第118話 研ぎ澄まされる剣



「各員は速やかにアル・カンデ内特設会議場へ集合。——そうだ、主計科に救命隊を含めた全てへ通達せよ。」


 それはソシャールイクス・トリム——祭典の地救済がなり、しかし直後に訪れた離反者の一件が収拾を見た頃の事。

 既に楽園外部ソシャール大格納庫へ剣を模した旗艦コル・ブラントが格納され、大規模メンテナンスが行われていた。


 長旅から帰った矢先の、度重なる戦闘に救済任務。

 休む暇なく動き続けた旗艦は、さしもの古代超技術ロスト・エイジ・テクノロジーの塊であろうと目に見えて船体披露が出始めていた故であった。


 屈強な旗艦と同じく、幾度の任務を確実にこなして来た旗艦クルー ——その裏方や、日常生活に於ける任務が主の者達までへ通達が速やかに行き渡る。

 その通達を飛ばしたのは他でも無い、宇宙人の楽園アル・カンデ防衛軍本部の総大将……レボス・ヘリオス・ウガヤフキアヘズ将軍その人である。


「……と言う訳だ、サイガ大尉——そして紅円寺少尉。そこで貴君らへの褒賞の旨も公表するとしよう。」


 通信を飛ばした優男の総大将フキアヘズの前で、凛々しき敬礼を返す蒼き英雄クオン赤き勇者

 すでにあらかたの確認の元……内通者による情報漏洩の恐れを払拭出来た軍部は、ようやく通常通りの必要議会進行を行える事と相成り——

 旗艦クルーを参集させ、その者達の功労をねぎらい……さらには目覚ましい活躍で一躍その名を轟かせた、二人の霊装機セロ・フレームパイロットへの受勲式を兼ねたささやかな式典をと——この優男の将軍閣下は画策していた。


 が……総大将閣下の意向を察した英雄は、思考に疑問符を浮かべ真意を問う。


「恐れ入りますが閣下——自分はこの度、内通者を放置した挙句……その結果ソシャール イクス・トリムを重大な危機に晒した身であり——」


「重罰は覚悟の上でありますが、その……褒賞などとは——」


 戸惑う英雄を他所よそに総大将は語る。

 それが偽らざる軍部の決定であるとの意思を宿して——


「サイガ大尉。君の言い分も然り……だが、それにより導かれた物を考慮した上での褒賞と勲章贈呈だ。よく考えてもみ給え——」


「君はクロノセイバーが結成される以前から、身障者としての希望となり——そして軍部に戻って尚、その希望を未だ戦いを知らぬ者達へと宿らせた。そして何より、これまで数え切れぬ多くの人命を救ってきているのだぞ?」


 二人のパイロットだけが呼集された優男の総大将が座する部屋。

 楽園内でも、その場所へ訪れる事の叶うのは士官以上の軍人と要人のみ。

 そこで英雄を一瞥した総大将閣下がおもむろに席を立つと、英雄の肩へと手を乗せ語る。


「内通者の件は、確かに重大な作戦ミスとも言えるものだった。が……そもそもその件を君に一任したのは我らアル・カンデ防衛軍本部——。」


 中性的な顔立ちである総大将閣下が、ニヤリとしたり顔を浮かべる。

 皮肉が混じるも——そこへ彼への絶大なる信頼こそが元になっているとの意を込めて。


 まさしく優男の総大将が言葉にしたのは、蒼き英雄が自ら責を取ると宣言し……その結果、赤き勇者が人命救助と言う大役を担う事が叶った——

 そんな彼の行動そのものを、総大将閣下が同様にならったまでの事である。


 総大将閣下の器に打たれる英雄の隣で、同じく勇者もその器の大きさを感じ取る。

 自分を指揮する上官へ指示を出せる者達は、いずれも皆大器揃いと……感じた誇りのまま勇者は事を見守った。


 防衛軍本部の意向を理解した英雄も、流れを素直に受け入れると首肯を返し……その直後——

 きたるべきタイミングとして、優男の総大将より二人のパイロットへ極秘の情報が告げられる。


確かに必要だが……この先の戦いでは君達の機体の現状——どう見繕っても、あの漆黒と対峙するには戦力不足を感じている。そこでだ——」


「内通者の件が明るみになり保留されていた、ΑアルファΩオメガの敵対勢力防衛上……そして救済任務上での大幅強化を急遽実行に移す事となった。」


 二人を一瞥した優男の総大将がデスクのパネルを操作する。

 そして宙空へ浮かぶ幾つかのモニターには二機の霊装機セロ・フレーム

 投影されるはΑフレームアーデルハイド G‐3Ωフレームグラディウスである。


 が——

 その機体形状が現状と大きく異なる仕様で表示され……蒼き霊機Ω・フレームに至っては、機体本体とは別機体となる大型のオプションが明示されていた。


Αアルファについては紅円寺少尉の戦闘スタイルへ合わせたさらなるチューンアッププランを、あの暁会長から準備されている故——それをベースとした宇宙格闘戦専用の外部スラスターユニット等を増設予定だ。さらにΩオメガは——」


 パネル操作で拡大される蒼き霊機Ω・フレームが映ると、隣り合う様に表示されたのは飛行ユニットとも戦闘艇とも呼べる機体。

 それは蒼き霊機Ω・フレーム起死回生の装備——その旨が優男の総大将より語られる。


「あのブラックボックスの塊と言われたΩオメガのシステム制御機構——正直そんな物から、ここまでのデータを絞り出したメレーデン少尉の功績は途方も無いと言える。」


「言わばこの兵装はその集大成……Ω能力を最大限に活かし——且つサイガ大尉の能力上限を解き放つ起死回生の一手として準備した、外部量子遠隔通信管制制御機構アウター・クオント・ネットワーク・オペレーティング・システマイズ——」


 総大将の双眸がギラリと輝き——その名が告げられる。


救済防衛外装セイバーガーブシステムと、強襲砲撃武装ナイト・ストライク・ガーヴシステム――その両兵装換装を目的としたΩオメガフレーム専用多目的サポート管制機……ガーヴ・ドライバー【Ωオメガ・エクセルテグ】だ。」


 蒼き英雄の功績と同レベルでブロンド少女の働きが評価され……それ故に彼女の能力を最高にまで高められる場を準備した防衛軍総本部——

 少なくとも優男の総大将としては、ブロンド少女ジーナへの多大なる期待を掛けての計画を打ち出していたのだ。


 だがその行為が……現状深淵へと堕ちかけていたブロンド少女にとって——知る由もないのだが。



》》》》



 剣を模した旗艦コル・ブラント内では、式典への召集を受けた整備Tがその時間前……総本部より搬入指示の出た兵装を運搬していた。

 あの優男の総大将フキアヘズが霊装の騎士らに提示した極秘兵装——が、そこに搬入を受けた時点である意味お披露目に近い形となる。


「こいつは……たまげたぜ、こんちくしょう。」


「……そっすね。航宙艦ならいざ知らず、フレーム一個体への専用機なんて……。しかもこれは、完全に独立した運用も可能な航宙管制制御艇とも言える仕様——」


「俺もこんな兵装初めてお目にかかったっす!」


 搬入に割いた人員以外を早々に式典会場へ向かわせたイカツイ軍曹マケディ——隣り合う気鋭の若衆旗條と呆けた様に、運搬される兵装を見上げていた。


 宇宙人の楽園アル・カンデでは未だ人型を取るA・Fアームド・フレームが主流であり……整備Tでも霊装の機体は例外としても、おおよそその範疇で兵装と言う物を認識していた。

 航宙艦サイズの兵装となれば整備Tでも理解が及ぶ所、単独……若しくは数名単位の操縦者による運用前提である機体が、完全に初見と言えた。


 イカツイ軍曹の呆ける様に開けた口から漏れ出すは感嘆。

 整備T切っての現場経験者である軍曹をして、生まれて初めて目にしたそれは——


「換装により救済任務用……大型共振相転移砲クインテシオン・ブラスターを始めとする広域救済兵装の数々と、対敵勢力迎撃用となる武装群——統一場粒子クインテシオン充填式の共振ブレード一体型バスターライフル〈クイント・ガン・エッジ〉二丁に加え、指揮官機用広域管制システムを装備か……。」


「さらには曲射砲群を独立・強化させた、広域射程曲射アサルトレーザー砲台〈レビン・ヘッジホッグ〉と——指向性放射ミストル・フィールドを介し統一場粒子クインテシオンを展開する光学兵装・物理兵装同時防御帯〈クイント・ビーム・フィールド〉。それらを擁する両システムバックパックを一機で換装可能だと?尋常じゃねぇな。」


「……それだけでもすごいっすけどチーフ——この【エクセルテグ】に代表されるシステムは元来、ゼータフレームをベースとした【ソルツァイト】フレームの物っすよね。軍部でも研究段階である、あの……。」


 Ωオメガフレーム専用とされる独立型管制機体の姿に、彼らは常識を覆された。

 パイロットにブロンド少女ジーナを起用し、遠隔より量子通信管制にて救済防衛外装セイバーガーブシステムと強襲砲撃武装ナイト・ストライク・ガーヴシステム換装を可能とするそれは……軍部でも未だ研究段階の秘蔵とも言える技術。


 基盤となる、ゼータフレームと呼称される可変戦闘機ソルツァイトフレームの技術を試作的に応用——合わせて形態も可変戦闘機ソルツァイトフレームに準じた高速巡航形態可変機構を備える事で、惑星間での電撃運用を実現していた。


「……っと、そろそろ向かわんと大目玉だぜ?旗条きじょうよ。こいつの調整整備は後回しだ……お前としちゃ目新しい兵装に心を惹かれるのも分かるが——」


「とか言って……軍曹も?」


「ばっ……!?っせぇ!これがたぎらずにいられるかよ!おら、行くぜっ!?」


 すでに見たことも無い兵装を前に、いかに調整整備をこなしてやろうと意気込むイカツイ軍曹と気鋭の若衆がきびすを返し—―召集を受けた式典への準備に向かう。


 そしてすでに人気が無くなった格納庫を一望する展望部屋で—— 一人の少女が蒼き霊機Ω・フレームに与えられた力を視認していた。

 その……サポート・パイロットをΩオメガから引き離す様に当てがわれた新機体を視界に入れ——宿


 ——暗き深淵が……渦を巻く様に——

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