第125話 戦狼からの挑戦状
異変は
それはその宙域から放たれたと思しき無人ドローン衛星が、
緊急では無いが、訪れた件へ関係すると思われる者が防衛軍C・T・O管轄の小会議室へと招集を掛けられる。
が……危険は無いとするそれが有していた情報により——憶測が飛び交う事態へと発展していた。
「この様に……明らかにザガー・カルツから発せられたドローン衛星ではあるが——そこから得られた情報に頭を
ドローン衛星からの情報……それは軍に属する者が視認したとて、理解に苦しむ内容であった。
——ザガー・カルツを出奔せし、戦狼より……赤き霊機を操る
「先のユミークルを名乗った、彼女の反旗に合わせた様な行動——戦狼を名乗ってはいますが……あのヒュビネット大尉が絡んでいないとは言えない内容ですね。」
言うに及ばず
だが——
その挑戦状と取れる内容を食い入る様に見ていた者が声を上げる。
それが例え罠であったとしても……臆さず挑まんとする気概を宿して——
「意見、構いませんか。俺が思うに……確かにあのヒュビネット大尉ならば何かの策を弄している可能性があります。ですが——」
「これは多分あの戦狼——アーガス・ファーマーの紛う事なき意思だと、俺は感じます。俺を名指しにする時点で、クオンさんとΩフレームしか眼中に無いあの大尉関与の可能性が低くなるかと。」
声を上げたのは
同時に……事をよく見定めた意見に旗艦指令ですら感嘆を顕とする。
赤き勇者の言葉は無知や憶測から来る物ではない——その何れの存在とも相対していたからこその、熟考された意見だったのだ。
意見した少年も揺るがぬ視線で、提示したそれが最も有力であると訴えかけ——同じく勇者へ賛同する英雄が続いて意見具申する。
「
「加えて……オレがあの木星圏総力戦で掛けた言葉の揺さぶりに起因した物と考えれば——戦狼の取る行動に整合性も見出せるかと。」
英雄までも口にする確信。
しかし通常の軍という組織では、その様な意見で迂闊な作戦行動を許可するなど言語道断である。
だが、思考する軍部上層に位置する旗艦指令と軍指令は違っていた。
そもそも
格闘家の在り方や
旗艦指令と軍指令は首肯しあい最終意見を提示する。
叩きつけられた挑戦状に挑む方向で——
「いいだろう……
「アーガス・ファーマーの一騎打ちと言う信念が誠と感じたならば——遠慮はいらん……君の持ち得る全ての真価を叩きつけて来るがいい!」
旗艦指令の視線は赤き勇者への期待で充ち溢れる。
指令とて、この勇者がもはや誰かの指示がなければ動けぬ学生上がりなどとの扱いはしていない——
眼前の赤き勇者に対し、蒼き英雄と並ぶ
「了解しました!」
揺るがぬ双眸の赤き勇者も鋭き敬礼にて復唱を返す。
その勇者に宿るは戦狼へ己が抱いた思い。
——戦争行為でなければ一騎打ちも辞さない——
それに応えんとする男の意思を、今確かに感じていた。
拳と言う力をただ暴力として振るった暴漢が……その心に正々堂々の意思を宿したかも知れぬ事実に打ち震えていた。
背後に見え隠れする……それすらも利用する漆黒の策略にも気付かぬままに——
》》》》
惑星間航行ブースターを持ち出した戦狼は、
約束された時刻までは1日を要するタイミングではあったが……戦狼は愛機となる
今まではただその拳を振るう事だけに集中し、機体整備などは全て整備クルーへ任せきりであった戦狼。
だが—— 一騎打ちを宣言してからこちら、己の手足となる機体を
「エウロパ近隣ならば、すぐにでも奴らの監視衛星に気付かれんだろう——それより外縁にアステロイド帯があったのは好都合ってやつだ。」
機体モニター群をしらみ潰しに確認し、僅かの異常も見落とさぬそれは……まさに決戦へ挑む前の格闘家であった。
程なく調整の全てが終わりを見た頃——手近なアステロイドへ張り付く様に機体を
彼の戦闘スタイルでもある我流ボクシングを中心に、総合格闘術を基盤とする赤き勇者の動きに合わせ——今まで自分が封印していた体術を組み合わせてシャドーボクシングを開始した。
戦狼が封印していた体術……それは己が一族に伝わる格闘術——破門を告げてきた師であるフォックス・バーゼラ・アンヘルムより学び取った【ダイモス流格闘術】である。
一騎打ちを宣言した以上、
だが……思考にはあの
そこには確かに……本質的な所が大きく変化しつつある戦狼が存在していた。
「俺には……何が……足りない!技か——速度か!いや、そうじゃない……何かが俺に欠けているから、俺はあいつに勝てないんだ!」
「赤き勇者と呼ばれる、あの
ただ頑なに
それはライバルとなった勇者に、技で、実力で……そして明確に勝利を宣言できる何かを目指して戦う武闘家の姿へと昇華されていたのだ。
——そして時は流れる。
戦狼が最後の後詰めとなる訓練に打ち込んで1日の時間が経ち……挑戦状に記された時刻が訪れる。
指定された場所……指定された時間に、二つの拳が相対した。
「唐突に変なもんを寄越して悪かったな、
「あんた——いや、アーガスが本気なのは何となく分かっていた。だから俺も本気で答える必要があると思っただけだ。礼には及ばないよ。」
小惑星帯でも一際大型な物の上を戦いの場とした、二体の巨人が双眸をぶつけ合う。
一つは赤き恒星の如き炎陽の機体——
一つは眩き黄と銅が炎
互いの拳と信念を賭けた一騎打ちのために……その場に存在するのはその二体のみである。
万一漆黒が何らかの策を弄した際を鑑み……機体調整を最後に回していた
だが、一騎打ちの立会いを申し出た
一騎打ちの邪魔になる物を一切排した舞台を作り出していた。
「ではクロノセイバーを代表し、クオン・サイガが君達の一騎打ち立会いをさせてもらう!細かいルールは必要ない——君達が思い残す事のない様……拳に魂を乗せて打ちあうがいい!では——」
格闘家型フレームパイロットとして少年を鍛え上げて来た蒼き英雄も、それに応じんとする戦狼に最大限の敬意を表し——
今……因果の邂逅の一幕——赤き勇者と灼銅の戦狼が、魂の拳を激突させる。
「……ルール無しのバーリトゥードゥ——始めっ!!」
『『うおおおおおおおっっっ!!!』』
木星圏、
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