第134話 エル・クラウンナイツ
程なくそれが
想定外の事態を把握すべく、
さらには、すでに先んじた皇子殿下の顔も見える。
が……それだけでも想定だにしない事実な上――現れた姿に上層幹部面々が息を飲む事態となる。
現われたるパイロットは、
しかし面々が息を飲んだのはそれだけではない。
調律騎士の青年はカツシ・ミドーと名乗った事に加え――傍目からしても異常な身体の状態を目にしてまった故である。
「
「ああ、全ての生体データに相違は無い……本当にあの
「クオンではありませんが――戻るために8年もの時を費やしてしまい、申し開きの余地もありません……隊長。いえ――」
「すでにクロノセイバー部隊の旗艦指令でしたね?
優男の総大将の面前で再会を懐かしむは、当時調律騎士が所属した部隊で隊長を勤めた
消息不明となった騎士がまだ一隊員であった頃――
すでに防衛軍より捜索打ち切りが宣言された後も、彼は独自のパイプを駆使し……仲間であり忠実な配下であった騎士を数年に渡って探し続けていた。
何より旗艦指令は己が、当時牙を剥いた漆黒の策略の一端に躍らされ――結果一度に二人の部下を失ったも同然であったから。
一人は正規ではあるも民間協力隊の扱いである蒼き希望……そしてもう一人は、火星圏の部隊からの協力出向と言う立ち位置の少年であった。
「諸々を殿下とフキアヘズ閣下より聞き及んだ時はまさかと思ったが、君の現在の立ち位置からすれば――それはそうせざるを得なかった、と言う所だろう。気に病む事はない。」
旗艦指令とて部隊を預かる地位まで登りつめた。
故に少年から立派な騎士へと成長を遂げた彼の口にした、重き重責の掛かる名で粗方を察していたのだ。
「フム……そうじゃの。ワシでさえカツシが生きておったと聞いた時は驚きこそしたが――それも数年前の話じゃ。将軍の事情と現在の扱いにはムーラ・カナ元老院……それもあの最長老 ニカ婆さまが骨を折ってくれたものである――」
「そこへ文句のある奴は、片っ端からシバによる頬っぺたムニムニの刑じゃ!心せよ!」
「シバなのですか!?ではシバがムニムニの刑を執行するのです~~☆」
「「「は……はあ(汗)。」」」
場を読んだのか、壊しに掛かっているのか――否……
それは調律騎士が
――生きて戻ったならばそれで良い――
破天荒皇子が行動で語るのは、一重に調律騎士の心情を
皇子の振る舞いに微妙な汗を滴らせた上層の面々。
そこへ、排気音を
巫女装束を模したそれに陰陽紋をあしらう衣を後方へ
「勝志っ!……勝志……!ほんまに――ほんまに勝志おすな!?間違いなどあらへんでっしゃろな!」
「ええ、ボクですよ?
「――おおきに。ほんまに……生きて戻ってくれて、おおきに……――」
騎士に
すでに嗚咽に塗れる姿は、8年もの時に引き裂かれた思い人との再会に満ち溢れ……言葉も聞き取れぬほどに涙に濡れる。
騎士の青年も己が待たせてしまった事をただ詫びる様に、再会を果たした愛しき女性を抱き――優しくなで上げる。
すでに必要な聴取は終えたと、面々へ退室を促す破天荒王子は隣り合う
因果へ立ち向かう剣がまた新たに揃った事への、並々ならぬ期待を乗せた一瞥を残し……その場を後にした。
》》》》
救急救命艦隊旗艦〈
加えて機体調整のため、各フレーム隊をハンガーへと指示を出した。
取り分け、まさかの損害を被った
当然すでに準備された、新型兵装投入も含めた整備であるのは周知の事実だ。
それを終えたオレは、工藤大尉が付き添い簡易聴取の後火星圏へ移送されるアーガスを格納庫通路にて待つ——と、その前に先んじて下艦した救いの女神殿を労っておくとしよう。
「シャーロット大尉、今回はなかなか無茶を押し通しましたね。妹さんもそれを放置して危険宙域退避を選んだ
口にしたウォーロック少尉の行動を恥じた中尉は、僅かに視線を落とし——
「返す言葉もない。
「そこを言及するために、話題を持ち出したのではありませんよ?彼女の憤慨は
ウォーロック少尉の取った行為への謝罪と、
しかし彼女の悲痛が浮かぶ表情は、全く別の事を想像しての物と——オレも悟ったからこそ問い
「お見通しか……もはや英雄の名は不動と言えるな。その通り——原因はまさにこれ以外の何物でもない。」
オレの言葉へ嘆息のまま上げた腕。
今も痛ましく三角巾で支持される負傷したそれ。
彼女は言うに及ばず救急救命活動の最中、己の慢心が原因でその負傷を
傍目からすれば充分死闘を
だが……彼女の目指す姿はそれでは無い。
ないからこその浮かべた悲痛なんだ。
「私はこれまで多くの救助活動に従事して来た。だが、この五体が満足であるにも関わらず……多くの命を救えずに見送った。それは悔やんでも悔やみきれない。だが——」
「だからと言って、己が負傷しながら救助活動を行うなど……救命部隊員としてあるまじき事だ。救われる者がそれを見れば、不安や恐怖を抱いてもおかしくはないのだから。」
誇りを賭けて救急救命活動を行う彼女にとって、それは不名誉以外の何物でもない。
かと言ってそれを慰めたり励ましたりする事など……それに関わっていない者は口にする事すら
彼女の敵は即ち、己自身の慢心であるから。
そうして
目にしたのは〈
当然ゲスト扱いの彼を拘束する事などしていない。
そこまでを確認したオレは、沈黙を破る様にささやかな独自の意見を提示する。
今の彼女に唯一言葉を掛けられる者を一瞥して。
「今のあなたに言葉を掛けられるのは、一人しかいないと思いますよ?できればそれを胸に刻んでおいて頂けると、こちらも幸いです。」
告げた言葉のまま道を開けたオレと中尉の間へ、工藤大尉とアーガスが進み出る。
オレとシャーロット中尉の姿を捉えた大尉は言わずとも事を察し――こちらを一瞥するとアーガスをシャーロット中尉の前へと促した。
対面した中尉とアーガス。
直後……それは告げられたのだ。
「あんたが俺を救助してくれたシャーロット中尉、って奴だな。俺は危うく
「あんたがいてくれたお陰で——俺はやり直すはずの人生を失わずにすんだ……ありがとうよ、救いの女神さんよ。」
ゲストとして迎えられたアーガスは決して抵抗する事なく——
溢れる感謝の意を込めた手を差し出し……謝意を贈られるべき女性を
それを見た中尉殿は、
「礼には及ばないさ、これが私の使命だからな。あと私は小さくはないからな!」
初めて言葉をかわす相手に、中尉が中尉たる決め台詞を言い放った事で……女神の心が少しだけ——後悔の念から離れた様な気がしたんだ。
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