宇宙を浸蝕する蒼き星の呪い
第145話 花園の乙女達
火星圏外縁
非常戦闘時の対応に加え、救急救命訓練を有事に備え定期的に実施する。
これより飛び込むは過酷なる戦地……それをいくら熟しても事足りるものでは無かった。
が——その中でもやはり短くとも、心身の静養は必須であり……それがこの
「ちゃんと確認してきましたよ、
「ふぅ……これでも突撃して来るのが
「何やメッチャ警戒してまんな~~
「いや、それ前例があるからでしょ。大尉殿~~そっちは大丈夫ですか~~!」
そんな心身の静養と称したクルーの花形達は、パイロットとブリッジクルーの壁を超え……まさに乙女同士の一時を——
かの旗艦内では有数の観光名所?でもある、銭湯施設で汗を流しいていた。
入念な銭湯入口掛け看板の確認を終えた
程よい湯加減に調整されたそれは、奇しくも再びの長き旅路につく旗艦クルー達にとっての数少ない清涼剤となる。
さらに
銭湯の一般的な体系——それぞれの湯船利用層を定期的に入れ替える関係上、男性女性に第三性の看板を入れ替えるは常である。
言うに及ばず……いつぞやの炎陽の勇者とイカツイチーフが遭遇した、あられもないラブコメ展開の回避として双光の少女が動いていた訳だ。
「こっちは問題ないわよ~~って!?コラ、エリュっ!あんた、いったいどこ触って……ちょっ…——やめ……ん!」
「あら~~隊長の身体は性別の壁を超えてるわね~~。肌の張りと言い色艶と言い……羨ましいわ~~。」
「こう言う時は積極的ね、エリュ。」
「アシュリー……なんか可愛い。」
女風呂と壁を挟んだ隣の風呂場で入り浸るは、少年な少女と女性を目指す美女達。
心は女である少女な少年へ配慮し、
「……あの——向こうのアシュリーはんら、何やってはるの(汗)?」
「翔子ちゃん気になるの?彼女達でなくともお肌の云々は死活問題――何なら貴女も餌食になって見る?」
「ふぉっ!?ちょちょちょ……またまた冗談キッツイわ~~(汗)
「ふっふっふ~~油断したわね、翔子!あんたを狙ってるのが大尉だけだと思った……ら——」
女性を目指す者達に感化された女性陣が、まさかの百合園展開を披露せんと行動に入った時——
「ちょっと、翔子。貴女肩口の検査最近怠ってたんじゃないの?」
「いやっ……あの——ほら、最近任務が忙しかったやん?せやから……。」
百合園な展開から一転した曹長の険しい表情。
その視線は少女の右肩口に注がれていた。
通信手の少女は
あるべき腕がなく生身が顕となる肩口に、僅かな腫れと変色を確認したのだ。
いつにない曹長の言葉にギクリ!と肩を
故に——口にしている言葉は冗談などではない、切実な問いかけと言う事も理解していたのだ。
「……はぁ。ヴェシンカス軍曹、これは大尉命令です。すぐに湯船から上がり、エンセランゼ大尉の元へ出頭——直ちにその肩の状態検査を依頼して来なさい。」
「うえっ!?でもウチ、今銭湯入ったばかり——」
「二度言わせるの?さっさと行きなさい!」
「はいぃぃーーーっっ!!」
事の重さを感じ取った
反論せんとした通信手の少女も、大尉の睨みに慌てて湯船を飛び出し部隊服もそこそこに羽織りつつ医療区画へ向けすっ飛んだ。
そんな状況下やや高揚が下降した雰囲気の中、小麦色の曹長が大尉へと
「大尉、あの……申し訳ありません。同僚でありながらあの子の状態確認を怠ってしまって。」
「何を謝る必要があるの?あなたは翔子ちゃんを家族として大事にしてるから、すぐにその異変に気付いたのでしょう。それに——」
「これでも私はあの暁の会長から、団体よりの出向を依頼された身——部隊内の身障者への異変に対処するのも私の大事な役目だわ。」
凛々しき大尉の言葉へ聞き入る双光の少女も口を
「身障者である家族の異変に素早く気付いてくれた事、大変感謝しています。ありがとう……グレーノン曹長。」
贈られた謝意は大尉の下げた
身体が健常か否かすらも飛び越える、部隊が持ち得る大海よりも深い絆の証を——
》》》》
「(いい?私達がお風呂に入ると今、確実に、間違いなく忠告したからね?)」
「(分かってんな、この格闘バカ!お姉様がここまで配慮してくれてん——ゴホンッ!配慮してくれてるのよ!?これで間違って女湯に突っ込みましたなんて言った日には、ガチで容赦はしないわよ!?殺すわよっ!?)」
「(う……ういっす(汗))」
鬼の剣幕二本立てで釘を刺された俺は、早朝練習後の銭湯入浴時間を泣く泣くずらし……艦内ラウンジ区画で軽く清涼飲料水を飲み干していた。
旗艦に設けられた銭湯施設から軽く歩いた所に、下層フロアと上層フロアを吹きぬけにした区画——柵越しに一部強化ガラス張りの格納施設一部も望む空間。
そこは
柵のそばにある先進的なチェアーで盛大に溜息を吐きながら、部隊のこれまでとこれからを思考していた。
「俺がこの部隊へ臨時に呼びつけられてから、まだ一年も経っていないのに……本当にいろいろあったな。そして——」
「そんな俺達にとって、きっとこれからが正念場だ。俺達がこれから向かうは紛うこと無き戦場。」
呼び起こした言葉と共に拳を見やり、堅く握り締めた俺。
言うまでもなくそれは、今の拳が負う使命を噛み締めてのものだった。
決意もそこそこな俺は、なんとなしに視線を上げた先に人影を確認した。
確か
けど——
「(あれ?さっきみんな入ったばかりなのに、なんで軍曹だけが?)」
それが入って間もない内に、彼女だけ銭湯を後にしている事に疑問符を浮かべてしまう。
と思った矢先……視界に映る彼女が何処かへと向かおうとしていると察した俺は——彼女の足取りがいつもと違う事に気付いたんだ。
「……あの元気が取り柄の軍曹にしては、やけに重い感じだ——」
そこまで口に出した時の事——
ガクリと膝をついた彼女が……そのままツンのめる様に倒れ込んだ。
「……っ!?ヴェシンカス軍曹!」
異常と悟り弾かれた様に彼女の側へ走り寄った俺は、その異常の発端を視界に捉える事になる。
「ぐんそ……肩口!?酷い炎症じゃないか!ヴェシンカス軍曹、大丈夫かっ!?——こちら
目にしたのは、酷く腫れ上がった肩口。
迷う事無く俺は医療部門の統括者であるローナ大尉へ通信を飛ばした。
軍曹がいつもの機械義手を装着していない所を見る限り、
自身も身障者企業のトップであるお袋から、身障者は健常者以上に身体異常が起こり易いと聞き及び……目にした事態が義手装着を常とする軍曹ならではの身体異常と察するには時間を要さなかった。
「……あ……れ?小……尉?なん——」
「軍曹、ちょっと失礼……やっぱりこの熱——微細菌の感染症!」
額は熱を帯び、それ以上に肩口の鬱血が顕著になるヴェシンカス軍曹。
そこへ通信を聞き付けた医療班でもあるアレット軍曹到着を確認し、俺はすぐに軍曹の身を引き継ぎ状態を報告した。
「アレット軍曹、こちらです!軍曹の義手装着部分に、感染症と思しき酷い炎症を確認しました!」
「むっ……よく通信してくれた、少尉殿!あとはこちらで対処する故、お任せあれ!」
同じく義手を必須とするアレット軍曹も状況確認後、大事ではなくとも放置すべきでは無いとの視線で彼女を診察。
近くに備えられた艦内設置担架を準備すると、素早き手順で軍曹を搬送していく。
発見した手前放って置けぬと、俺も医務室へ向け足早に向かったのだった。
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