第93話 交流文化防衛任務
一通りの巡回を終える
すでに幾度となく足を運ぶそこは、向かう度に難題が押し寄せてくる場所でもあり——程なく合流したサポートパイロットの女性陣含む、支援部隊各員と顔を見合わせ嘆息した。
「この隊に来てこちら……全く気の休まる時も無いな、英雄殿。その上敵対者との戦いよりも、身内の揉め事が比重を占めるなど——
「あら大尉殿?それは私の事を仰っているのかしら?」
「アシュリー……全くあなたは……。その突っかかる癖は何とかしなさいよ。」
「でも
「そうよね~~息が詰まりそうだったわね~~。」
男の娘大尉の不祥事からこちら——殺伐としていた部隊内の雰囲気も、角の取れた弄り合いへと変化していた。
それは多分に、蒼き英雄と赤き勇者の功績である事を皆が理解する中——心休まぬ新たな任務受領を待つ様に、皆歩を進める。
「それにしてもどうするんだい、大尉殿。今のままじゃ、折角の腕も鈍るってもんだろ?」
「つか、何よ……私が気を許したからってここぞとばかりに話に入って来るじゃないの?エリートさん方。そりゃ鈍るけれど、自業自得……今は自重するしか——って、何よ……。」
エリート隊で屈指の電子戦専門である
「あ……あのアシュリーさんが——自重……っすか!?」
「——おい、格闘バカ。死ぬ覚悟は出来てんだろうな……?」
「いだっ!?いだだだだっっっ!?足っ……足踏んでるっす!?アシュリーさん!!」
「あんたが余計な事言うからだろっ!?このっ、こうしてくれるっっ!」
そこで展開されたのは、生暖かい空気の漂うラブコメの一幕。
まさかの眼前でそれを見せつけられた霊装機部隊員一同は、微妙な表情で顔を引き攣らせた。
中でも同赤き霊機支援チーム二人は、絶望的な視線を顕とする。
「えっ!?何……これ、何が起こってるの!?あのアシュリーが男性とラブコメって——」
「これは~~宇宙が——終わるわね~~☆」
「「そこまでかよ!?」」
「あはは……
弄り合いも最早収集のつかぬ有様へと移ろうとした時……目的である部屋の重厚な扉が一同の視線に入る。
そこで頃合いと見計らった蒼き英雄は、緩んだ気を引き締める様に皆へ注した。
「互いにだいぶ打ち解けた感があるが、新たな任務が待っているため—— 一先ずここで区切りを入れてもらうと助かる。特にアシュリー……あんまり
「
「クオンさん……それ何気に酷いっす……(涙)」
最後に英雄からの特大の弄りが贈呈された赤き勇者。
だが小ブリーフィングルーム扉を抜けた一同は、すでに引き締まる表情で各々席へ着く。
すでに薄い蒼が眩しい金属テーブルを挟み腰掛けるは、
「あの……殿下?なぜこちらに……(汗)」
「おお!皆の者、揃っておるようじゃの……早う周知会を始めるぞ?」
想定外の人物が指令へ隣り合い、かく言う
霊機隊面々も破天荒を噂に聞きしもこの皇子殿下——ここまで想定外の行動を取るのかと嫌な汗を額に浮かべてしまう。
だが——
その中にあってただ一人……その来訪から只ならぬ事態を予見した者——蒼き英雄だけが、顔には出さず僅かに視線を鋭くする。
それに気付く皇子殿下も定番の黒扇子の下、不敵な笑みと共に双眸を鋭く細めた。
英雄としても先に身内の変調の兆しを告げられて以降……
それは何より蒼き英雄が誰よりも長く、観測者であるリリスとの接触を持っていた事が影響していた。
——危機の予兆を察し易くなった思考が、皇子殿下が取る行動の真意を見抜いていたのだ。
霊機隊一同が席についたのを皮切りに、旗艦指令がこれより発せられる任についての詳細説明に入る。
それは祭典の地〈イクス・トリム〉が、木星圏最遠の巨大衛星カリスト方面から……約2日の距離へ近付いた頃の事であった。
》》》》
「お疲れ様です、フリーマン軍曹。後こちらでやって置きますので、休憩をしっかり取って来て下さい。」
「おっ、ありがたいね~~勇也ちゃんも楽しんできたかい?んじゃま、後よろしく~~。」
「ああ……もう、毎回言ってて虚しくなるけどねぇ——私達には挨拶も無しですかね?軍曹。」
「ああ……はいはいおつかれ。」
「むっか~~!それ、勇也ちゃんと全然扱いが違うねんけど!?」
「ほら翔子ちゃんもいちいち相手にしない。お仕事待ってるでしょ?」
仮初めの休暇も程々に切り上げたブリッジオペレーター陣が、皆一様に職場へ戻る頃——
交代でブリッジ管制に従事していた男性が、挨拶もそこそこに……それも
ロイック・フリーマン軍曹——
この巨大な剣形状の旗艦を、繊細かつ大胆な操縦技術で運行する彼は
他のオペレーター員と違い、その運行上のミスが旗艦に搭乗する全ての者の生命に直結する彼——旗艦のメンテと状態管理で、ブリッジへ缶詰めになる事もしばしばなのだ。
「ふあああぁ~~……マジで疲れるわ、この艦の操舵は。特に木星圏三衛星の重力共鳴は、冗談抜きで何とかしてほしいぜ……。」
大欠伸のままに伸びをする軍曹を見やるオペレーター陣も、痴話喧嘩を始めるも——必要以上に彼を責める様な真似はしない。
それは一重に彼の操舵へ自分達の命運を託しているからこそ……
「ああは言ってるけど……フリーマン軍曹、結構負担が来てるわよ?だって——」
「今までの
任務中の生真面目さから……ブリッジ内をよく観察する
その
言うに及ばず、それは
単純に災害防衛を熟していた時と、危険の度合いが桁違いであったのだ。
押し黙ったオペレーター陣も、その言葉で気持ちを切り替える様に各々の仕事場へと足を向ける。
しかし……危機的状況を切り抜けて来たブリッジオペレーター達は、傍目では分からぬが確実に、その重ねた経験に見合う成長を見せていた。
任務交代時間を迎え、ブリッジから退出するお疲れ軍曹。
その横を通り過ぎる影は、あの機動兵装データ全般の収集管理運用を担当する
だが、軽く手を挙げるだけで少尉とすれ違う軍曹……そこへ微妙な違和感を捉えていた。
同じく軽く手を挙げたメカオタク女性を尻目に、お疲れ軍曹は違和感の正体を探る様に思考する。
「(彼女……あんなに冷たい目してたか?)」
違和感の正体——メカとなれば目を爛々と輝かせていた女性の、凍り付く様な……殺気すら纏う雰囲気。
まるで別人であるかの様な様相に勘付く軍曹……そして思考したその違和感と同時に思い出される、英雄が戦闘中に放ったカミングアウトの一端を照らし合わせ——
「(これはもしかしたら、大尉殿の言ってたアレか?て事は、一応警戒だけはしておかないとな……。にしても――)」
他のオペレーター陣にも見せぬ勘の鋭さを見せたお疲れ軍曹は、頭の片隅へとそれを仕舞いつつ——ようやく訪れた一時の休憩へと向かったのであった。
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