第91話 臨時開催予告、宇宙の祭典
『——と言う訳で、
「ええ、なるほど。そう言う事おしたら、当方アル・カンデ側としても協力を惜しまぬ次第おすが……問題は——」
『はい……それについて当ソシャールは、かねてより祭典開催の為——ソシャールへの恒星間航行技術の一部使用許可を技術監督官より取り付け、現状木製圏までの航行……並びに限定的にではありますが——』
『木星の超重力圏での軌道静止を実現した、特殊強化ソシャールとなっております。』
その報とは、火星圏での興行を生業としていたソシャール【イクス・トリム】——社会への娯楽イベント専用に建設された航宙型巨大施設からの物である。
「分かりおした……その方向でこちらも日程を調整しよう思います。ただ……木製圏の重力増減データ確認——及び各衛星との重力共鳴時期には、くれぐれも留意願いますえ。」
『はい……ご配慮に感謝致します。では——』
切断を見た通信後——深い嘆息の元、管理者がひとりごちる。
「イクス・トリムが、ソシャールごと避難して来る言う事は……火星圏の治安は想像以上に悪化しとると見るべきおすな。さてさて……こちらはどうしたもんおすかね~~。」
新たなる防衛部隊発足に合わせたかの様な、各地での争乱勃発に——そこはかとない不穏を察する楽園管理者。
彼女は楽園の民の安全と……心身への健やかな日々を招来するため、管理者としての責の重圧と対峙していた。
イクス・トリムで開催されるイベントは、
「こちらでアレが開催されるならば……
しかし——
その文化発展の要として催される地上と宇宙の交流イベント——
——スペース・ヴィークル・チャンピオンシップ……S・V・Cと呼称されていた。
》》》》
「――
「なんや、ジーナちゃん初耳かいな!いやぁ……バイク乗ってはるからてっきり、ヴィークルレース好きで——その手の情報は誰より最速で入手しとる思とったわ!」
「いやいや……(汗)。翔子さんそれ偏見ですからね?バイク好きが必ずしも、
英雄の
そこへすでに噂が一人歩きし始めた所に、最も噂を広める要因となるメンツの耳へと舞い込んでいた。
言わずと知れたその内容——現在
「何でもさっき、アル・カンデから正式にクロノセイバーへの警備任務依頼があったとか何とか——
「……うわぁ(汗)指令……ご愁傷様——って……え?それって——」
嘆息と共に通信手の少女から、手痛いツッコミがぶちかまされた。
「はあっ!?何言うてんねんジーナちゃん!アンタも
「はぅ……ですよね……(涙)」
突っ込まれた内容が忘却の彼方にあった事で、一掃肩を落として嘆息したブロンド少女――しかしこの時、本人も気付いてはいなかった。
それを忘却の彼方へ追いやっているのが、己の中にまだ小さくであるが……芽生えてしまった禁忌の技術を操る者としての劣等感――現実から逃避しようとする精神的な防御反応である事を――
当の本人も無自覚なままに、ただ過ぎて行く一時の緩やかな日常。
その当人の心身的な――そして致命的な精神面の傷を……フードコートの影となる場所で気取った者がいた。
「(なんだよジーナちゃん……傍目には分からないけど――これ、かなりきてんじゃないか?視線を落とす回数と嘆息回数の多さ――)」
「(あれじゃまるで……地球でいた頃の私じゃん……。)」
和気藹々から離れ――彼女らの視界から死角となる場所で、一見普通に食事を行う演技を見せる女性が――
「(これは――見つけたかもしれない。……あの蒼き巨人の弱点を――)」
一人思考の内に宿すそれは……部隊――取り分け
そのまま演技を続ける女性――
》》》》
ブリッジオペレーター陣へ程よい
向かう途中偶然に、マスコット伍長殿と遭遇した。
「オウ!クオン大尉殿……散策オツカレさまなのだ!ゴキゲンいかがなのだ?」
「やあ、モアチャイ伍長――そう言えばここ最近、伍長も医療現場で多忙だな?患者となってしまった者達――まぁ今回は、あのアシュリーだが――」
「皆の心身の回復へ貢献してくれているそうじゃないか。尽力に感謝している……これからも精進して、ローナの様な名医を目指してくれ。」
「どうイタシマシテ!なのだー!」
どうも格納庫と医療区画が構造上近い事で、そこへ向かえばそれなりの確立で彼女と遭遇してしまう。
当然モアチャイ伍長も遊びでフラフラしている訳ではない。
その彼女の現状の扱いは、看護士見習いの見習いと言う中々珍しいモノだ。
元々地上は飢餓地帯で明日とも知れぬ命であった伍長は、勉学などとは程遠い生活環境であったため――この部隊内で活動しつつ、必要な勉学を学んでいる最中。
そして同時にエンセランゼ大尉の指導の下、まずは雑用をこなしながら医療現場の基礎も学ぶと言う生活が彼女の主な任務となる。
お褒めの言葉に花の咲き誇る様な笑顔を振りまく黒人系少女は、いつもの様にオレの足へしがみつき――看護士見習いとは思えぬ幼さで、子猫の様に擦り寄っている。
その相変わらずマスコット感全開の少女へ、視認した手ぶらぶりから今が休憩時間と察したオレは……しばしの慰労巡回への付き添いを申し出てみた。
「伍長は今非番か?そうなら、どうだ……オレはもう少し艦内への慰労を兼ねた巡回を予定してるんだが――」
「いいのだ!?ピチカもご同行をシンゲンしても、よろしいのだ!?感謝カンゲキアメフラシなのだ!」
「――そこは、あめあられ……な?」
「それなのだ!」
片言ではあるも……語学にこなれて来た伍長――たまに出る大きく意味を外した会話が、逆に隊員達の心を和ませると評判だそうで――
皆がそれを暖かく訂正してやると、驚くほどのスピードで吸収し……正確な言葉を覚えると評価されている。
自分もその会話訂正後に得られる暖かな雰囲気を堪能しつつ、提示した件を伍長が了承したのを確認し――
「では暫くご同行願えるかい?伍長殿。」
「うむ!苦しゅうない……チコウよれ~~なのだ!」
例の……近う寄れと言いつつ自分が擦り寄る伍長を従え、格納庫へと足を進めたのであった。
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