第138話 Ωエクセルテグ



「各データ観測を開始するっす!Ωオメガ・フレーム、並びにΩオメガエクセルテグ発進準備中よろしくっす!」


Ωオメガ・フレーム了解……これより新型兵装テストを開始する。Ωオメガ・フレーム——ライズアップっ!』


 それは双光の少女ジーナ聴取……そして戦狼アーガス移送見送りも終えた頃。

 整備Tの恒例行事である突貫工事を得た蒼き霊機Ω・フレームと、新型兵装となる専用戦術管制機Ωエクセルテグは早々の試験運用を開始した。

 兵装の運用を見据えた整備の諸々は、すでにイカツイ軍曹の手であらかたを終えた所ではあった蒼き戦制機エクセルテグ

 が——当のオペレーターである双光の少女の危機的状況が影響し、テスト運用が先延ばしとなっていたのだ。


 だが、ようやく復調を見た少女が蒼き戦制機エクセルテグんお操縦席となる場所に陣取るが——そこはすでにオペレートルームとは一線を画したパイロット・コックピットさながらの様相を見せ付けていた。


『メレーデン少尉!現在その機体は完全な素の状態——即ちそれを活かすも殺すも君次第と言う訳だ!ならば遠慮はいらん……君が思うΩオメガ・フレーム支援の形——』


しかとその機体メインシステムへと刻み込むがいい!』


「了解です!ジーナメレーデン——Ωオメガエクセルテグ……ライズアップっ!」


 機内モニターへ映る旗艦指令月読の言葉を受け——

 コックピット然としたそこを注視し……システムのあらかたを頭に叩き込んだ双光の少女が吼える。

 それは他ならぬ双光の少女が、宇宙そらと言う世界へ自らの力で踏み出した事を意味していた。


『ジーナ!今後のザガー・カルツとの遭遇戦を想定し、幾つかの管制パターンを準備して置く!だが君が機体に感じた特性でコレと思う物があれば、遠慮せず申し出てくれ!』


「えっ……と、ハイ!私もほぼパイロットとしてのオペレートは初めてで、まだ慣れるのが精一杯ですが——すぐにでもこの子を乗りこなして見せます!」


『ああ、いい気概だ!では行くぞっ!』


「了解です!」


 宇宙人の楽園アル・カンデ宙域を蒼き双光が舞う。

 それはあたかΩオメガの禁忌の光が二つに増えた様に、エウロパの天を切り裂いた。

 すでにブリッジに馴染む新進気鋭——兵装データ観測担当である旗條きじょう・ディスケスが見守る中……着々と蒼き剣の調整が進んで行くのであった。




 機体試験運用の最中。

 休息と一時的に宙域へ止まる機体より、二人の蒼きパイロットが観測艦へと移り……打ち合わせも兼ねた小休止を満喫していた。


「クオンさん!航行速度から算出した、Ωオメガ本機とのデータリンク上のブレについてですが——」


「待……て、ジーナ。そのと言うのはまさか、Ωオメガエクセルテグの事じゃ無いよな?」


「そうですけど?その方が可愛いでしょ☆そんな事よりクオンさん、この運用方法で私が思うにですね——」


 そう……確かに小休止である。

 だがその光景を、テスト運用状況観覧に訪れた物好き達が——眼にするや嘆息と生暖かい視線を送る事となっていた。


「ねぇ、お姉様?あの二人……何かありました?何かこう——……(汗)」


「私は視察に来た訳ではないのだがな。まあ……何かあったのは間違いなかろう。」


「はは……(汗)アシュリーにバンハーロー大尉が察した通り。まあ色々とあったみたいで……。」


 眼にした者達の抱いた感覚はその二人を覆う空気を表していた。

 上官と部下と言う関係性で言うには

 ともすればそのまま抱き合ってしまいそうな……何人もその間に入る事すらはばかられる——

 そんな雰囲気を、蒼き英雄クオン双光の少女ジーナが生み出していたからだ。


「あの……三人とも——俺は特段、変わった感じはない様に思うっすけど。」


 そこへ響いたまさかの言葉で時間が停止する。

 それはまさに同じく観覧に訪れた炎陽の勇者が漏らした、信じられぬほどに鈍感さを乗せた言葉であった。


「いつ……き、君?はぁ~~——」


「えっ!?ちょっ、何でそんなあからさまに溜息を!?」


「これは、重症だわね。お姉様……お察しします。」


「いや……アシュリーさ——」


「未熟者だな……。」


「バンハーロー大尉までっ!?」


 明らかな至らぬ感へ赤の美人大尉綾奈に、男の娘大尉アシュリーからも……さらには最も縁遠いと思われた鉄仮面の部隊長バンハーローにまで未熟を突っ込まれる炎陽の勇者。

 拳で戦う事にかけては群を抜く少年も、確実に誰もの後ろを行く無様を晒していた。


 しかしそこで、僅かな疑問に辿り着いた男の娘大尉がダメ元で質問を投げたのだが——

 それが発展してしまう事となった。


「って……バカいつきは置いといて、バンハーロー大尉——あんたがこの手の話題に普通に乗ってくるのは意外だったんだけど?」


「ちょっ!?俺をハブらないでもいいじゃないっすか、アシュリーさん!?」


「……ふぅ、ヤブ蛇だったな。言っておくが私は。火星圏に残してきたままだがな。」


「「「……えっ!?」」」


 そう……その時点ではまだ、色恋沙汰の延長上であったのだが——


「その代わり息子はかつて私の部隊に所属し……そして私が受けた任務で生じた失態の中、。」


「私がその判断を下さねばならなかった時……それを救い出したのはかの救いの女神——現在のシャーロット中尉だったのだ。」


 色恋など彼方に吹き飛ばす鉄仮面の部隊長の過去。

 耳にした三人も、言葉をつぐまざるを得なくなってしまった。


 一瞬で落ち込んだ空気を晴らす様に、鉄仮面の部隊長は僅かに口角を上げて語る。

 気に病む事はないとの意思を込めて。


「すでに過去の話……息子も現役を退いたが、存命だ。何よりこの部隊と出会ったお陰で、私が生きている内に女神へ礼を贈る事が出来たのだ。」


「感謝こそすれ、いたずらに事を悲観するいわれなどはない。貴君らもそう捉えた上で対処してくれるか?」


 過去を乗り越えた鉄仮面の部隊長。

 、同部隊に属する勇者らは後に知る事になるのであった。



》》》》



 Ωオメガエクセルテグ。

 かつて禁忌とも古の技術体系ロスト・エイジ・テクノロジーのブラックボックスとも称された、Ωオメガ・フレームの戦術サポート管制機。

 そして今は私の愛機となった、エクちゃんに搭載されるシステムを徹底的に頭へと叩き込みます。


 大まかなシステム部分は、Ωオメガ本機から切り離した物を拡張させた程度なのですが……今後のフレーム運用上でさらなる強化を想定した兵装も搭載済みなのです。


「ナイト・ストライク・ガーヴシステムにセイバーガーヴシステムか……。それにこのストライク・ガーヴの〈アサルトモード〉システム上に存在している、量子無線式 半自律機動兵装 アサルト・ガンシップ〈ヴァルキリー・ジャベリン〉——」


「まだロールアウトしたばかりの現状では、十分な機動データが得られていない——なら現状すぐに使用可能なナイト・ストライク・ガーヴを中心に詰めて行く方が効率もいいかな。」


 未知なる拡張装備——

 その実は拡張機能などではなくΩオメガ・フレームが本来持ち得る真の姿であり……クオンさんも敢えて手を出さずに来たブラックボックス中枢——詰まる所、禁忌の本質です。


『ジーナ、構わないか?機動実験プランのあらかたは終了した。月読つくよみ指令よりそろそろしっかりとした休息を取れとの命令が下っている。』


『オレ達が先に見舞われた事態を考慮してのものだ——その好意を無駄にはできないぞ?』


「あっ!はい、了解ですクオンさん!すぐにシステムをさせ……て——」


『……?どうかしたか、ジーナ。』


「あ……いえ、何でもないです!では私も向かいます!」


 エクちゃんのオペレートルームで詰めていた私を呼ぶクオンさん。

 ちょっと前に、いい感じになってしまった……英雄であり——私の素敵な人。

 でも私は彼を命の危険に晒してしまい、それがフィードバックして来ます。


 けど——

 今の私は、その事を大げさに卑下する事もなかったんです。

 それどころか……それを教訓に前へと進まなければ行けないと——決意すら心に宿した自分がいるのを強く感じていたのです。


「(Ωオメガ・フレームが封印された真の能力を全て解き放つためには、私がクオンさんと肩を並べなければならない——)」


「(私がΩオメガとあるためには、こんな所で立ち止まってはいられないんだ……!)」


 そして知らぬ内に私は己の限界を超えようと走り出していたのです。

 その身を包んだ、霊量子の波イスタール・ヴィブレードの胎動にも気付かぬままに——

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