第136話 蒼き双光の産声
あれから色々検査や何かに時間を費やし、私は招集を受けた軍本部大会議室へと向かいます。
クオンさんは「まだ本調子ではないなら無理はするなよ?」と、声を掛けてくれましたが……事の発端は私の隠し続けて来た過去。
それが起因し部隊の危機的状況を招いたとあれば、私は掛かる責を放置など出来ません。
そう思考している自分が、いつの間にかサイガ大尉ではなくクオンさんとの呼称で返答していた事に気付き——
おまけにあの、今も残る唇の感触でボッ!と頭が沸騰した私は……すぐさま妄想を振り払う様に足を速めます。
て言うかアレ、完全に愛の告白でしたよね?クオンさん(汗)。
しかも——ハイって言っちゃったし……。
ブンブンと頭を振って正気を保つこの視線の先、今まさにそのお相手の背が映り……慌てて視線を逸らした先には——
「あら?随分と
「な、ななななっ!?何でもないですって……何でも!やだなぁ~~
ああ——これ絶対見抜いてるよね?
だって
そんな大人の経験なんて私が叶わないぐらい熟してますよね?
クスクスと微笑む素敵でお大人な姉さんへ乾いた笑いを送りつつ……近付く会議室扉を視認すると、自然と気が引き締まります。
そんな私達を見やる
招集を受けた一同の中でも
ともあれ――私達はパイロット任務上としてはすでに定番となる、会議室の扉を潜ります。
すでに何度目かのそこを抜けた私は、今までの感覚と明らかに違う何かを感じていたのです。
それは近しい場所で何度も感じた
私がもう遠くに行ってしまったと感じた人達と同じ……宇宙と繋がる様な力の胎動を——
》》》》
〈
一騎打ち後の救急救命任務に、その後に訪れた窮地に対する事情聴取と……
そして今回の重要点……危機的事態を招く発端となったメレーデン少尉への聴取が主となる。
度重なる常軌を逸した事態到来にも慣れ始めた楽園防衛軍本部。
一々そこへ驚愕し身動きが取れぬのでは示しが付かぬと、本部ですらも本腰を入れて事に当たらんとしていたのだ。
馴染みすぎる金属製テーブルを挟み、軍幹部とパイロットが向かい合う。
先んじて別件事情の報告に訪れていた
「まずはメレーデン少尉……。此度は君の過去に起因する事態で、極めて危機的な状況を呼んでしまった訳だが――大まかな所はこのミドー将軍より聞き及んだ。故に、もしまだ不調が残る様であれば無理に聞き出そうとは考えてはいない。」
「お心遣い感謝します、
そうして始まった事情聴取は、事を預かる
が――
防衛軍本部としては、すぐにでも詳細説明を受けたい所……だがそれでも家族を
しかしその集まる面々が、また新たな驚愕を覚える事となる。
それは他ならぬメレーデン少尉のらしからぬ変貌ぶりにであった。
さらに言葉の端々へ滲む、
程なく、彼女が意を決して語った痛ましき惨劇の記憶―― 耳にした一同が言葉を失った。
それは言うに及ばず、
そもそも
安寧の約束された大地に住まう者達が、己の利権や自己満足のために戦火をばら撒くという惨状――果ては横行する人種差別や権力者の暴走に民が巻き込まれ……止めどなく理不尽な抗争が吹き荒れる世界など想像だにしていなかった。
高き理想と絆で結ばれた
だが……その惨状から逃げ出したと
高らかに――告げる。
「以上が今回の事態……私の過去が起因する危機の全容です。軍部並びに、コル・ブラントを初め、救急救命艦隊へも大変ご迷惑をおかけしました。」
「ですから今後私は、Ωの同乗型オペレートの任から一時離れようと思います。」
「……まっ!?待て、メレーデン少尉!それは――」
「すみません、指令。搬入された機体で私は大体の状況を察し……それが原因となって深淵に遅れを取った様なもの。けど――」
「今はそれこそが重要と考えています。サイガ大尉が最高のパフォーマンスを発揮するためには、私がΩのメイン機体から離れ――その僚機となる管制機から最高の支援を送る。それが今の私が取るべき最良である……そう思考した次第です!」
かつて
そこにいる誰もがまだ幼いと思っていた少女の、猛る思いに打ち震えた。
恐らくは、部隊の中でも成長度合いとしては最後尾であったブロンド少女。
だが――だがである。
それは本人も気付かぬ内に積み重ねられ、成長と言う研鑽の証を確かに刻んでいた。
何より、彼女は今の今まで
そう……今まで最後尾にいた事など置き去りにする様な成長速度は、あの炎陽の勇者ですら凌いでいたのだ。
それまで沈黙を続けていた
しかしそれは、ただの機体パイロットとオペレートを担当するサブパイロットと言う垣根を飛び越えていた。
英雄は――己が愛した少女へ最高の信頼を置き……進言したのだ。
「オレはメレーデン少尉の決意を推したいと思います。今の彼女であればあの
「今後あのザガー・カルツと交えた際に、備え不足で今回の様な危機を迎えれば……今度こそ家族であるクルー誰かの命が奪われかねません。オレとしてもそんな後悔はしたくない――よって、彼女が
今まで
が……英雄が口にした進言に込められたのは、これより彼だけが霊機を制御するのではない――サポートを担ってきたパートナーも供に機体の戦術的制御を行う事を意味していた。
大会議室へ詰める上層の面々が双眸を細め二人を見やる。
旗艦指令に至ってはかつて彼が夢見た、
「……二人の意志は受け取った。恐らくは今後を鑑みれば、それこそが今一番我等クロノセイバーに必要なファクターであろう。であれば――」
サポートパイロットの少女――否……双光の少女の意を確認した旗艦指令は、状況を静観し黙していた
「閣下――現在行われている部隊の各機動兵装調整プランへ、早急に
「我等はこれより守りの盾だけではない……穿つ剣を備える事となります。ですが彼らなら、それを振るうべき時を誤らないと確信しております。」
優男の総大将へ向けた視線へ宿すは絶大なる信頼。
旗艦指令の言葉を受けた総大将は告げる。
これから英雄と供に歩む者達が、選ぶべき判断に迷わぬ様……事が手遅れになり後悔をしない様――
手向けとも言える通達が、蒼き英雄へと送られた。
「振り上げた手に剣を
「クオン・サイガ。君はこれより
居並ぶ
背に控えた
襲う困難は暗闇に身を潜めながら近付いている。
だがしかし確実に、因果を超えるための一歩一歩を踏みしめながら英雄達は進んで行く。
そこへ新たに生まれた……蒼き双光の因果を引き連れて――
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