火星圏非常事態
第135話 蔓延る不穏は足並み揃え…
さらにそこで襲った
遠く火星圏外縁
遂に漆黒の牙がその宙域を目標に捉えつつあった。
「閣下。情報にあった件を調べさせた結果、閣下が提示した通りの事態が発覚した様です。」
「分かってはいた事だが……聞きたくはない情報だったな。了解した——引き続き調査を進めてくれ。」
「仰せのままに、では——」
評議会を内包するソシャール内——かの
ハーネスン・カベラール議長閣下は、部隊が宙域へ出頭命令にて訪れた際——そこで聞き及んだ太陽系内に於ける情報伝達の著しい遅延や不通に危機感を感じ……調査部隊を差し向け事態究明に奔走していた。
民の憩いの場でもあるソシャール〔ニルバ・ニア〕を、議長室から重厚な耐圧窓越しに見やる
「彼らがアル・カンデから我らの元へと訪れなければ、この由々しき事態さえも発覚する事がなかっただろう。よもや太陽系の連絡網の要……あの通信ソシャールが地球上がりのテロリストに占拠されていようとは——」
「どうりで、太陽系内の情報不備が各所で多発していた訳だ。全く……これでは防衛軍の名が地に落ちたも同然ではないか。」
今しがた代表閣下が入手した情報は、それ自体を知るには遅すぎるとも言える内容であった。
太陽系と言う世界の共有財産でもある、恒星間通信すら可能とする巨大通信ソシャール——それがテロリストの手に落ちていると言う現実。
言うなれば……各惑星及び衛星近隣ソシャール群国家間の情報伝達網が、完全に麻痺している事実に他ならなかった。
地球と言う世界でさえ、情報網が麻痺すれば未曾有の事態に陥る所……もはや宇宙国家間ではそれを遥かに超越した状況が襲っていたのだ。
だが——
その議長閣下ですら、事の全容を掴めていなかった。
それほどの事態がたった一人の堕ちた聖者が仕組んだ、歴史的な大事件の始まりという事実を。
すでにそれが大きく動き始めた未曾有の危機であると——
評議会で
そしてさらに火星圏方面より近付く二機の大型機影。
漆黒の準備した安寧を穿つ牙が……次々と集結しつつあったのだ。
》》》》
『こちらはあらかた掌握した。これより奴等との合流を待つ。』
「ああ……了解だ。っと発狂女、聞いてやがったな?これから合流するのは一応お味方だ……間違ってもケンカ売ろうなんざ——」
『邪神の尖兵なんて、聞いた事もないじゃん!?何それ、マジで面白そう!やってもいい!?キヒヒヒッ!』
「ば、バカか……このアマっ!?それを止めろって言ってんだろうが!!」
同時に——合流予定である者達を迎える算段の
「邪神の尖兵——そんな者の力をわざわざ借りる程に、ヒュビネットの案は予定が狂い始めていると言うの?こちらは依頼通りに動くしかない訳だけど……。」
『すでに光学映像で視認できる距離に入った様だが……驚いたな。』
「……あんたは相も変わらず、機動兵装の類には目がないわね。」
『機動兵装……もはやアレらはそんな
『不動の駆る
もはや定番の成り立たない様で成り立つ会話が飛ぶ。
冷徹なる傭兵の口にした不穏なるそれは、
この火星圏の邂逅が物語る事実——それは漆黒の準備した策が、大詰めを迎えていると言う事に他ならなかった。
そんな中、二体の神の巨人を視認した傭兵部隊へ——
一瞬耳を疑う通信が飛ぶ事となる。
『っはーーーっ!……お前らが人類社会の革命を謳う部隊とやらか!じゃま一つ手合わせと行こうか。そこの格闘が出来そうな奴……前に——出なっっ!!』
「なっ……!?いきなり何の——」
復讐姫の駆る
その体躯は
さらに塗される配色は漆黒に
そして逆三角を複雑に組み合わせたそれは、破壊の悪魔を連想させた。
接敵するや死の鉤爪と震える刀身が火花を散らし、刹那の攻防が宙域を染め上げた。
「お、おい!?何がどうなってんだ!?発狂女ならばいざ知らず、なんであの復讐娘が戦闘なんざおっ始めてやがんだ!」
発狂女と称される少女は今しがた抑えを効かせたばかりであった。
だが想定外の人物……まさかの合流側が一触即発を軽々ぶっちぎった事態には、動揺を隠せなかった。
それを見越した様な通信が合流組の巨大なる機影より放たれる。
機体各部が隆々とした筋肉を思わせる形状に、装飾を含めた炎舞う様相が仏門でいう所の〈不動明王〉を想像させる炎の機神。
そして
『奴流の挨拶。心配には及ばぬ。静観されよ。』
「……挨拶にしてはちと度が過ぎてんじゃねえかい!?なあ、新参さんよっ!」
加減度合いの行き過ぎに苦労人の隊長も声を荒げるが……そのやり取りを尻目に、
双方の一撃が、互いの機体メインカメラを狙い突き出された刹那……同時期に響く通信がそれを停止させた。
『威勢がいいのは構わんが、無駄に戦力被害を増大させるな。これ以上の事態悪化による策の前倒しは避けたい所だからな。』
停止した復讐娘と狂気の使者が通信を察知した方向をモニターで視認。
声の主を確認し嘆息としたり顔……それぞれの心境を顔へと覗かせた。
それに合わせ合流組と待機組が次々とモニターに映る巨艦の方へと向き直り——
その先に、長大な翼を広げる
「これからの任務は追って指示を出す。こちらも現状ゲームの駒不足で難儀していた所だ——精々俺の指示を卒なく
それ見よがしに新たな戦力を同志呼称で呼び表すのは、他ならぬ
彼にとっての重要戦力が、この暗雲渦巻く火星圏外縁
状況を艦内モニターで一望する、たった一人……同志と言う言葉の羅列を受け入れられぬ女性をあざ笑う様に——
》》》》
『議長閣下!ここはすぐに奴らの手に落ちます!どう……退……——ザッ、ザッー——』
遥かな木星圏を見やる議長は静かに双眸を閉じる。
最早手遅れとなる事態への無念と後悔を抱きながら。
「何と手回しの良い事か。これが奴の描いたシナリオ……ゲームと言う訳か。もはや悔やんでも悔やみきれんな。」
独りごちた議長閣下——ハーネスン・カベラールは閉じた双眸を開いて議長室扉を一瞥する。
すでに重厚な金属扉にプラズマカッターの閃光が突き立てられ……程なく最後の扉が崩壊。
彼はそれを機に雪崩れ込む侵入者を視界に捉えた。
「これはこれは議長閣下殿、お初にお目にかかります。我らの存在はすでにお気付きでしょう。」
「ああ、知り得ているとも。地球は蒼き世界で戦火を広げる俗物共——火星圏議会強硬派 米国宇宙開発部門特殊斥候部隊 トランピア・エッジよ。」
「これは異な事を……そちらの宇宙に住まう者こそ、
「開口一番に技術の兵器利用が漏れ出す貴君らでは、我らと分かり合う事は出来んな。だが——私は逃げも隠れもせん故、せめて議員の方々は安全を保障してくれ。」
「気に食わぬ物言いだが……我らとて地上のテロリスト共と同類にされては敵わぬ。そこは保障しよう。」
「(クロノセイバーよ……人類の命運は託したぞ。)」
そう……
堕ちた聖者が弄した策へ——
まんまと乗せられた、愚かなる戦火を撒き散らす地上人が……その血に流れる忌まわしき呪いを撒き散らし始めたのだ。
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