第139話 楽園の家族達



 蒼き霊機Ω・フレーム蒼き戦制機エクセルテグ機動テスト終了を見た頃——


「……それはまた大きく出たな、クオン。致し方ない……許可しよう。」


「すみません、指令。ですが……今後奴との戦いを控えたオレ達には、必ず有利に働くとの思考に基いた物です。ご協力に感謝します。」


 双光の少女ジーナへ正規の休憩を告げに行った蒼き英雄クオンは、直前に旗艦指令月読と今後のやり取りを行っていた。

 だがそこに急遽差し込まれた英雄の案件で、旗艦指令の眉根が嫌な汗と共に歪む。


 その急遽差し込まれた案件とは——


「……クオンよう。このご時世によくそんな無茶を押し通したな。もはやそれは職権濫用に——」


「ダメっすよ、チーフ!クオンさんはすでに少佐っす……逆らったら独房入りどころか、軍法会議物に——」


「待て待て、旗條きじょう。それじゃオレがまるで悪徳上官みたいじゃないか(汗)元はと言えば、オレは部隊でも中途半端な飛び入りだった身だぞ?」


 宇宙人の楽園アル・カンデ宙域でのテストを終えた足で蒼き英雄が向かったのは、剣を模した旗艦コル・ブラントへの機体搬入に従事していたイカツイ軍曹マケディの元である。

 蒼き戦制機エクセルテグの最終チェックとして同伴していた気鋭の准尉旗條も、旗艦内大格納庫で英雄の言葉に驚愕と謎の恐怖で狼狽うろたえていた。


「まあ、オレの素性云々はさて置き……確かに時間と場所は伝えたからな?マケディ軍曹。整備Tを全員引き連れて来るのを忘れずに。」


 イカツイ軍曹らに必要な言葉を伝えるとすぐにきびすを返した蒼き英雄。

 らしからぬ慌ただしさに、チーフを始めとした作業中の整備Tの物まで呆けた表情で固まっていた。


「チーフ?オレ達つい先日、あの〈宇宙そらの炭屋〉でっすよね?」


「俺にそれを聞くんじゃねぇよ(汗)こちとらまさかあのクオンが、パーティーを自ら企画するなんて思っても見なかった所なんだからよ……。」


 そう——

 蒼き英雄が差し込んだ案件とは……救いし者部隊クロノセイバー恒例でもあるあのイッツ・パーリィーであった。

 それも、剣を模した旗艦コル・ブラントのクルーに止まらない……部隊に関わる人員を可能な限り招集してのイベントである。


 聞き及ぶ規模は……イカツイ軍曹でさえも想定の遥か斜め上。

 まさかの楽園防衛軍本部指令から、総大将までもが招待者に名を連ねていたから。

 程なくそのパーリィー会場に選ばれた旗艦内大ホール——当初より、英雄より連絡を受けた給仕班が慌ただしく動き出す。

 しかし、いつになく忙しない給仕班はその最中……運搬する目移りする様な色とりどりの食事を尻目に皆一様の笑顔を浮かべていた。


 それもそのはず。

 蒼き英雄が通達した内容には、給仕班も準備を終えたらパーティーへ参加する様にと付け加えられていた。

 あまつさえ……救急救命部隊の精鋭に日常生活を支える主計科すらも招集した英雄。

 込められていたのは、救いし者部隊クロノセイバーとそれを支え続けてくれた皆への並々ならぬ感謝そのものであったのだ。


 そしてそれはこれより部隊が突入するであろう、想像を絶する過酷なる任務を予見してのものである。

 英雄がそのイベントに込めた想いは……その過酷極まりない任務で、誰一人欠けることなく楽園へ帰還して欲しいとの願いそのものだったのだ。



 程なく——恐らくは最後の晩餐が、剣を模した旗艦コル・ブラントにて幕を開ける事となる。



》》》》



「今回のパーティーは無礼講……総大将閣下らもその旨は了承済みだ。と言うわけで——」


「急遽の開催で申し訳ないけれど……乾杯の音頭をオレ——クオン・サイガが取らせて貰おうと思う。では……乾杯!」


「「「「かんぱーーい!」」」」


 画して宴は始まった。

 オレとしても中々に無茶振りだったと思うが、月読つくよみ指令が尽力してくれたのには感謝しかない。


 軍部よりはフキアヘズ総大将閣下を始め、天城あまぎ大佐から監督監督リヴ嬢に始まり……楽園サイドでは水奈迦みなか様が暁の会長を招いてくれ——

 流石に学園生徒は無理があるかと思いきや、会長のゴリ押しで旗艦への学生招待と言う暴挙?に出ていた。


 救急救命部隊は元より、工藤艦長にシャーロット中尉を始めウォーロック少尉が……同救急救命隊の女神達を引き連れる。

いかづち〉からは当然艦を率いるローナがモアチャイ伍長とリヒテン軍曹を連れ立ち……彼女があの艦内清掃に精を出すナスティ伍長ら、清掃Tを引っ張って来ていた。


 流石にナスティ伍長らは「場違いです!?」と否定待ったなしだったが、給仕班までもが参加する姿を目にし渋々と参加を承諾してくれた。


「ねぇ、クオン。私もあなたがここまで、思わなかったわ……(汗)」


「右に同じっす(汗)しかしこの人数……こんなに俺達に関係してる人達が——」


「おーいっ!いつきーーっ!こっち来て飯食おうぜーーっっ!」


「食べましょーーっ!せんぱーーいっ!」


ほふふっふぇるふぇふぉふぁもう食ってるけどなーーっ!」


「馴染んでるな~~(汗)って……こんなとこに来てまで節操無しかよ、ケンヤ(汗)」


「構わないから、友人の所へ行ってやれいつき。その方が会長も嬉しいだろうからな。」


「クオンさんがそう言うなら……失礼しますっ!」


 暁の会長とお騒がせな紅円寺学園生徒はいつきに任せ、綾奈あやなを見やるとその背後——少し久しぶりの突撃が強襲していた。


「お、姉、様ーーっ!これはいい機会です!さあ、お姉さまもお料理をたんの——ぐぶぇ!?」


「懲りないわねアシュリー(汗)久しぶりだけど、油断はしてなかったつもりよ?でもいいわ。今日は無礼講……アシュリー、お料理を堪能しましょう!」


「ゴホッゲフォッ!?……て、え?お姉さま?マジですかーーっ!?行きましょう、ささ行きましょう!!」


 その久々の強襲も綾奈あやなは苦笑を残して、アシュリーと共にスイーツの並ぶテーブルへと消えて行く。

 そんなアシュリーを見やる同チーム……ヴィエット中尉にエリュトロン少尉も、いつものシンクロした様な去り際ポーズを残して綾奈あやな達に便乗していた。

 そして——


「サイガタイイーーっ!チコーよれー!」


「むっ……ピチカ。すでに大尉は少佐だ……訂正を。」


「そーなのだ!忘れてたのだ!さいがショーサー、ショーシンおめでとーなのだ!」


 マスコットよろしく抱きついて来たモアチャイ伍長と、宴黙さの中にささやかな笑みを湛えたリヒテン軍曹が軽く会釈を送ってくる。

 その背後には定番の如く妖艶なオーラを振り撒くローナが立っていた。


「クオンにしては思い切ったわね?どうやらもう、あなたにとってこの部隊は——」


「ああ……そう言う事だ、ローナ。そこに至るまでの経緯は兎も角としても——その事実は揺るがないからな。」


「ローナ大尉の言う通りだな、大尉改め少佐!全く……これではもう軽々しく英雄殿などとは呼べんではないか!」


「あの、姉様!?今まででも充分軽がるしかったかと!?……あの、先日は紅円寺こうえんじ少尉へ失礼を!」


 ローナ大尉に並ぶ様に現れた救いの女神達。

 いつもの大物ぶりを振り撒くシャーロット中尉に、「先日……」と続けて来たのはいつきを引っ叩く寸前であったらしいウォーロック少尉だ。


 いつきから事を聞く限りでは、双方に落ち度など無い。

 言い換えれば……どちらも義を以っての行動である。

 故にどちらかを悪く言ういわれれなど存在していないと、オレは結論付けていた。


「構わないさ、ウォーロック少尉。部隊長として、いつきにも過ちを犯さぬ様注してはいる。が……彼が真に誤っていると感じたならば、その時は遠慮なく引っ叩いてでも彼を止めてくれ。」


「オレ自身が彼にそうしてくれと頼んでいる様に……な?」


 人は過ちを犯す生命だ。

 だから誰かが義の本質を知り、止めるために動かねばならない時もある。

 オレの言葉の真意を噛み締めた少尉は、並々ならぬ意志を込めた敬礼を送って来る。

 それを一瞥した姉もしたり顔でこちらへの謝意を見せた。


 そんな皆のやり取りを見やる月読つくよみ旗艦指令に天城あまぎ本部指令は——


「せっかくの無礼講やさかい、ささ……月読つくよみ指令も天城あまぎ大佐もウチのお酌で飲んでおくれやす。」


「あっ!?ずるいです、水奈迦みなか!私もお二人と仲良くしたいのです!」


「と言う訳で、今日ぐらいは付き合えよ?月読つくよみ。」


「二人の花に言い寄られては、断る理由もあるまいに。いいだろう、乾杯だ天城あまぎ。」


 ノンアルコールではあるを、水奈迦みなか様とリヴ嬢に勧められ……苦笑のまま飲み干している。


 艦のブリッジクルー、そして整備Tに至っては——


「よし、テメェら!一気飲みは体に悪いとローナの姉さんにどやされるからな……早食いで勝負でぃ!」


「いや、チーフ!?それも体には充分悪いっす——」


「ふっ……お相手しよう。」


「また少佐が乗って来た!?」


「もしかしてフリーマン少佐って、イベント好きなん!?」


「……そんなはずはない——よね?少佐?」


 マケディ軍曹に旗條きじょう……オペレーターの花達にハイデンベルグ少佐まで。

 その一団が先のパーティーを今まで延長させる勢いで騒ぎ立てている。


 それを見やる視界の脇に寄り添う影を感じたオレは、視線はそのまま言葉だけを投げかけた。


「これがオレ達の家族だ、ジーナ。」


「はい……クオンさん。」


 大ホールを埋め尽くす宇宙そらの旅路を共にした仲間と、支える者達を一望して告げる。

 いつの間にか隣に並んでいた最愛の少女へ向けて——


「ここにいる者達が皆……君の家族だ。だから——」


「はい……。」


 彼女の過去は変えられない。

 だからこそ、この温かな光景が少しでもその支えになる様に。

 すでに大人への階段を上り始めた少女の手を握り締め、輝き始めたその心へしかと刻んで行く。


「だから君は奴の言葉に屈する事など無い。もし奴が同じ様な手を繰り出して来るならば言ってやれ。」


「自分の家族はここにいる……とな。」


「はいっ!」


 オレの方を向いた少女の目には、もう過去に苛まれる様な闇は宿ってはいなかった。

 彼女に見た物は……オレ自身を包んでいる、あの蒼き霊力震イスタール・ヴィブレードさざなみだったんだ。

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