第119話 未来照らす暁、紅円寺学園より
「ではこれより、此度の作戦に於ける活躍を讃えるため……尽力した部隊に属する英雄達への受勲式を執り行う。」
「呼ばれた者は前へ出るように。では……サイガ大尉、
イクス・トリム救済と言う大任を終えたオレ達クロノセイバーは……防衛軍よりそれを称えるためとし開かれる、ささやかな受勲式への出席を促された。
確かにオレ達部隊が結成された時点……
あのヒュビネットが部隊を率いて襲撃して来た事で、止む無く出撃を見たオレ達は評議会からの非難を浴びる事となり——
そもそも部隊の存在意義から問われる事態に陥っていた。
その紆余曲折からすれば、ソシャールの木星重力圏落下を阻止すると言う
「——シャーロット中尉、ウォーロック少尉……そして——」
軍本部の特設大会議場に参集された旗艦クルーから、次々呼ばれ壇上へと上がるオレ達。
ただ今回は、今までの軍主催イベントとは毛色の違う
その要因は……オレ達に続いて呼ばれた者達だった。
「民間よりの協力者である紅円寺学園から
「「「「はいっ!」」」」
軍部で指示を飛ばす時にも見せないだろう柔らかな面持ちな
元より今回の作戦は、この民間からの協力がなければ決して叶わぬ偉業でもあった。
そう言った経緯から——学園生徒を軍部より表彰したいとの旨を暁会長へ打診した所……快く彼らを向かわせてくれての今に至る。
「って、押すなよケンヤ!?ちょっ——」
「いや……つか緊張して!?」
「「良ちゃん先輩早くして……(汗)」」
流石の武術部部員達もこんな事態は想定していなかったのだろう——救済作戦直後で気がぬけていた所の非常呼集の末、またもや軍部施設へ訪れる事態。
……それも今度は、自分達が主役なのだから。
さらには事を聞きつけた
それほどまでに今回の偉業は、アル・カンデと言う社会を激震させたんだ。
『ええ……只今軍部主催の受勲式が始まった様です。あっ、どうやらかの紅円寺学園からの生徒が今——表彰を受けんと前に出ました!これは、一人のソシャール民としても感慨深いものがあります!』
報道陣の興奮が受勲者のいる壇上まで伝わって来る。
確かに軍部の功績は彼らの目に留まるもの——しかしその中に紛れる学園生徒の晴れ姿は、もはやアル・カンデの民にとって希望そのものと映っているだろう。
そして壇上に上がった武術部員達を一瞥した、部長でもある
そんな彼らは正しく、あの生ける女神とも称される
——程なく……偉業を成した者達を表彰する受勲式が、粛々と行われる事となった。
》》》》
俺達に続いて読み上げられた名に、思えばこんな事態に発展するとはと嘆息した。
視界にはガチガチに緊張した良太とケンヤ……そして、ゆずちゃんと志奈ちゃん。
けれど壇上に上がったウチの武術部員は——今まで見た事が無いぐらい輝いて見えた。
部活の中では、正直——いや……間違いなくやる気が感じられないユルユルな日常。
ソシャール地区大会なんて夢のまた夢で、部活とは一人でやるものでは無いと痛感させられた記憶が蘇る。
「良太……お前、手と足が同時に前に出てんぞ?なんつーベタな——」
「う……うっせー!?こんなの俺も初めてなんだよ!」
「うー……先輩、私もこんなの——しかもカメラが、ニュースが……。」
「はぁ……皆胸を張れ!俺達はスゲー事をやって退けたんだ……堂々としてりゃいいんだ!さあっ!」
これまで部長らしい事なんてやって来た記憶も無い俺も、ようやく部長らしい威厳が持てたらしい。
軽く声を上げた俺をポカンと見やる皆が……程なく凛々しい面持ちへ変わったのを確認した俺は、隣に並ぶクオンさんへと苦笑を零した。
「中々部長らしいじゃないか。」と、俺を賞賛する彼の言葉で今度は俺の心が引き締まる。
それは俺が彼に教わった事を、同じ部員へと伝えられた事に他ならず……気恥ずかしさはあれども——だからと言って気後れする事など皆無だった。
その一部始終を確認した
今回の受勲式では、むしろウチの部員達の表彰こそがメインイベントだ。
指令の視線が意味する所は、ウチの部員が緊張していたのを見越してのものと俺も察した。
図らずとも口から出た部長らしい言葉が、受勲式開始を告げる合図となったんだ。
「今回クロノセイバーが就いた任務……その偉業成功は、民間協力者である諸君ら学生達の活躍の賜物であると——防衛軍総本部上層でも意見が一致した。」
「ソシャールが落下すると言う事実を受けて襲った、居住者達の心の不安は想像だに出来ない。だがまずはその場に居合わせた学生達の言葉が、その不安払拭に一役買い——」
指令の視線がケンヤと志奈ちゃんを見やり、二人もまた頷き合う。
「そして、ソシャールを木星重力圏危険域から浮上させると言う常軌を逸した作戦へ——その身を、知識を……経験を生かして尽力した多大なる貢献——」
「それは我ら
続いて視線を移された良太とゆずちゃん——してやったの表情が眩しかった。
「これらの活躍を、我ら防衛軍総本部を代表して……クロノセイバー旗艦指令であるこの
指令の言葉に合わせた無数のフラッシュが、受勲式会場を照らし出す。
壇上中心で誇らしげに並ぶ俺の自慢の友人達。
この場に同席出来なかったお袋は、きっとこの勇姿をニュースで後々知る事になるだろう。
アル・カンデそのものも、中々に慌ただしい状況——今もお袋は災害避難民受け入れに東奔西走しているはずだ。
だからこそ部員の表彰式を喜んで承諾したんだろう。
ニュースでそれがソシャール全域に流れるとなれば、避難民にとって強い心の支えとなると踏んで——
》》》》
楽園を代表する紅円寺学園生徒への表彰の後、軍部側功労者の受勲へと移って行く。
中でも
「貴君らは、一万に上る民救済――そしてその故郷を再浮上させた事ですでに名実供に英雄的な扱いだ。それも今までの軍部内と言う範疇に収まらぬ、宇宙人社会において……である。」
「よって貴君らへは今各々へ手渡した、コスモスター勲章を授与するものとする。」
だが――
受勲のために呼ばれた内、未だ名が呼ばれぬ者が壇上にて立ち尽くす。
それは救済作戦前に一悶着やらかした、あの
「(って、何で私はここに呼ばれた訳?勲章とかって言える立場じゃない上、営巣三日間を食らった――)」
怪訝さが顔を突いた男の娘大尉を一瞥した
首肯した破天荒皇子が壇上へ……しかも男の娘大尉前へと歩み出た。
「へっ?」
不意を突かれた様にポカンと口を開け放つ少女を見やる破天荒皇子。
その口から、少女も想定の遥か彼方の言葉が紡がれた。
「アシュリー・ムーンベルク大尉じゃったな?此度の一大救済作戦――あのソシャール イクス・トリム浮上を賭けた案を提示したのはお主……であったと聞いておる。」
「言わば、あのソシャールと言う一世界を救うキーとなったのはお主――ムーンベルク大尉が居てこそと……そうワシは実感しておる。と、言う事でじゃ――」
そこまで口にした破天荒皇子が、お付である
そして……少女の胸を打つ様な衝撃的な言葉が放たれる事となる。
「そちにはこのワシより、特別救済功労賞を贈りたいと思う。これはお主のために準備させた物――〈
「せ……〈
贈られたそれは――その名は……少女の過去を大きく塗り替える様な、誇り高き栄誉そのものであった。
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