観測者達の黄昏2

第??話 観測者は遥かなる姉妹と黄昏る2



 祭典の地イクス・トリム救済がなって後、内通者の反意が監督官と呼ばれた少女を人質にしたまま……使用したシャトルが漆黒の差し向けた機体へ向かう。

 そして打ち捨てられた少女は、シャトル自動航行により剣を模した旗艦コル・ブラントへと帰り着く。


 その間……僅かに反意の少尉と言葉を交わしたのは人ならざる少女リヴ嬢ではない——彼女の体を依代として降臨した観測者リリスであった。


「あの娘……心の奥底で求めていた物はすでにその手にしていたはずじゃ。が——それを投げ捨てる覚悟すら抱かせたのはやはり奴……漆黒の嘲笑じゃの。」


 それは嘆きの観測者としても望まぬ結末であり——彼女にとって耐え難き試練でもあった。

 観測者としての定めを背負う者であれば、まさに因果の糸を歪めてでもそれを止める事は叶ったであろう。

 だが、それを行う事は禁忌であり……神の如き力を手にする者が決して手に染めてはならない所業である。


 眉根を寄せ俯向く嘆きの観測者は独りごち……直後、その意思を何時かの様に遥かなる高次元へと飛ばした。


「どうじゃ?そちらは。事は順調か?わらわは少々因果に翻弄され、もう何度目か分からぬ悲痛に痛めつけられておる。」


 シャトル内で独りごちる様な嘆きの観測者——そして僅かに遅れて響くのは、かつて言葉を交わした蒼き星を見る者の声。

 同胞であり、姉妹であり、そして別れ身である少女アリスの声である。


『私の方は良好——とは言い難いですね。やはりその背に背負った罪に耐えかねております。竜機の目覚めは成しましたが……それもかの者達襲来に遅れを取った形。』


『数億年の間幾度となく繰り返した事ですが……お互いにままなりませんね。』


「……言うな。それをわらわ達は覚悟の上で、この永遠とも思える茨の道を選んだのであろう。」


 互いに思い——互いを憂いた観測者は僅かの時言葉を止めた。

 どちらと無くその雰囲気を察する少女を形取る神なる者は、ままならぬ因果へ向ける様に宇宙の深淵を見つめた。


 沈黙の最中も航宙シャトルは剣を模した旗艦コル・ブラントへ向け帰路を取る。

 その沈黙を破ったのは……星を見る者アリスであった。


『ああ……一つ言い忘れていました。こちらは私が直接関与出来ぬ件の方ですが——草薙が擁する剣には無事……いにしえの技術譲渡を終えました。』


『かの太陽の帝国ラ・ムーを継ぐ暁の国——そちらが背負う因果への対応は何とかなるかと思いますよ?』


「そうか……。そちらも只ならぬ因果が——動き出した様じゃな。さて——」


 モニター越しに映った、巨大なる宇宙人そらびとの希望たる剣を目にした嘆きの観測者は穏やかに双眸を閉じ——


「では事に変化が訪れたならまた、うぬへと送るとしよう。くれぐれも……そのうぬに残された僅かの時を無駄にせぬ様にな?アリスよ。」


『お心遣い、感謝致します。ではリリス……また——』


 その言葉を最後に……高次元を行く神と同位である者達の会話が終わりを見ると——

 航宙シャトルが旗艦の放つ牽引ビームに引き寄せられ、着艦の運びとなる。


 格納庫にはすでに彼女——観測者ではない監督官の少女リヴを案じた錚々そうそうたる面々が並ぶ。

 リリスと言う存在は僅か一部の選ばれた者のみ知り得る故……自らの意思を嘆息のまま眠りへと向ける嘆きの観測者リリス


「因果は確かに淀んではいる——が、クオンにいつき……彼らが今それを照らさんと歩み続けておる。ならばわらわは——」


 その思考を最後に——意識を監督官である少女リヴへと渡した嘆きの観測者は、またしばしの高き次元での眠りについた。


『監督官殿!お怪我はございませんか!』


 監督官の少女を真っ先にに案じた、旗艦指令月読の声を意識の片隅に響かせながら——

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