第129話 救いの女神の死闘
一騎打ちが成されたその直後を狙った漆黒の非道なる砲撃。
それにより灼銅の機体が肩口より右椀部を捥ぎ取られる事態。
同時に……背後からの完全な不意打ちであった事が災いし、機体爆散は免れるも——コックピット内で激しく叩き付けられた
非道なる一撃を放った
一見その戦況は漆黒が執拗に戦狼の機体を狙い、技術的情報漏洩の防止行動を敢行しようとしている——誰もがそう思考してしまう状況。
だが——
その中にあって、漆黒はその視線をただ一点……モニター越しにΩフレームへと向ける。
漆黒が今懐に備える、対Ωフレーム用の猛毒を解き放つ決定打となる瞬間を——ただ只管に狙い続けていた。
「少尉、重力障壁そのままだ!クリシャ……バックパックの上部を機体安定台に使用する!」
「
『了解です、シャーロットさん!』
『イエス、マム!直ちに
『『『『イエス、マム!』』』』
小惑星帯宙域ではすでに
救助活動を行う
その中にあって……
救急救命に必要とされるバックパックは、その本体も様々な用途に使用出来る特別製——女神達が駆る命を救うためのそれは、機体の至る所がその面に特化した究極の専用機なのだ。
『隊長っ、
「……くっ!?致し方無い——対強化装甲用レーザーカッターでこじ開ける!クリシャは機体より出て私のサポートを——」
万一機体に衝撃が加わった場合、
刹那——
「くあっ……!?」
『ね……姉様っ!!?』
姉の機体へと走る衝撃がパイロットを激しく揺さぶる。
決して油断していた訳では無い小さな姉中尉――
が……さしもの彼女を以ってしても、機体の警戒システムの認識外となる微小物体――砲撃に弾かれた微小惑星には反応しきれなかったのだ。
『シャーロット大尉、大丈夫ですか!?』
『シャーロットさん……早く障壁内部へ!』
『ねえ……すみません!隊長、ケーブルを!』
「……くっ!私とした事が抜かった!久々とは言え危地での救命活動でこの醜態——これでは皆を叱責などできんな!」
幸いにも穿った衝撃は、機体運用に支障が出るほどでは無かった。
無かったが、それを操縦する小さな姉中尉は違っていた。
20mクラスの全長を有する霊機と違い、救いの機体は10mに届かぬ上必要最小限の装備を備える個体――当然コックピット内は相応のスペースしか有さない。
結果、想定外の衝撃はパイロットすら脅かす事態となりえるのだ。
赤き霊機の二人より……さらには妹少尉も姉の呼称で案じた叫びを響かせる中——したり顔を浮かべ己の慢心を自虐する中尉。
しかしそれは、現実を悟られぬ様に浮かべたカラ元気であった。
「(本当に油断したな……。今ので右腕が逝ったか——この痛みからして、上腕骨という所だろう。全く……慢心この上ない。)」
激痛を隠し、コックピットハッチを開け放つ小さな姉中尉。
その激痛の中機体バックパックからレーザーカッターを手に取り戦狼の機体へ——
視界に捉える妹少尉からのライフリングケーブルを受け取ると、それを船外活動服へ接続して自身の安全を確保する。
ヘルメット内に激痛から来る脂汗を浮かべながら、さらなる指示を妹と補佐に着く隊員らへと飛ばした。
「私が機体ハッチをこいつでこじ開ける!クリシャは一旦戻り救命ポッドをシャクティアと共に運搬——ザニアはカッター使用の補佐の後、要救助者を運び出す!」
「なお、救助者は現在多量の出血があり危険な状態だ!各員速やかに、且つ正確な行動にて対処せよ!かかれっ!」
『『『『『イエス、マム!!』』』』』
己が身の負傷すら隠し、救助者の命を最優先とする。
そこはまさに彼女が立つ戦場——傷を負っても使命を果たさんとするそれは、紛うこと無く救いの英雄。
その勇名の真価をまざまざと見せ付けていた。
戦狼が九死に一生を得るか否かの瀬戸際で、周辺宙域では異なる戦いが展開される。
漆黒が狙い定める真の目的が、未だ救いの英雄らに悟られぬままに——
》》》》
「アシュリー……ヒュビネットの砲撃を救助活動中の宙域に向けさせるな!その、シグムント=ヒュレイカの魔改造性能なら奴への接敵も叶う——」
「その機体の真価を叩きつけてやれ!!」
『了解よっ、クオン!
『カノエ、エリュ!私が奴に突っ込む——援護をお願い!』
『何この今までに無い、煌めく姿の隊長……久々に心が躍る指示じゃない!分かったわ、せいぜいあの空気も読めない
『あら~~カノエに同感ね~~、隊長がいつに無くかっこよく見えるわ~~!こちらも了解よ~~!』
十字砲火の一端がシャーロット中尉の方向へ飛んだ時には肝を冷やしたが、無事救助活動が開始されたのを確認したオレは……すかさずそれを円滑に進められる様弊害排除へと動く。
言うに及ばずそれは眼前でこちらと戦狼を交互に狙いすます、漆黒——エイワス・ヒュビネットの駆るディザード・マイスターズだ。
いくら
国際救助の旗は確かにあらゆる戦地での中立的な位置を示すが——だからと言って砲火に狙われぬと言う保証など無い。
それ故に新生
結果——
今重体となっているアーガスをいち早く救助するためにも、早急なる宙域の安全確保が急がれるのだ。
眼前の漆黒を纏う機体へ接敵する
追従する僚機さえも動きの鋭さを増すのは、アシュリーの心持ちが前へと向いた事が二人——ヴィエット中尉とアフェアンテーゼ少尉にさえ影響を及ぼしている形だ。
『クオン!ボサッとしてないで遠距離砲撃支援——お願いするわよ!?』
「ああ、悪い!アシュリーの善戦に見とれていた……!」
『ちょっ!?今そんな余計な賛美はいいのよ!?……でも——あ、ありがとっ!!』
決してお世辞などではない賞賛。
アシュリーも今ではそれを理解する故、照れながらも謝意を返して来る。
言うなればその彼女がいてこその
だが――
何よりもオレにとっての懸念材料は、正しくこの身のすぐ傍にある。
「ジーナ!調整のタイミングがずれ始めているぞ!大丈夫か!?」
『――えっ!?あ、あの……すみません!再度調整に入ります!』
不用意に言葉を浴びせてしまえばジーナの負担になると言葉を選びつつも――彼女が放つ違和感が次第に膨れ上がるのを感じていた。
同時に……この宙域全体を包み始めたザラつく感覚が、オレの心をざわつかせていた。
深淵の奥底から、黒き情念がこちらを常に狙い定める様な……纏わり付く殺意がオレを焼き焦がし続けているんだ。
そう思考しながらも、
その体で漆黒と接敵するアシュリーらを視界へ捉えたオレは……僅かな異変をモニターの遥か奥で確認した。
センサーが感知できぬそれは光学映像で初めて視認できるサイズの小型の機影。
映る機影が、アーガスの挑戦状を送り届けたドローン個体と同形状の物と察したオレは……それに備えられた不釣合いな得物を確認するや弾かれる様に声を荒げた。
「
叫ぶや
ヒュビネットの執拗な
だが……その最悪の想定は——
そこに至るまでの全てが漆黒による演出であった。
全てはこのオレと
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