでの悪漢共とはワケが違う!気を引き締めて行け!」


『了解っす、クオンさん!では——アーデルハイドG-3……イグニッションっ!!』


 頼れる炎陽の勇者へと出撃を促すと、電磁カタパルトより激しい火花を撒き宇宙そらへ舞うΑアルファフレーム。

 それを確認し自らの出撃へと移行した。


「支援部隊及びΑアルファフレーム出撃確認!グラディウス メテオストライカー……クオン・サイガ——ライズアップっ!!」


 視界に舞う電磁レールの火花は瞬く間に後方へと弾き飛ばされ、暫くぶりとなる作戦行動上の発艦を見たΩオメガ

 けれど同時にこれは、新たなる戦火への飛翔であり——ここより先は望まぬ争いへの一歩だ。


 その直後——

 オレの意識に彼女の……観測者であるリリスの悲しげな思念が流れ込み——これが彼女の言っていた想像を絶する試練の始まりと悟る。


「これが因果。避けられぬΩオメガの……霊装機セロ・フレームを駆る者の定め。けど——」


 独りごちたオレの思考へもう一つの感覚が流れ込んで来る。

 それは……


「オメ……ガ?そうか……お前もこの因果の定めを憂うか。そうだよな——こんな争いをお前は、望んでなどいないんだろ?」


 宇宙人そらびと社会に残る文献で自身が知り得る限り、Ωオメガフレームと言う機体は元来人類の歴史創生に関わって来たとされていた。

 さらにその歴史に於いての古き仕来りを壊し、新たなる時代をΑアルファへと繋ぐ役割を与えられているとも。


 ——終わらせる者 Ωオメガ——


 この蒼き霊装の巨人を、誰もがそう言ってはばからないのだろう。

 だが流れ込んで来た高次元よりの意思は異なっていた。


 Ωオメガは……その仕来りを壊すために、数多の命を奪う事など望んでいないと。

 霊装機セロ・フレームとして生まれたこいつは——命の奪い合いをする兵器に成り下がる事など望んではいないんだ。


 だからオレは因果へと飛び込む決意をΩオメガへと放つ。

 これよりΩこいつと共にあるための……揺るがぬ決意をかざして。


「ならば行こう、Ωオメガフレーム グラディウス。……終わらせよう——命を奪う兵器として生み出されたお前の、悲しき因果の定めを!」


 決意を放った時……聞こえた気がした。

「ありがとう。」と言う、ただの兵器として生み出されたはずの……蒼き巨人の切なる言葉が——

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