第123話 陰る蒼と、決意の戦狼
しばしの休暇を満喫する
未だメンテナンス中の旗艦に先立ち……来る有事を控えた軍部としても、早急に新兵装データ収集とロールアウトを済ませたい実情が存在していた。
『先にも話した様に、
『それぞれの尉官である、サイガ大尉と
「「了解っ!」」
通信により、
新兵装導入にあたり、充実した戦力へさらなる汎用性を与えるため
軍部内でも想定された、かの
加えて——
国際救助任務専用の電撃救命部隊編成として Αフォース隊へ救急救命隊【
その Αフォース隊は、暫く充分な部隊活動が無かった事もあり……優先的に実践段階での調整を兼ねた模擬戦が行われていた。
模擬戦が行われるそこは楽園生活重力圏内——三衛星の軌道共鳴危険時刻も過ぎ、軍事演習可能となった宙域。
『どうしたの、この格闘バカ!足元がお留守になってるわよっ!』
「くっ……ヤバイっすよアシュリーさん!その機体——どんだけトンデモカスタムしたんすかっ!?」
『落ち着きなさい、
宙域を所狭しと舞うは、宇宙戦用の外部スラスターユニットを装備し――且つこれまでの戦闘で弾き出されたデータを反映させ……対宇宙格闘戦用機体へと特化した
対するは——
『あーあー、聞こえますか?アシュリー大尉!こちら
『いや、そう言うのはいいから!?ちゃっちゃとデータ寄越しなさいな!確かにこいつ……
『お褒めに預かり恐悦至極っす——』
『語尾の「っす」は止めろ!格闘バカしか浮かばないっ!』
『そ、それは無茶っす!?』
元来ラグレア隊へ全機配備予定であった、
そこへ、整備Tから華々しい躍進を遂げた
目に余る程のジャジャ馬ぶりはまさに彼女の専用機に相応しく——すでに
ジャジャ馬な所もさる事ながら、 Ωフォース隊と共用装備として各機体が纏うカラーリング——〈ミストラルシーリング〉と称される極薄のナノマシンフィールドを形成するそれが、色味を帯びてコーティングされる。
機体色として Ωフォース隊は軍機用グリーンに加え各種可動関節部へディープブルーを……そして Αフォース隊には薄い桜色をベースに可動関節部へディープレッドを配する。
その中にあって、専用機である男の娘大尉の〈ヒュレイカ・ジェイダイト〉は彼女専用カラーとして翡翠色を機体に纏っていた。
『双銃打突部位は、格闘戦用に特殊設計した強化人工オリハルコン製っす!
『良いわね、この感触!格闘バカを直接フルボッコにしてる様な感覚が——』
『……聞こえてるっすからね、アシュリーさん!?そんな個人的感情で訓練はダメっす!』
『あーもう!あっちもこっちもスースー五月蝿いわね!気が散るじゃないのよ!』
『『そこまで言うっすか!?』』
専用機体に専用武装。
近接格闘を
しかしその状況は、以前のデモンストレーションの時とはまるで違っていた。
そう——今の男の娘大尉は憎悪や殺意が鳴りを潜めた、戦士の研ぎ澄まされた
故の劇的に向上した一撃一撃の精度……さらにはジャジャ馬の性能が上乗せされた攻撃が襲い来ているのだ。
「機体の性能は折り紙付きとして……肝心の彼女の心根は、大きく変化したと見ていいようだな。それに——」
「はい……ディスケス准尉は整備Tでもあのマケディ軍曹に着いて手解きを受けた身。腕は確かと、軍曹より推薦された所です。」
宙域を一望出来る観測艇へ詰める
それは男の娘大尉の目に見える変化だけではない……彼女を支える様に整備Tからのし上がり、現機動兵装データ管理担当となった
「……一先ずこちらはこれで良しとしてだ——クオン……メレーデン少尉の精神状態が悪化しているそうだな?そちらは看過できん状況だぞ?」
眼前の成果はすでに憂う所では無い。
無いが——憂いは思わぬ所より影を落とす。
旗艦指令の言葉へ僅かに眉根を寄せた蒼き英雄……それを視認した指令も、そこへ予断出来ぬ事態を悟る。
しかし言葉を選びかねる英雄へ、それ以上の言葉を控えた指令は再び模擬戦闘評価をと視線を演習宙域へ戻した。
事は重大——だが未だそれを好転させる要因が不足している事を……彼らの行動が物語る。
そして——
蒼き霊機が孕んだ憂いの浸蝕は……蠢き始めた不穏と——それを動かせるキッカケとなる事態で急展開を迎える事となる。
それは……遥か
》》》》
「……アー……ガスさん!?な……ぜ、こんな——」
「悪りぃな。ちょっと気絶して貰うだけだ——それにもう会う事もねぇってやつだ。」
思考した時には身体が動いていた。
行動を起こした以上、俺はもうここに戻ってくる事も出来ない——いや、戻る必要なんてないな。
今の俺には奴と——赤き炎を背負って拳を
もう他の事が頭に入ってこねぇぐらいだ。
「(何のつもりだ、テメェ。それを報告して自分の株でも——)」
「(案ずる事などない——隊長より、それが確認されたら放って置けばいいと指示を受けている。だからこちらの憂いを払うために、私個人の意志で手を貸すだけだ。)」
「(……あのイケ好かない隊長の考えそうなこったな。)」
俺にその意思が巡った頃合いを見計らったかの様な、ユミークルからの出奔幇助——だがそれが隊長の計算にすら加味されてる事態に嫌気がさす。
つまりは……俺が裏切る事すら想定の範囲だった訳だ。
「ならばもう一々思考する事もねぇってやつだ……ユミークルの奴が俺の名を記した挑戦状を記録用ドローンに載せ、楽園宙域へ飛ばしてくれた。」
「裏切り女と吐いてた俺が、これじゃ同じ穴のムジナじゃねぇか。ならばもう——心残りなんてねぇ——」
格納庫で当直に当たっていた、隊長を心酔して止まない整備クルーを昏倒させた俺はその足で
突然の事態で慌てふためく整備クルーには配慮する間もない訳で……まあせめてそれがおっ死なねえ所に千切れたハンガーを放り投げた。
多分ユミークルの仕業だろうが、俺に合わせた様に格納庫ハッチが解放……せめてもの配慮でクルーが船外活動服で無重力調整していたタイミングを狙った俺は——
取り敢えず旗艦での死者を出す事もなく、漆黒の闇に紛れて機体を飛ばす事に成功する。
目指すはエウロパ宙域外縁、小規模小惑星帯。
伸るか反るかのワンチャンス——恐らく勝っても負けても俺は奴らに拘束される。
けど——それだけの価値がこの出奔にはある。
あいつとの——赤き炎陽の勇者との一騎打ちと言う、テメェの全てを賭けた大勝負のための……反逆だ!
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