第114話 嘆きの観測者
あとは隊長のいるザガー・カルツへと戻るだけ。
けれど胸に浮かんだ
待ったく何がどうなっている?
あんな部隊からは早々に足を洗う——私はそう決断したはずだ。
「……お主——本当にそれで良いのか?」
最初は空耳かと思ったが、どうやらその声は今銃口を突き付けている少女から放たれたものだった。
噂には聞き及んでいた——
監督官の様な立場ではあるが、彼女はかの【
「こいつは驚いた……軍部の一部で広く知られる情報は真実だったらしい。あんたが観測者——何だよ、私にお説教か?今更だがな……。」
「説教などと大それたことでは無い。
「良いに決まってるだろ!私に指図するならこの場で撃ち抜くぞっ!」
観測者とは
だが今の私にはそんな戯言はどうでも良かった。
もし真に
詰まる所——神と呼ばれる者なんて、結局その程度でしかないんだ。
けれど……その存在は口にした。
銃口を突き付けられたままの少女が、半身を向ける様に振り向き——
私自身が、きっと心の奥底で否定し続けていたであろう真実を口にした。
「お主……あの部隊での暮らしは満更でも無かったであろう?それはお主が、本当に求めていた物に他ならなかったからでは——」
そう……その言葉を最後まで聞き終わらずに、私は少女の頰を手の甲で払う様に引っ
真実を言い当てられたから——すでにそれは手遅れと悟っていたから……。
「あんたが観測者だろうが、私は知った事ではない——これ以上口を開くな!」
そんな頭のおかしくなりそうな出来事を経て……すでにモニター視界に捉えたラヴェニカのハーミットへ向かうため——
シャトル内にあった船外活動服を着込むと、今は観測者である少女へと言伝を残した。
「これで先の発言通りの仮りは返した。これから私はクロノセイバーの敵——それ以上でもそれ以下でも無いと伝えろ、使えぬ神なる者。」
彼女は【
そんな彼女を放置する様にシャトルのハッチを解放——すでに開け放たれたハーミット胸部コックピットで、苛立つ日本人形の様な少女が目に入った。
『手間取るなって言ったよね?聞こえてた?ねぇ、ねぇ?』
狂気染みた双眸に狂った様な会話——
通信越しで掛かる言葉に確信……鬱陶しくなるぐらいに、それはラヴェニカだった。
けれど私を、ここまで迎えに来れるのはこいつぐらいしかいないと……思考に宿す私は致し方なく礼を送る。
「ああ、悪かった。ここまでわざわざ済まない。すぐに戻るぞ。」
そしてシャトルの自動推進装置をコル・ブラントへ設定し……程なくハッチが閉まって行く。
「愚か者が……——」
その時聞こえた観測者なる者の声は聞き流す。
今の私はそんな言葉を聞く必要もないから。
私が鬱陶しい同僚の機体コックピットへ搭乗すると、ハッチが電磁モーター音を上げて閉鎖される。
それを視認し脱いだヘルメットと同時に、すでに必要のない伊達眼鏡を投げ捨てると……モニター視界より、
「次に会った時は……私がお前達を撃ち抜く。覚悟しろ、クロノセイバー。」
吐いた宣言と共に……私はザガー・カルツ所属の電脳姫——ユミークル・ファゾアットへと回帰したんだ。
》》》》
重い鎮痛。
結局策を弄し奔走した篭めたる願いも虚しく、イクス・トリムから急遽帰還を見たオレは――
すでに宇津原少尉と言う家族を失ったクルーを目撃する事となる。
「ご苦労だった、クオン。だが……まったく違う観点での予期せぬトラブル――いや……予期して対処中であった件での完全なる失態となったな。」
「申し訳ありません、
「構わん……事が事だ――追って総本部へ報告するとして、ひとまずお前はその身体を休める事が先決だ。あれ程の作戦……よくぞ全うしたな。」
「――いえ……。」
指令の
それは己の未熟だけではない――大切な家族を引き止められなかった己への非難と……
オレの到着に合わせるに様に、格納庫へわざわざ足を運んでくれた指令の意向からしても彼の
シャトルから降り立ち格納庫の出口へ向かうオレは、その方向に位置する
成長目まぐるしい少年と、それを支える同僚……だがこの奇跡を体現した直後にしては浮かない顔を見せていた。
言うに及ばず……その原因は家族同然であったはずの少尉離反を無念と感じてのものだ。
視界に入れたその表情を見た時ふと過ぎったのは、あのアシュリーがオレへと送った「その決断に間違いはなかった。胸を張れ。」との言葉。
それを思考したオレは、込められた意味をじっくりと嚙み砕く様に
確かに失ったものはあった——だが同時に、新たな家族とも言える者からの信頼を会得出来ていたのも事実だ。
それほどに……あの重き定めを背負ったアシュリーは、自身にとっても重要な存在となっていたんだ。
「
アシュリーの言葉が影響してか、思う以上にスラスラ出た
それで悟る——二人の鎮痛なる面持ちが、オレの心情すらも
自らの下した決断が
「クオンさん、俺……やったっす。けど——」
「
気にするなと言いつつ言葉を濁す
だが今はその点を言及するにしても上の指示を仰ぐしか無いオレは、二人へ一時の休息を促した。
「そこはまあ……なる様にしかならないさ。という訳で——」
「オレにも休息をとる様厳命が下された。宙域の警戒任務は、全く暴れたりないエリート隊が買って出てくれてもいる。二人は特に休息をしっかり取る様に……いいな?」
苦笑を浮かべた二人を後にし、オレは今回完全に待機の置いてけぼりを食らってしまったジーナの元へと向かう。
通信でも良かったが……直感がそれを避けさせたオレは直に彼女の所へと足を運び——
そして——
「ジーナ。今回は済まないな……君が活躍出来る場を準備出来ず。一先ずおつ——」
サブコックピットハッチ解放と同時……彼女を
今まででは感知するが叶わなかった感覚——僅かに暗く……そして深淵へ引きずり込むかの如き気配を捉えてしまった。
「ジーナっ!」
「ひゃ!?ひゃいっ!?」
思考ではない——咄嗟に言葉をかけねばと反射的にがなる様な声を上げてしまい……ジーナもそれに怯える様な返答を返して来た。
「大丈夫か……ジーナ。済まないな……もう少し君を
「や、やだな~~クオンさん何言ってるんですか。いつも私達の事を気に掛けてくれてますよね?ちゃんとそれぐらいは分かってるんですよ?」
湧き上がる違和感。
オレは彼女を慮らなければと口にした。
けれど彼女は、それを避ける様に私達と遠ざけた。
恐らくその瞬間からだろう——彼女の魂が急激に深淵へと落ち始めたのは。
だがオレは、あろうことかその兆候を見逃してしまう事となり——
その致命的な弱点を……裏切りの中、本来あるべき場所へ戻った元少尉の手で——漆黒の嘲笑の元へと運ばれてしまう。
エイワス・ヒュビネットにとっての……
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