第140話 部隊出撃、因果渦巻く火星圏へ向けて



 蒼き英雄クオン主催により催されたパーティーはいつしか、再びの出撃任務を待つ彼らの壮行会の様相を呈し始め——

 宴もたけなわとなる者へと、優男の総大将フキアヘズ閣下が声を上げた。


「皆、盛り上がっている所申し訳ない。このままでいい——これより太陽系内縁へ向けて出撃を待つ勇士達への激励を贈りたいと思う。」


「無礼講のまま、その目に映る行く者と待つ者……互いをしかと見定めてくれ。」


 そこには英雄が込めた思いを汲んだ配慮が行き届き、あくまで家族同士の想い寄せ合う壮行会が演出されていた。


 旅立つ者は救いし者部隊クロノセイバー

 剣を模した旗艦コル・ブラントに搭乗する霊装機セロ・フレームパイロットを始めとする機動兵装パイロットらに、旗艦ブリッジクルーに整備T。

 さらには救急救命艦隊に属する救いの女神と医療部門の女神——加えて、それらの日常生活を支える給仕部門に主計科部門。

 全体の技術監督を担う監督嬢を含めた、まさに長大なる旗艦航行に携わる家族達全てである。


 対しては待つ者達。

 紅円寺学園を代表する暁の会長に、その希望である生徒達。

 その学園を内包する宇宙人の楽園アル・カンデを防衛する軍指令に、楽園の管理者と……楽園側運営で一部招待を受けた者達が旅立つ家族へ羨望を贈る。


 旗艦内大ホールを一望した総大将が告げる。

 全ての始まりであった出頭命令が下された際とは、もはや桁違いに跳ね上がる危険……——


「かの漆黒の嘲笑と呼び称された天才……エイワス・ヒュビネットの謀略は我らの想像だにしない事態を呼ぼうとしている。それが何を意味するかは未だ不明であるが——」


「もはや我らは、その事態に指を咥えて待つだけの猶予などない。故にここに集まった救世の部隊……クロノセイバーがいる。彼らがこれより、その事態をほふるべく旅立つのだ!」


 総大将の言葉を噛み締める両者。

 それぞれの想いを互いが視線で共有し合い……伝わる想いを確認した総大将が高らかに声を上げた。


「部隊結成宣言時も申した通り、君達が死して任を全うするなど以ての外!必ず……必ず生きて再会を果たして欲しい!それが……皇王国を代表する私——レボス・ヘリオス・ウガヤフキアヘズの切なる願いである!」


 優男と称される男は、羨望と憂いの混じる表情で敬礼を贈る。

 部隊に属する全ての勇士も同じく敬礼で答えた。


 そしてこれより僅かの後、クロノセイバー隊は一路火星圏外縁 小惑星アステロイド帯に広がる戦線へ身を投じる事となるのだ。


 漆黒の剥いた牙が待ち受ける、その熾烈なる戦場へと——



》》》》



 ΑアルファフレームとΩオメガフレーム。

 さらにはΩオメガの支援機体であるΩオメガエクセルテグを始め、Αアルファチームのシグムント・ヒュレイカにΩオメガチームのシグムント・エリート——救命艦隊側ではセイバーレスキュリオのアップデート機体がコル・ブラントへと続々搭載される。

 そんな中……今後を見越した各機体への強化装備も積み込み終了を見ていた。


 そこでまあオレとしては案の定と言うか——積み込んだ強化装備の一覧に、頭を捻ったマケディ軍曹からの通信が飛んでいた。


『クオンよう……ちと聞きたいんだが。お前さんが搬入依頼したブツの中に、明らかにおかしい物が混じってるけどよ?こいつに俺達も、どう対処していいのか判断に迷ってんだが——』


 旗艦出撃に合わせての待機命令に準じるΩオメガコックピット内。

 軍曹が頭を捻るそれが映像で送られ……無理もないなと思うままを返答しておく。


「今はまだそれを使用できるかデータが不足している所だ、軍曹。けれどいずれ使うべき時が訪れる——それまでは、その他の備品扱いで格納庫奥へ待機保管させてくれないか?」


『こいつはΩオメガに必要な装備って事か?それにしてもよ、この形状からしてどこに使うのかが検討もつかねぇぜ(汗)』


「それは追々に……。今はオレの指示通りに頼む、軍曹。」


『かーっ!少佐殿に命令されちゃ、俺も嫌とは言えねぇなぁ!だがちゃんと改装時は詳細を説明してくれよ!?でなけりゃ整備Tとしては何も出来ねぇからな!』


 嫌味ではない——ある種の祝いを込めた煽りで通信を切断したマケディ軍曹。

 済まないと謝罪を送りつつ、データ画像に映るその異様な物体を確認し思考する。


「(Ωオメガの動力となるロータリックリアクターは、あの旗條きじょうの見立てでも何らかのリミッターが掛かったような出力特性を示すと報告されている。)」


「(それはジーナが収集したデータでも確認済みだ。だが……楽園技術部門で見つけたΩ——)」


 データ不足ではあるも——

 オレの推測ではその両者が無関係には思えなかった。

 そしてそのヒントは思わぬ所から飛び込んで来ていたんだ。


 ヒントとなる物——それは地球の盟友から贈られた相棒RX‐7に搭載された、世界唯一のガソリン型内燃機関の内部構造。

 それが……その中心部であるピストンに当たるローター部分が軍曹の頭を捻る物体に似通っているんだ。


 しかし、片や化石燃料機関を搭載する自動車レベルのサイズ。

 片や宇宙に於ける五大理論とも言える、統一場粒子クインテシオンを発生させる禁忌の動力機関ブラックボックスでの使用前提規模。

 そもそものスケールが違いすぎて、双方を同軸に見る事そのものが馬鹿げている。


 だが——


「(見かけのスケールなどは、所詮人間が知り得る範疇での考え。それが宇宙のつかさどる理論上となれば話は別だ。)」


「(理論上それがまかり通るならば、共通した基礎の上でそれは成り立つ。同じ形状の物体が組み込まれる機関が、スケールによっては全く別のエネルギー生成を可能性とする場合さえあり得るんだ。)」


 そんな、現状机上の空論レベルのデータ解析を進めつつ——

 格納庫のカタパルト方向を映し出すモニターを見やった。


 電磁カタパルト両翼に立ち並ぶ錚々そうそうたる機体。

 そのいずれもが、今まで宇宙人そらびと社会で常識であった無人オペレート機 A・Fアームド・フレームを軽々置き去りにする様相——外見に止まらぬ性能面では言うに及ばずの


 これより我らクロセイバーが穿つ剣として振るう機動兵装達だ。


 それを思考に描きつつ——

 コル・ブラント出撃の時を今かと待つパイロットらへ……新たに拝命された少佐として言葉を贈る。


「各員そのままでいい。これより俺達はこの戦術機動兵装 T・M・Wタクティカル・ムーバブル・ウエポンフレームと言う武力を持ちて火星圏外縁へと赴く。元より軍部に属していたエリート隊は言わずもがなだが、聞いて欲しい。」


 モニターへ映る各員はそれぞれ言葉を挟む事なく聞き入ってくれる。

 皆も感じているだろう——この言葉はオレが少佐となって初めて下す命令だ。

 今までの様に重責を背負っての物。


 けれど今この時だけは皆に言いたかった。

 少佐としてではなく……一人の家族として——


「今後ヒュビネットが展開するザガー・カルツと交戦する事があれば、オレ達はこのT・M・Wタクティカル・ムーバブル・ウエポンフレームと言う武力を以って事に当たらねばならない。それは。だからこそ——」


「皆の心には常に家族が共にある事を刻んでいてほしい。さらには相手取る敵が真に武力で打つべきであるか……その武力があらぬ場所へ向いた場合、どれ程の悲劇を生んでしまうのか——それを決して忘れない様にして貰いたい。」


 遺恨の連鎖は新たな火種を生む。

 オレ達救世の使命を受けた部隊が火種になる現実は確実に存在する。

 するからこそ——武力を振るう者は、常に考え続けなければならない。


 あの炎陽の勇者、紅円寺 斎こうえんじ いつきが拳で示した正義の様に——


「では……各員、出撃命令まで待機だ。通信終わる。」


 終始聞き入っていた皆が、最後に上官へと贈る敬礼で通信を切断する。

 そこから時を置かずに月読つくよみ指令からの旗艦出撃命令が下った。


 聖剣と呼ばれた旗艦コル・ブラントへ、太陽系と宇宙人そらびとの命運を乗せて……オレ達は壮絶なる戦乱の最中へと一歩を踏み出したんだ。

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