第109話 舞い上がれ!ライジングサン!
『良太、ゆずちゃん……本来の軍部現場指揮官を務めるサイガ大尉から作戦最後の
『今この時だけは……俺達が主役だっ!武術部と紅円寺学園の名に懸けて——奮戦するぞっ!!』
『『おーーーっつ!!』』
格闘少年の熱き
「……うっぷ。——こなくそ、吐き気ブチまけてる場合じゃないぞ俺!このシステムだな——ったく……いつも父ちゃんが持ち歩けって言ったのは、こんな時のためかよ!」
部長の咆哮に支えられ……
少年の両親は万一に備え、自分達の子供へ世界でも類を見ないソシャール施設――その最終安全装置の鍵を託していた。
まさに設備を製造した管理者特権とも言える備えが、この
「いいか、佐城君。まずはその生体キーを使い動力炉を起動——だがすぐには出力を上げず、そのまま待機だ。ブースト制御ロック解除は管制制御室の仕事だからな。」
「それを確認したら
「いっっ!?そ……そんな事が出来るんで——」
「それが出来るんだ。あれはそれ程にまで、恐ろしき可能性を秘めたるスーパーロボットだからな!」
事の全てを監督せんと、愛車より降り立つ英雄が横に並び――そこで手順に
が……揺るがぬ英雄の双眸に噓偽りなどは宿っていない。
そもそもそれが叶わぬのであれば、ソシャールと言う小惑星をも上回る巨大施設を救済する事など夢物語——その事実を受け入れた少年は、動力炉の最終安全設備へ向け力強く踏み出した。
到着した場所は巨大なドーム状。
中央で動力炉と思しき施設が視界を埋める空間。
その傍らに備わる動力炉と比べるまでも無く小さなコントロールパネル。
誰にもバカにされると信じて疑わなかった小さな設備——起死回生の鍵である制御コントロールパネルを、少年は己の手で……誇らしげに起動させた。
それは準備の全てが整った合図。
少年は生体認証を経て装置を起動……最終安全装置が眠りから呼び覚まされた。
唸りを上げてシステムが起動し、空間を埋める巨大な動力炉——そこへ直結する各種補助機構へ蒼き光が駆け抜ける。
緊急ブースト制御機構は隔離型緊急炉と一体となるシステムであったのだ。
見上げた施設を己が手で起動させた少年は、夢見た宝物を見つけた様に双眸を煌めかせ——それを見やる英雄から携帯端末を手渡された。
そして英雄から少年へ——端末と供にソシャールの命運が託される。
「こちらは準備完了との合図を
「うぉっ!?俺がっすかっ!?……やるっす、やって見せるっすよ!!」
英雄の視線には出きるはずだと映り……その羨望に答える様に、男良太が覚悟と供に端末を受け取ると――
「こっちの準備はいつでもいいぜ、ゆずちゃん!……
「その赤い巨人でこのソシャール――救ってやれーーーっ!!」
今この宙域に於いて——
世界の誰よりも危険な場所にて待機する武術部部長——永遠のライバルであり親友である
叫びは音声通信から。
だが格闘少年は今……その叫びを魂への共振として受け取った。
直後にそれは、あらゆる次元を震撼させて胎動する。
あの蒼き英雄の覚醒時に発動した、〈
真の覚醒の足音は……遂に少年の魂を至高の高みへと誘ったのだ。
≪俺はもう……全てを侮らない!≫
≪俺はこの目で——前を見るっっ!!≫
それは新たなる恒星の誕生。
それは新たなる伝説の始まり。
薄発光に包まれる少年は
その赤き巨人は、体躯を遥かに凌駕する
数多の命を背負う赤炎の恒星となって——
》》》》
心の底からそれは湧き上がる。
今まで、深淵を渡る力を展開していた時でさえ感じた事のない……本当の意味で
そんな感覚が俺を突き抜けた。
同時に口にした言葉は、かつてクオンさんが真の覚醒を見た時の様に——無意識に放たれていたんだ。
『
視界のモニター端で、
きっとこれは想定すらされていなかったのだろう——けど俺は今……あの英雄クオンさんと肩を並べた。
迷いなど無い。
あるのはただ、この
その想いと共に……俺は落下阻止限界地点へと落ち行くイクス・トリムと、木星との間へ立ちはだかる。
俺と一心同体となった、
「まずは……イクス・トリムを止めるっっ!!咆えろ、アーデルハイドG‐3ーーっっ!!」
機体背面部全スラスターへありったけの出力を収束させ……ミストルフィールド散布と共に、深淵を渡る力を全力展開。
背面に広がる膜宇宙の大地を支えとする様に、今度は前面へのフィールド展開——こちらはソシャールを跳ね返す斥力場とし、両腕部を施設外壁へ当て構える。
「ぐっ!?……うおおおおおっっ!!」
先にアル・カンデへ襲来した微小惑星は、レベルとしても良くてBクラスサイズ——けれど眼前に落ち行く物体は、小規模ソシャールとは言え確実にレベルSクラスの小惑星相当。
推進力を失い堕ち行くそれは、元々エウロパの衛星軌道で静止出来る第二宇宙速度までは加速していた――が……イオの潮汐力でそのベクトルが変換されている。
文字通り木星へ突っ込む方向へ、引っ張られながら加速している状態だった。
そんな巨大構造物を一機のフレームで支えると言う現実は、そもそも物理的にあり得ない——不可能な事象だ。
けどそれを
揺るぎない確証が、俺の覚悟となってイクス・トリムの落下速度へ少しづつの減少をかけて行く。
それでも——
「良太っ、ゆずちゃん!このままじゃ落下速度へブレーキを掛けるのが斉一杯——タイミングを合わせるぞっ!!」
『お……おうっ!じゃあゆずちゃん——タイミング任せる!』
『わ、分かったよ良ちゃん先輩!ではこちら管制制御から——』
全てのタイミング調整へと移る俺達。
と、唐突に響く音声回線。
その声の主は——
『おいっ!良太、ゆずちゃん……それに
「って!?ケンヤ!?なんでお前——」
『私もいるよーーっ!』
「志奈ちゃんまでっ!?」
現在避難ソシャールへお袋の介助として同行避難してるはずの、お騒がせな友人達の声。
そう——これまでならばその表現で事足りた。
でも今二人の声に感じたのは、良太やゆずちゃんにも劣らぬ前を向いた覚悟だったんだ。
感じる友人達の変化に驚愕する俺を尻目に、ケンヤが言い放つ。
俺の……俺達の覚悟がさらに強く激しく揺さぶられる言葉を——
『さっき避難してる人達に、「友人達が頑張ってくれてます!」って言っちまったんだ!だから
「おま……!?そういう言葉は責任が持てる場合に言えよっ!?……けど——」
自分の顔が苦笑に満ちる。
戦っていたのは、俺や良太にゆずちゃんだけじゃなかった。
結局こんな所まで来て、武術部員が揃ってしまった現実が可笑しかった。
同時にそれは俺を前へと突き動かす原動力に変換され——部員全員の心が俺の魂へと共鳴する。
「……けど、ありがとな。ケンヤ……それに志奈ちゃん!んじゃまぁ、いっちょやるかっ!」
「ゆずちゃんっ……合図をっ!!」
『はいっ、
響いた声がどうのと言う問答は、俺達にはもう不要だった。
やるべき事はただ一つ――それを映像なき状態で、意識的に共有したゆずちゃんが凛々しく応答する。
これ以上……イクス・トリムを木星へ近付ける訳にはいかないと――隔離型中央動力炉のブースト制御機構を手動にてロック解除したゆずちゃんが、人生でも初めてであろう咆哮を上げた。
『良ちゃん先輩っ、今ですっっ!!』
『おっしゃーーーっっ!最終安全ブースト装置……フルブーストっっ!』
火を入れられた巨大なる
木星が有する巨大な超重力の底へ落とされまいと、足掻くように制動をかける。
そうだ――この瞬間こそが俺の力を……
刹那――俺の意識に反応した赤き霊機は、供に行こうと電子の双眸を
「ああっ!やるぞ、アーデルハイドG‐3!
『――出力調整、完了!行きなさい、あなたの力の全てを懸けてっっ!』
「うおおおおおおーーーっっ!!舞い……上がれーーーーっっ!!!」
『『行っけええぇぇ、
『『頑張れーーーーっっ、せんぱーーーーいっっ!!』』
俺の魂。
良太の男気。
ゆずちゃんの勇気。
ケンヤの心意気。
そして……志奈ちゃんの前を向いた想いが――
その日俺は……小さくも人々の楽園であるソシャールと言う世界を――
救済したんだ――
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