第99話 裏切りの牙が向かう先
文化交流の祭典も大詰めを迎える中――ある意味
計算される次の軌道共鳴時刻へは、警戒の必要が多分に存在していた。
軌道共鳴で最も警戒すべき三衛星の共鳴……それは時間にして7日前後を周期に持ち――
そしてすでに
そう――まだイオと、エウロパ……そしてガニメデが引き起こす最大級の共鳴は訪れていないのだ。
「所であんた達、理事長から聞いたんだけど……親がソシャール開発に関わってるって?それって何処の部門になるの?」
助っ人学生達を引き連れて、
その道すがら、学生の緊張を解さんと話題を振った。
掛けられた言葉へ……パァと瞳を輝かせる女子陣と、ズゥウウンと視線を沈ませる男子陣。
両極端な反応で答えて見せる。
「アシュリー大尉!この子の両親はね、まさに〈イクス・トリム〉の基本設計に関わってるんですよ!?スペース・クリエイティブ=アサカワって知ってますかっ!?」
「し……志奈ちゃん、恥ずかしいってば!そもそも何で私の両親の事で、志奈ちゃんが喜んでるのよっ!?」
「二人とも私の事はアシュリーでいいわ。へぇ~……って、普通にお嬢様じゃないのあなた(汗)。」
「そんな……私お嬢様なんて言われた事、ないですからぁ……」
大尉へ解を提示したのは当の本人そっちのけで、テンションが突き抜けるやる気が無かったはずの少女 志奈。
しかし何かが吹っ切れたのか、異様に滾り始めたやる気のまま最初にイベント運営補助へ参加の手を挙げた
当の泣き虫少女に至ってはお嬢様呼称にむず痒さを覚え、紅潮した顔でモジモジ俯く始末である。
「大尉殿っ!俺もアシュリーと呼び捨——」
「却下。」
「酷いっ!?」
落ち込む素振りも、そもそも男の娘大尉の質問に無関係な
コロッと機嫌を入れ替え、大尉の愛称呼びへ即座に反応するも――最後まで言い終わる事なく無情にも切り捨てられる。
クスクスと笑いを零す女子陣を尻目に、一人ブツクサ視線を落とす
そこへ追い打ちをかける様に男の娘大尉の止めが炸裂した。
「そっちの……良太?だっけ?あんたは何かソシャール関係には——」
「あっ!?ダメですアシュリーさん!良ちゃん先輩のは——」
「う……うっせーーーーーっ!!どうせウチの親が作ってる物はちいせぇよっっ(涙)!ゔぁーかーーーーっっ!!」
まさかの自称ライバルが、号泣のまま走り去ると言う惨状が導かれ——
「……な、何なのよ一体(汗)」
かの
流石に友人を哀れに思った泣き虫少女が、すでにプライドがへし折れかけている自称ライバルへのいまいち不明確なフォローを飛ばした。
「あのっ、実は……良ちゃん先輩の両親はソシャールの動力機関でも——その……きっと重要な所を作ってるはずなんです!」
「……それ全然フォローになってないわよ?あなた(汗)。で、動力機関の何処の事なの?」
「え~と……良ちゃん先輩の両親はですね——へーれつ融合?動力炉……ぶーすと機関制御??あれ……そんな名前だったっけ?」
「……はぁ。なるほどね……理解したわ。」
見事にフォローが空ぶってしまった友人に変わり、無理やり記憶を呼び起こす様に回答する
その回答で男の娘大尉も納得と供に嘆息した。
同時に相当する機関の特徴を思考整理し——今へし折れかけたプライドのまま走り去った自称ライバルの方を見やりまた息を吐く。
少年すら
「(並列融合動力炉統合制御・緊急ブーストアシスト機関……。ソシャールが万一超重力などの網に囚われた場合の緊急ブースト制御機構——その中枢である制御コントロールシステム——)」
「(本人は全然気付いてないみたいだけど……それはこの木星圏の様な場所に於ける、緊急時の起死回生となるシステムよ?そのシステムで数万の民の命が左右される、最終安全装置じゃない……。)」
「知らぬと言うのは恐ろしいわね。」と、口にしつつもう何度目かの嘆息を吐き……今しがた走り去った少年へ続く様に歩を進める男の娘大尉は——
「取り敢えず……走り去ったお友達を追うわよ?こんなんじゃあんた達の社会体験——
「「はーい!」」
「イエスっ!アイ、マ——」
「お前は普通に喋れっ!」
「イダっ!?」
二人の少女を微笑みながら先導し、ムードメーカーの微妙に間違えた下士官のノリへ……彼女お得意の、男性への攻撃的な手の速さで小突きつつ——
満更でも無い雰囲気のまま、学生達の保護者を演じる男の娘大尉がそこにいた。
》》》》
エキシビジョン走行も終了となり、観客との交流へ向け——今しがた白熱したツインドリフトを演じた
すでに
そんな中——そのマシンを展示する区画で見知った部隊の仲間が、見知った民間人を引き連れ奮闘する様を目撃してしまう。
「そうか——指令から民間人の祭典協力者が若干名参加……と聞いていたが、なるほど——ある意味あのメンツは妥当だな。なぁ、
そのメンツをよく知るであろう
『それはそうかも知れないけど……あの子達もよく志願したわね。仮にも学園理事長とあの武術部員の子達……ほとんど日を置かない期間で、数度に渡る危険に巻き込まれてたのよ?』
『その中でアル・カンデを離れてまで、社会体験学習に出るなんて。』
全くその通りの意見を送ってきた
停車し――エンジンを切った相棒よりドアをかち上げて降車したオレは、インカムを外して同じく降車した赤き同僚へ思うままに自分の意見を提示した。
「むしろそれは逆……だと思うぞ?オレは。少なくとも彼らはあの
「何よりあの、
はぁと息を吐き眉根を寄せて苦笑する
そこへ――
「……ああ、英雄殿——じゃない、部隊長と——」
「お・姉・様ーーーーっっ——っは!?」
「「あ……姐さん!?」」
降車したオレ達の姿を視認したアシュリーが、オレへは適当に(汗)……そして
その要因は……背後で彼女が支援指導する
しかも男子生徒二人が謎の呼びかけでアシュリーを呼称し……オレもちょっと想定外の事態で驚いた。
するとそんなアシュリーを見やる
かつて死神と呼ばれた少女が、自分より幼き高等部学生に翻弄されるも……訪れた得難き瞬間に興じる様——
その姿こそ……惨劇と言う煉獄に焼かれた少女へ、
「ムーンベルク大尉……楽しそうで何よりだ。だが——任務である事を忘れない様にな?」
思考に浮かんだ状況を賛美する様に、大尉へ敢えての言葉を送れば——
「ばっ——つか、五月蝿いわねっ、分かってるわよそんなの!ちゃんと任務も熟してみせるわよ!見てろよ、ちくしょうっ!」
無用に紅潮させた顔のままキーキー喚き……やはり語尾が男に戻りながら——しかし明らかに変わり始めた彼女の雰囲気へ僥倖と感じつつ、観客との交流へと移る。
その最中、ふと視界に映った祭典を映し出す会場特設巨大スクリーン——端に表示された時刻でふいに
「(そろそろ軌道共鳴の緊急予報が発令される時刻か……。皇子の視線が警告を促していた事もある——ここは一旦気を引き締めるべきだな。)」
さらには不意に訪れる災害に対し……軌道共鳴による超重力の乱舞は、見舞う時刻がはっきりしている分対処もし易い。
想定された事象へ合わせた緊急予報に備え、重力異常軽減シェルター等への避難勧告は前以て発令されるはずだ。
と言っても—— 一般的にソシャール内部での軌道共鳴による重篤な災害は今まで聞いた事もない。
それでも、こと
だが——当たり前の通例が、想像だにしない事態の剥いた牙で異常事態へ変貌するなど……その時
たった一人の……裏切りの牙を研ぎ澄ませる女性以外は——
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