魂をぶつけ合う者と、魂を犯される者…そして帰り着く者
第124話 漆黒出撃、猛毒を携えて
「隊長!?アーガスが出奔って一体どう言う事よ!?それも
それは
「どうも何も奴が決めた事だ。俺のゲームの駒では不足だと言うなら……俺の構う所ではない。」
「そう言う事を言ってんじゃなくて!何であいつに、ここを出て行くなんて選択肢があるのって話——隊長もあいつの望みを知ってるでしょ!?」
そんな砲撃主の行動さえも想定内と言わんばかりの漆黒——モニター群へ向けた体そのまま視線だけを彼女へと寄越し不敵に語った。
「アーガスの目指すものがどうであれ……奴は先の木星圏総力戦の際、あのΩを駆る英雄とやらから——恐らくは手遅れとも言える、言葉の毒を盛られた様な物だ。」
「そうであれば、すでに俺の手には負えぬ上駒としての価値も存在してはいない。最早奴は、飼われる犬ではない……文字通りの狼となった訳だ。」
「な……によ、それ!?」
口角を上げた漆黒の語る言葉の羅列。
が……黒桃色の砲撃手にとっては理解の及ばぬ語りであった。
戦狼を同僚と捉えていた彼女も、その男の本質までを理解出来ていた訳ではなかったのだ。
「あんた……ずっと奴と任務を
「あんだって!?あんた……言わせて置けば——」
漆黒の言葉に戸惑う砲撃手の背後から響くは、裏切りから部隊へ復帰した
掛かる言葉へ……今度は矛先を裏切り姫へと向けんとした砲撃手は——直後に放たれた漆黒の言葉に絶句する事となる。
「……だが——みすみすあれ程の手駒を野放しにしては、俺のゲームがいつ破綻するとも限らん。
「ユミークル……お前は今後に合わせて機体調整——デスクロウズプランに合わせて備えろ。俺がディザードで出る。」
「了解です、隊長。」
「な……隊長、一体——」
「皆迄言わねば分からんか?俺が直々にアーガスを始末すると言ったんだ。」
「えっ……?」
その言葉は……黒桃色の砲撃手の心に深々と突き刺さる。
砲撃手に隣り合った電脳姫も、それに動揺する事無く
そして——
モニター室には、呆然と立ち尽くす砲撃手だけが取り残された……。
素早くメイン機関を立ち上げると、機体モニターへ表示された兵装を確認し——
「武装は奇襲用の長射程火線砲と高集束バスターライフルへ換装。奴を始末すれば一撃離脱で帰還する——バックパックへ惑星間航行ブースター装備だ。」
『隊長……本当に彼を——』
「お前は指示に従え。奴はすでに出奔し、俺達より
『りょ……了解です!』
漆黒の緊急出撃に迷いを口にしたのは、整備クルーのチーフである若者。
故に——仲間として共にあった戦狼が手に掛けられるなど、と……思考へ憂いを覚えていたのだ。
だが漆黒が口にした理想との下りで覚悟を決めた若者は、指示に従い必要装備を黒き隊長機へと換装して行く。
それを見やる漆黒は……思い描いた全ての流れを感じ取る様に——彼を象徴する嘲笑を浮かべ、出撃の時を待ち侘びていた。
「奴の出奔は現在の部隊結束への大きな鍵となる。ユーテリスは
「アーガスを餌に
漆黒は天才であった。
全ての因果をその
起こり得るあらゆる事象への対処を至る所で張り巡らせ……用意周到なる思考で獲物を追い詰める。
そしてその牙が狙うのは——Ωフレームと言う、奇跡を体現した蒼き巨人であった。
》》》》
自分にとっては今まで楽しかったはずの、旗艦クルーとのバカ騒ぎ。
そのはずが——
別に皆との交流が嫌な訳じゃなく、むしろその逆だった。
——本当に私はそこにいていいのだろうか——
すでに募る不安は自分でも気付かぬほどに増大し、それが顔に出ていたのだろう——
次第にその不安が体調にさえも影響を及ぼすほどに悪化していたんだ。
「はい、今日の検査はここまで。……時にジーナちゃん——何か気持ち的な事で悩みを抱えているのなら、必ず私に相談しなさい。いいわね?」
「はい……その——お気遣い感謝します。エンセランゼ大尉。」
バカ騒ぎは宴も
その中で私の表情を見るに見かねた
心身に於ける諸々の検査を終えた所……この素敵な女医にまで心配をかけてしまう。
感謝を送るもすでに形だけの言葉で取り繕う自分——気遣われる事にさえ距離を感じる。
でもそんな事もお見通しなのか……
「あの、
「気晴らしよ。ジーナもそうだけど……私自身もいい機会だし、ね。」
程なく見えて来たのは、すでに見慣れた素敵な上官さんからは想像出来ない建物—— 一面が
頭を
「モーターヴィークルの事しか頭に無い人が……とか思ってるでしょ、あなた。」
「ふぇっ!?いや、そんな事は……ちょっと思いました。すみません……。」
「いいわよ。それも真実だし?」
ジトリと半目で口角を上げた
それでもそれを真実と笑って流す素敵な彼女は——間違いなく大人の女性だった。
そのまま建物中央へと進む私達の目に止まったのは——
「
「ご名答……調べたらちょうどそんな時期だったからね。ちょっと懐かしむために来た訳よ。」
植物園の中央に
私自身は
そして言うに及ばず、このアル・カンデに居住するアジア系——日本を故郷に持つ人達の心の花と言っても過言ではない代表的な花だった。
アル・カンデは四季という物が存在しないソシャールコロニー群でも、数少ない四季を感じられる気候管理制御を行っている区域でもある。
そんな中にある植物園は、その四季に合わせた地球原産の植物を栽培研究する施設でもあり——同時にソシャール民が気軽に訪れる事も認可が下りている場所。
そこで
そこは
さらには自分が抱いていた呪われた大地の呪縛……そこから少しだけ離れられた様な気がして——
気が付けば私の頬は、瞳から伝う熱い物でぐしゃぐしゃに濡れていたのです。
でもそんな私に、言葉を掛けず……ただ寄り添ってくれた
お陰で、そこから少しの間は自分を取り戻せた——そんな気がしていました。
そうです。
自分でも分かる程に疲弊した心は、癒される事を求めながら……けれど広大なる深淵の
そしてその心が……深淵に堕ちる寸前の私自身が——あのヒュビネット大尉にとって、最大の武器になるなどとは想像だにしていなかったのでした。
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