第84話 死神を焼く炎陽の正義
『殿下っ!お下がり下さい――現在合同演習の最中です!おまけに今すぐには、演習を止められぬイレギュラーが……――』
合同演習最中に訪れたまさかの皇子殿下の突撃訪問――しかし
急遽
そう――確かにそこまでは演習上、想定外としても誤差の範囲と言えたのだ。
だがモニターに映し出された映像には、
そして最悪な事に、まさに大尉が飛ぶ方向の宙域に……皇子が乗りつけた皇族御用達の航宙高速艦が静止していたのだ。
「よい……ワシはこのまま訪れる因果を受け入れよう。」
『で、殿下!?何を——』
「なにもないわ……ワシの眼前で、すでに動くべき者達が動いておる。ならばワシの役目は、その一部始終を見届ける事じゃ。まぁ——」
「お主の心配も杞憂に終わろう……
避難勧告を発した本人は、そう言う事ではないと眉根を寄せるも——これこそが、この皇子殿下を破天荒足らしめる行いと知っている。
故に殿下直々に放たれた言葉で、二の句も告げられなくなってしまう。
そのやり取りが交わされる一方で、すでに
『わ……たし…は、お前を——
『——戦えよ!
双銃が舞い——
演習中……奇跡の回避で敵対チーム全ての攻撃を避け切った
『戦えよ……戦えって言ってんのよっ!何、調子こいて全部攻撃受けたりとか——してんのよっっ!あんたが私に無様に敗北しなけりゃ、お姉様の目指したそのシートが——』
「アシュリーさん……あんたには、俺の後ろにいる者が見えないのかっ……!この背に守るべき者がいるのに——俺がここを動いて、あんたの好きにさせると思ってるのかっ!」
狂気の表情のまま、その感情を宿す様に振り抜かれる双銃の連続打撃——それを受け微動だにしない、
世に舞う偽善的と言う嘲笑など焼き焦がす——灼熱の恒星の如き……裂帛の気合いで——
「
「俺が倒れれば……その背に背負った、守るべき者の生涯さえも奪われるからっ!」
『……っ!?』
その狂気全てを受け止める様に——
そして——
己の事しか見えなくなっていた死神の……心を囲む悲劇の壁を——赤き炎陽の正義が焼き尽くして行く。
「アシュリー大尉、落ち着いてよく見て下さい。あなたのこの銃は……悲劇を生む凶器になっちゃいけない——そんな事……
『お……ねえ、様——』
正義を纏う恒星の炎が、死神の心を露わとし——少女の目に映っていたモノが、
そしてようやく目にした赤き霊機の背後……300と離れぬ距離に浮かぶ艦艇——迂闊に彼女が銃火砲を放てば巻き沿いになる事は明白な地点。
同時に……
気付かぬ内に、演習宙域に入り込んだ艦艇を守るため……己が滅多打ちになるのも
そう——
熱く燃え
狂気のままに握りしめていた操縦桿……力なくそこから手を離した
「——なんだ……いるんじゃない、こんな男も……。あんたが——あんたみたいな奴が居れば……私の人生も——」
操縦桿から離したその手で……熱き少年が映るモニターを掴む様に伸ばした——
……刹那——
少女の駆る
機体の機関部を中心とした場所から、赤き霊機を巻き込む様に弾け飛んだ。
「アシュリーさんっっ!!?」
すでに爆散は目前のはずであった——しかしイレブンは、散らぬ様に……歯を食い縛る様に耐えていた。
己を駆る闇に堕ちた
》》》》
オレ自身も想定だにしないイレギュラー——それも、まさかの身内からのモノだった。
その思考していたプランを見事に台無しにしてくれたのは、
オレとて軍事に関わる身である故に、軍部総大将であるウガヤフキアエズ閣下のさらにその上——あの方にさえ勅命を下せる存在を聞き及んでいた。
艦艇に刻まれた紋章は紛れも無く、【ムーラカナ皇王国】皇族所有の高速艦……搭乗するのは殿下……――
その艦艇が巻き込まれぬ様、速やかに防衛行動に入った
言わずと知れた死神と呼ばれる
自身もまず訪れないであろう
視認したオレは速やかに対応に移るため、然るべき部隊の然るべき者へ通信を飛ばそうとし——
「シャーロット中尉!大至急アシュリー大尉を——」
『言わずもがなだ、英雄殿……すでに出ている!これよりアシュリー大尉の緊急保護に当たる——搬送ポッド準備、続けクリシャ!』
『了解です!――搬送ポッド準備完了……すぐにと飛びます!』
事前の予測に対し、素早き対応を見せる
加えて……無理を押して整備チームの
発せられるSOS受信と生命反応も併せてレーダーに投影される。
その顛末全体を確認したオレは……すぐさまC・T・O総本部への通信を飛ばす。
「こちらクオン・サイガ!緊急事態に付き、急遽演習を中止とします!我等は直ちに、爆散したムーンベルク大尉の救助サポートへ移行――同時に当該事態における以後への影響調査へ移ります!」
『うむ……そちらは任せた!――本部でもムーンベルク大尉の生存ビーコンを捉えている……すでに
『事前対応――ご苦労だった、サイガ大尉!』
忘れてはならない点……この演習は観客の今後への不安を和らげる種のイベントとして開催されている事――演習中の機体爆散が軍部さえも予期せぬ事態で、且つその対応をしあぐねたならば……それは民の不安を
だからこその事前対応――そしてそこで最大限に活かされるのが、救急救命のために
まさに彼女達はこの様な時にこそ、その真価を発揮する。
軍部としてもその点を民へ伝えるためにも、
結果としてオレ達の戦いや行動が、軍部と言う組織の宣伝に利用された形ではあるも――今おかれた
モニターへ映る現本部指令である
「さて――これからどうするか……
女神の機体を支援しつつ思考に描くは、こちらも想定していない大問題が持ち上がりそうな予感――あの男の娘大尉が、知らずとは言え殿下の御前で制止を振り切り演習を強行し……危うく殿下へその銃火砲の矛先を向けそうになると言う、重い軍法会議待ったなしの事態。
責任を取ると、あのマケディ軍曹へ豪語した手前――責の重さと今後への影響が計り知れない点を思考したオレは、深い嘆息の海に沈むのであった。
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