第131話 再開、8年の時を超えて
「クオン!?ちょっと……何がどうなって——」
『隊長、これマズイわよ!?
「なっ……!?それって、つまり——クオンっっ!!」
訪れた異変は、先に
確認された事態は有り体に言うなら——絶体絶命。
それは蒼き霊機が確実に堕とされると言う、二人の人命的且つ戦力的な側面に止まらぬ……今の
魔改造を施した大尉のシグムンド=ヒュレイカをしても、ゼロ距離で
『クオンさん……ジーナさんっっ!!』
『そんな——クオン、回避をっ!!』
『何て……事だ!』
各々の機体へ木霊する絶望的な叫びは、虚しく暗き深淵へと吸い込まれる。
その宙域には……
そのはずであったのだ。
「さらばだ、
無常なる砲撃が
視認した者全てへと壮絶なる絶望を叩き付ける様に。
が——
その絶望の渦中へ……遥か後方より舞い降りた影が飛び込んでいた。
「……っ!?何が起きた!?」
漆黒でさえ事態把握に困窮した。
彼の思考では全てが策の通りに運び、
だが機体が構える火線砲が放たれる寸前爆散し、危険を察した漆黒は後退を余儀なくされていたのだ。
驚愕に揺れる漆黒の機体内モニターへ……全く想定などしていなかった声が響く事となる。
『お久しぶりです、隊長。いえ……もうあなたの部下などとは口にしたくはありませんがね。ボクへ内通者容疑をかけて陥れようとした——非道なる漆黒の嘲笑などの部下などとは……。』
「っ!?貴様、なぜ——なぜ生きている!?」
想定どころでは無い。
漆黒としてはすでにその存在は過去の遺物。
彼が仕組んだ壮大なる策略の……最初の汚点。
事が上手く運ぶはずであったかの8年前に、最初の誤算を招いた張本人の一人。
「貴様がなぜ生きているっ、
いつもの嘲笑さえ忘れた様に声を荒げる漆黒。
その視界には、紛う事無き死んだはずの青年が映る。
それは
》》》》
唯一生きていた非常電源が、警告アラームで真っ赤に染まるコックピットへ申し訳程度の外部映像を映し出す。
そこに映る影は、オレの認識など遥か彼方へと吹き飛ばしていた。
衣の様に伸びる背部スラスターを備え、銀嶺の鎧甲冑を思わせる姿は……荘厳にして凛々しき様相。
まるで鎧を着た女神に守られるかの錯覚に陥った。
そんな思考に戸惑うオレの聴覚へ届いた声に——信じ難いとの思考と……同時に溢れる懐かしき想いが湧き上がるのを感じた。
『よかった、どうにか間に合ったみたいだね……クオン。』
「……そんな!?この声——
『約束したからね君と。必ず戻るって……。』
声色は幾分大人びてはいる。
だが確かにそれはオレが8年前に聞き慣れた声。
あの仕組まれた宇宙災害の折、二度と会えぬかもと絶望に暮れた瞬間――
けれどその声が放った通り……帰ると約束した友のもの。
オレの無二の親友――
「すまない、
『生きててくれてありがとう、なんてのは無しにしてよ?ボクは実際死んだも同然の身体なんだから。』
「……なっ――それはどういう――」
『それよりもまずは――君のパートナーの正気を取り戻すのが優先だ。フォーテュニア、頼んだよ!?』
『イエス、マスター!これよりフォーテュニア・ケルヴンテインは、霊量子情報をドール本体より分離……
オレとの会話もそこそこに、音声のみで響く声にもう一つの通信が重なった。
その言葉でオレは、
「まさか、
おぼろげながらに記憶を辿り行き着いた情報。
あの
殿下に至ってはかなり特殊な立ち位置ではあるが……恐らくオレの記憶が正しければ
オレが言葉を放つや、
それがサブコックピットへと吸い込まれると……モニター端に映し出されたジーナの元へ人型の光が届いていた。
機体を貫通する現象は人型の光が量子情報体を取る故と察したが……直後その光が少女の姿へ変貌した後――
未だ双眸を見開き正気を飛ばしかけるジーナを
『もう大丈夫。あなたの過去を……あなたの家族を貶める様な方は、新しき
『禁忌の蒼に選ばれし、もう一つの因果の定めよ……。』
目にした少女が語る言葉はどこか霊量子の振動めいて―― 一度に襲った事態に混乱を始めていたオレの思考までもを鎮めて行く。
直接その光を受けたジーナは、負に蝕まれていた表情が嘘の様に安らぎに満ち……程なく意識を手放した。
同時に……シャットダウンされた
だが――
「勝……志!?お前――」
『余り見ないでくれるかな、クオン。言ったよね?死んだも同然って。』
彼の言葉を現すその様相。
顔の半分を仮面で覆い――けどその端々に痛ましい傷が残り、全身黒甲冑を思わせるパイロットスーツで身を包む。
それを視界に捉えてしまったオレは否が応でも悟ってしまった。
『そちらはもう大丈夫みたいだ。後は――』
機体異常の要因となったジーナの精神安定を確認した
戦場の女神とも取れるそれが手にする武装――体躯の倍以上もある
『後はヒュビネット……あなただけだ!ボクの大切な友人に与えた仕打ちへの報い――しかと受けてもらうよっ!!』
銀嶺の閃光は
体躯でも
オレを機体諸共策略に次ぐ策略にて打ち倒す算段であった漆黒が、
迎撃行動に終了を見た
僅か後、刹那に襲った事態を
「
『うん、ただいま……クオン。ボクも約束を、やっと果たすことが出来た。』
それは全ての後悔と無念を洗い流す、8年の時を超えた再会だった――
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