第122話 嵐の前の宴会騒ぎ
「えー……何がどうしてこなったんだ?」
「俺にもよく分からないっす(汗)」
ローナへジーナの相談を持ちかけて程なく——
何やら携帯端末がけたたましく鳴り響いたと思えば、整備Tとブリッジクルーより急遽お出で願いたいとの要請を受けた。
しかしその場所が、アル・カンデ内の軍施設に程近い飲み屋街の一店舗——軍部の人間と民間人の数少ないプライベートでの接点が存在する〈
何でも双方で祝いに足る一大事があるとの事で……まあ整備Tに至っては、オレが
ブリッジクルーの祝いの点は、想像すら出来なかった。
そうして訪れてみれば……まさかのコル・ブラント内恒例のパーティーを彷彿させる大人数が、店舗内へほぼ貸切状態で
そこからの同じく同席要請を受けた
見当たらないのはキルス隊のエリート達とラグレア隊の女性陣――どちらも機体整備と搬入が手間取っている故の不参加とは感じたが。
「ああ、クオンに
機械質な建物が多い楽園でも、地球は日本発祥でもある飲み屋を模し——店舗外を照らす赤提灯を尻目に
アジア系——それも日本出身者を祖先に持つ者が多く居住するこのアル・カンデでは、多分に地上のそれを感じさせる飲み屋だった。
言われるがままにオレ達を呼ぶ
店舗入り口から確認するだけでも、明らさまなよそよそしさが目に付く彼女——それでも女性である
後で彼女にもジーナの件では色々協力を要請してみよう。
「……って、何なのこれ?急に呼び出されたと思ったら——」
「色々と祝杯やら何やらで、これだけ集まったらしいっすよ?アシュリー……あっ——」
「んな……何よ?」
「おしっ!丁度良い機会だ……クオンさん——ここは皆に便乗して、アシュリーさんの特別勲章 受勲祝いをやりましょう!」
「……ちょっと待てこの格闘バカ!?何をどさくさで私の件まで持ち出して——」
「ああ、良いんじゃないか?」
「そうよクオンも良いって——って、そこは否定しろよテメェ!?乗っちまったじゃねぇか!?」
「アシュリー……口調、口調(汗)」
席に向かうオレ達後方から、
沸点の低いアシュリーは半分以上男に戻りながら怒り出したが、あえての
その理由として——オレの視界に映る主役と思しき二人が、アシュリーに深く関わると思われる人物であった故。
それを知ってか知らずか、
男口調でアタフタする満更でもないアシュリーを尻目に、立ち尽くしたままでは宴会も進まぬと——二人の背を押す様に用立てられた席へと向かう。
思考に様々な今後の憂いもない訳では無いが……だからとそれに悩むばかりでは有事に決断を誤る事になる。
それこそあの
今は家族である者達の祝いの席で、せめてもの祝福を送る側として楽しんでおこう。
この視線だけは……Ωと共にありしパートナーから離さずに。
》》》》
図らずして久方ぶりの大宴会となってしまった
全てのクルーが揃わないにしても、任務中幾度と訪れたバカ騒ぎが戻ってきた様な……大切な時間を皆全力で過ごしていた。
そして今回の主役が急遽三人に変更されたのは言うまでも無い。
すでに卓へ所狭しと並べ立てられた前菜に焼き魚――揚げ物につまみと、
その並ぶ宴会料理を前にし……祝いを受ける各セクションの主役紹介が始まった。
「んじゃまこちら整備クルーからは、まさかの大躍進とも言える昇進を物にしたウチの若衆……
「チーフ……苦しいっす(汗)」
「「「いよっ!准尉殿!」」」
ガッシリと
「ではでは、今度はブリッジクルーより……まさかの
「……今更だけどそれ——こんな場所で言うこと?」
「「「いえーい!勇也ちゃん、おめでとー!」」」
さらに続けて——
「えーせっかくなので、この場を借りて……我々前線で戦うフレームパイロットからは——遂先ほどまさかの皇子殿下から特別勲章を
「つか、バカ!そんな盛大に誇張すんな……ゴホン!しないでよあなたっ!?そんなのわざわざ、皆にひけらかす事ないでしょっ!?」
「もう諦めろ、アシュリー……。」
「観念なさい……ぷふっ。」
「クオン、てめぇっ――って、お姉様今なんで笑ったのっ!?」
「飲み物は行き渡った?音頭は私、テューリー・アサミヤ・グレーノンが取らせて貰います!それでは三人を祝って——かんぱーーいっ!」
「「「かんぱーーいっ!」」」
三者三様の反応がそれぞれ虚しく空を切り……
流された三人もそれぞれの身内に揉みくちゃにされつつ、恥じらいながらも皆の気持ちを受け入れていた。
その勢いが僅かに緩んだ隙を
「……はぁ~~ったく――何で私まで主役に混ぜられてんのか、理解に苦しむわ(汗)」
「ははっ……それはご愁傷様。でも、凄いなアシュリー……皇子殿下から勲章を
「もう……よしてよね、勇ちゃんまで。それは良いとして——そっちはもしかして、あのロイックさんと?」
「……名指しは止めて。——うん、そう。でもこんな大事になるなんて……。」
すでに主役そっちのけで暴れ始めた騒がしい家族へ嘆息を零す二人。
取りあえずの所、辛うじて中心に昇進を手にした准尉がいるためそちらへ全てを任せつつ——二人はささやかな乾杯をとソフトドリンク入りのコップをカチ合わせた。
「でも嬉しいわ。勇ちゃんの女性である事実を受け入れてくれる様な人が現れて……。折角なんだから、勇ちゃんも女性としてを前面に押し出せば——」
「……ありがとアシュリー。でもいいんだ、これで。ボクは自分が男性の体で生まれた事も受け入れる——そう決めたから。」
「それもみんなアシュリーのお陰だよ?アシュリーにとっての過去……世の男性は何も男性に生まれた事が幸福と思う人ばかりではない。その事実から逃避を図る人だっているって事——」
「アシュリーが男性と言う性を憎み、女性として生きる決意をした現実を知って……ボクは覚悟を決めたんだ。そんなアシュリーが、女性であるボクを最初に認めてくれたんだからね?」
少女な少年軍曹の唐突なカミングアウトに、頬を紅潮させる男の娘大尉は視線を泳がせ……はにかむ様な笑顔を——かつて死神の汚名を着せられた事など、吹き飛ぶ様な微笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
「……もう、唐突。心の準備ってものがあるでしょ?でも——ありがと、勇ちゃん!」
片や男性として生まれ……悲劇を超えるためにその性を捨てた少女。
片や男性の体に女性の精神を宿し……まるで自分では無いと言う苦痛に蝕まれた少年。
しかし
だからであろう——二人は互いが宿す性別が
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