第78話 一騎当千への道



 デモンストレーション――

 確かにクオンさんからそう聞いた。

 それは軍事合同演習と銘打った、漆黒が襲撃した事で台無しとなったお披露目会の仕切り直しに相当する軍事興行イベントだそうだ。


 すでに部隊は【霊装機セロ・フレーム】二機を含め、充分に部隊を名乗るに相応しい数が揃い――確かにそういう面では、演習と言う興行も無くはないと思ってた。


 その対戦構図を見せられるまでは――


「……あの……綾奈あやなさん?え~~何で、Αアルファ・フレーム一機に対し――残り全機で応戦するとか……こんな、とんでも対戦になってるんすか(汗)??」


「――そうね。それはこっちが聞きたいわね……(汗)」


 何かの間違いかと最初に思った。

 どう考えてもこの対戦構図はおかしい――ともすれば新参いじめかと思うほどに……。


 軍事イベント打ち合わせのためC・T・O施設内における大会議室――事前の打ち合わせのため、数段に渡ってデスクと長椅子の並ぶ階段上のここへ一足先に付いた俺と美人上官綾奈さん――

 なんだけど、困惑しか浮かばない事前の通知を個人用ディスプレイ端末で知り……二人で疑問符の嵐を巻き起こしていた。


 そこで至った思考――分かっていたとはいえ、剣を模した旗艦コル・ブラント内での任務中も……さらにはこの宇宙人そらびとの楽園へ帰還してからも、会議室詰めが基本となりつつあった俺はさすがのうんざり感も芽生え始めていた。

 民間出向扱いとは言え、軍に所属する事の意味を今更ながらに感じながら――未だ思考に踊る疑問符と格闘しながら適当な席に着く。


 遅れて開いた会議室の電磁扉より、すでに信頼も得られたと思えるエリート隊長とエリート部隊一行が入室し――意味ありげな視線と笑みを送られた。

 

「……あれ絶対、この興行イベント内容理解してるよ……(汗)あの鉄仮面の部隊長アイアン・フェイス・コマンドが笑ってるんだから……――」


「――何か最近、クリフ隊長も随分と馴染んで……っっ!?ぎゃあっっ!?」


「ふぉっっ!?」


「むふふ~~お姉様~~捕まえましたわよ~~☆さあこれで、お姉様も――ごふぉっ!?」


「……は・な・れん・か!このおバカ!!これから大事なイベント打ち合わせで――」


 完全に不意を突かれた綾奈あやなさんの悲鳴――同時に現われた小さな影に、俺までビクッ!?となってしまう。

 いや――いったいこの男の娘隊長、どっから現われた今……(汗)つか、完全に綾奈あやなさんを待ち伏せしてただろ……。

 と、半目で事を冷ややかに静観していた俺へ――男の娘大尉が明らかに美人上官への物とは異なる、の視線で迎撃して来た。

 俺の本能が察するその視線に篭った意味は――「。」――


 それを察した時点で、言いようの無い疲れが強襲して来る。


「ムーンベルク大尉――有事では無いとは言え、悪ふざけが過ぎる。慎め。」


「大尉殿……こういった場では謹んで頂けると、ウチの隊長も無駄に剣幕を振りかざす事もないでさぁ。――その辺は汲んで下せぇ。」


 すると今度は別方向――俺達から少し離れた場所に陣取ったエリート隊長とご一行が、苛立ちとまでは行かずとも……厳しさを籠めて隣りの襲撃者をたしなめる。

 初めてまともな会話を聞いた気がする、褐色がかった強面隊員殿――ニキタブ少尉の言葉で、その隣り……地上は中華大国出身のディン少尉が苦笑を浮かべていた。


「――あぁ?五月蝿いわよ……?なんなら……ちょうど良いイベントもある事だし、私と勝負でも致しますか~~?んん~~?」


 うわっ!?仲悪っ!?

 隣りで美人上官にウザイまでに懐く大尉殿――エリート部隊へ、俺に向けた物より一段と危ない殺意を乗せた挑発を……アンバランスな女の子然とした仕草でブチ撒ける。

 まさにどころではない……の様相で――


 どうやら男の娘大尉殿アシュリーさんはこの救いし者部隊クロノセイバー内でも、隙あらば男性である者全てに牙を剥く気性だと……その時初めて痛感してしまった。

 これが綾奈あやなさんの言う「ガチで危険」の指し示す点である事は、想像に難くない。


 そうやって見境なしに狂犬の牙を剥き出しにする、油断していた大尉殿――すでに会議室扉を経て、彼女の背後に回る仲間の気配すら感じ取れず――


「あらあら~~ま~たウチの隊長、~~?」


「――のぉっっ!?……あ、あの~~うん。ごめんね……うん、分かった――大人しく席に着けばいいんだよね?」


「あらあら~~張り合いのない隊長ですわ~~?」


「……はぁ~~はいはい二人とも、ちゃんと席に着いて。特に隊長?あなたはお姉様から少し離れなさい。」


「……は゛、ばいぃぃ~~。」


 自業自爆ですよアシュリーさん(汗)あれ程の牙を剥く狂犬も、二人の……何だっけ――綾奈あやなお姉様ファンクラブ?の会員には滅法弱いらしい。

 それはよくも悪くも、バランスが取れた部隊構成なんだと感じる程だ。


「揃っているみたいだな。――?(汗)」


「あ~~いえ、。それより初めてもいい頃合と思うっすよ?」


 最後に訪れたのは、今回この軍事興行での軍事演習――その奇妙奇天烈な対戦構図を考案した張本人であるクオンさん。

 俺の「いつもの」で「あぁ~~」と納得してしまう辺りは、本当に部隊をよく見てる証拠――きっと上辺だけではない所も見透かしてるんだろうと、いつも尊敬させられる。


 かくして軍事興行事前周知会が、この一波乱起きた直後の大会議室で行われる事となるんだけど――


 その後の軍事イベントに於いて――こっそり とある者の存在など、俺は当然気付く事もなかったんだ。



》》》》



「なん……だと!?それは――いや、あのお方なら在り得るか……!ぬぅ~~――」


 それはC・T・Oによる仕切り直しの軍事演習興行のため――部隊への周知を蒼き英雄クオンへ任せ、イベント全体の取り纏めを行う軍幹部へ――

 唐突に知らされた臨時報告――それも中々の面倒さを孕む事案に、二人の大佐が悩む思考に囚われていた。


「それはつい先ほどだ。こちらの政府も、天王星は皇王国本国からの緊急入電で知ったとあり――完全に浮き足立っている。」


「――であろうな。……ご自分が本国の皇位を継ぐ存在である自覚が足りんのではないかとさえ――」


「口を慎んだ方が良いぞ、天城あまぎ。あの方の事だ……ひょっこりこの軍本部に紛れ込んでいるやも知れん。とは言え――確かに困った皇子である事には違いないがな。」


 口をはばかる事無く――慎めと言うそばからそこへ愚痴を投げてしまう二人の将官。

 現在C・T・O総本部室内の管制室で、興行用設備状況の進捗を見極める将官達を悩ませる事案――それは剣を模した旗艦コル・ブラントが警戒任務終了を見た時刻に、太陽系は木星よりさらに外縁……天王星より届いたものであった。


 宇宙人そらびと社会における代表国家として、【ラ・ムー王族】の血を受け継ぐ正統外縁国家【ムーラカナ皇王国】と……その他多数のいにしえの民からなる【レムリア・アトランティス連合国】が挙げられる。

 現在皇王が治める【ムーラカナ皇王国】本国では、次期皇王となる者が選出され……その皇子である者が国家間を定期的に訪問しつつ、次代の王としての研鑽を積んでいるのだが――


 現皇子である【新帝ノ紅真ノ命アラタミカドノ・アカマノミコト】皇子が、稀に見る破天荒ぶりと噂に名高い訪問を見せる事で知られていた。

 その破天荒ぶり――

 皇子と言う立場でありながら何の音沙汰も無く、突然各傘下となる国家等へ訪れると言う……はた迷惑極まりないである。


 しかしそれが、各国家群内部における……ほんの僅かな悪政さえも見逃さぬ――皇子の偉大なる行いと知る者は、宇宙人そらびと社会でも一握りであるのだが。


「――だが、私から一つ言える事がある。……皇子は何よりイベント好きだ――恐らくは、この興行開催に対して深い興味を示されたのだろう――」


「……ならば試されるな……。救いし者部隊クロノセイバーの真価が――皇子の御眼鏡に適うかが――」


 将官二人は言いようの無い緊張感に包まれる。

 かく言うこの二人も、当然あの軍部最高司令官であるフキアヘズ閣下さえも――その皇子が持つ、真の皇王たる素養を知り得る者である。

 皇子の眼力にて見透かされる救いし者部隊の真価――それは二人の将官にとっても、ある種の覚悟を持って挑まねばならぬ事態に相当していた。


 ――争いの渦中へと飛び込む銃を取った民達が、その正義を正しく扱えるかと言うを問われる事となるのだ。



》》》》



 宇宙人の楽園アル・カンデ漆黒の部隊ザガー・カルツによって襲撃される。

 それは漆黒の部隊長エイワス・ヒュビネットが準備した禁忌の怪鳥フレスベルグ――そこより発せられた破壊の閃条が、楽園外縁を掠めた直後……宇宙人そらびと社会へ、量子通信によりネットワーク配信されていた。


「ヨーソロー!――ふむ、此度も中々に興味深い訪問であったのぅ。って、こりゃ!お主、余の話を聞いておるのか!?――寝るなっ!」


「……ふぁ~~……むにゃむにゃ――はっ!?皇子っ――……眠ぅございますぅ~~――」


「――こんの……痴れ者が!ぐぬぬぬっ――」


 それは木星圏より外縁からきたる――

 100m超はあろう高速航宙艦の影が、天王星付近より飛来する。

 技術制限上では軽微の制限である古の技術形体ロスト・エイジ・テクノロジーなぞらえる艦影――しかし其処彼処に装飾と思しき外装が目を引くそれは、皇族御用達の航宙艦。

 しかしその隣り――付かず離れずの距離を保つ機影は、巨大なる人……否、である。


『まあ、皇子……それくらいで。シバも疲れております。星霊姫ドールとは言え彼女――二つの人格を一つの肉体に内包する彼女は、生命活動を行うだけでも相当の疲労かと――』


「分かっておるわ……ったく、お主は相変わらず説教くさいのぅ――よ?」


 皇族御用達の艦影――その操縦室はゆったりとした広さを持ち、湾曲した外部光学モニターが視界を覆う空間。

 そこに設けられた大型で人員保護も万全の椅子へ腰掛け、尊大な物言いを放つ地上年齢でも少年相応と取れる姿――その膝にもたれて船を漕ぐ、幼く見える少女に優しさとも怒りとも取れる謎のやり取りを披露していた。


 そして通信先――皇族御用達の艦傍で追従する、女神を思わせる機影からの物か……モニターへ映る男性へも悪態を投げる。


『――それはそれとして、皇子……先ほど配信された量子通信――漆黒が……本格的に動いた様です……。』


「――ふむ……あ奴めついに、――」


 女神の機体から発された不穏――耳にした皇子と呼称された少年が、双眸へ鋭さを宿す。

 同時に手にしていた黒配色の豪華な扇子をパチン!と閉じ――あらわになる口角には歯がゆさが見て取れた。

 

 そして双眸を閉じ僅かに自問自答した後、開く双眸のまま――通信をやり取りする男へ宣言する。


「よし決めた!余はすぐにあの場所を――宇宙人そらびとの未来を願い建造されたかの地……宇宙人の楽園アル・カンデを視察するぞ!?シバよ、余についてくるのじゃ!――って、爆睡しておるの~~(汗)」


「――あと、お主はどうするのじゃ?カツシよ。あそこには、がいるのではなかったかの?」


 鋭き双眸の皇子が向けた問いに、モニター越しで首を横に振るカツシと呼称された男は……理由を皇子へと返納する。


『――仮にもボクは、皇子の護衛の任を本国より受けた身……それも航宙艦航行時のみです。事件もありましたが、平和を享受するあの地であれば……そこのシバ――いえ、ワンビアの護衛で事足ります。それに――』


 言葉を切るカツシと呼称された男――遥かなる恒星を視界に捉え、抱える胸中を吐露した。


『それに今はまだ、その時ではありません。……いずれ因果がボク達を――Ωを繋ぐ時が訪れます――』


 青年の決意が、因果による導きを待つ物と確認した鋭き皇子――再び手にする扇子を開き口元を隠すと……正式にして、【ムーラカナ皇王国】第一皇子による皇族直衛任務が下される。


「……よかろう。ではカツシ――いや、【皇王国直属調律騎士エル・クラウンナイツ】カツシ・ミドー将軍よ……これより余の楽園視察に辺り、当該宙域での監視及び有事の護衛行動を命ずる!」


 皇子の放ったまさに皇族直下の命へ、モニター先で敬礼を返す男……皇王国本国における最高位に位置する近衛将軍――

 【皇王国直属調律騎士エル・クラウンナイツ】カツシ・ミドー将軍は、即ち――あの8年前の事件で、行方不明のまま捜索が打ち切られた


 蒼き英雄にとって、最初の友であるかつての少年――御堂 勝志みどう かつしであった。


「聞いたかい?フォーテュニア。ボク達はこの後、皇子護衛を継続する――白銀の女神フリーディアの調整は任せたよ?」


『イエス、マスター。そこは私にお任せあれなのです!』


 女神を模した機影が、自由を関する女神の名で呼称され――そのシステム統括を担う少女……同じ機体内の別セクションよりモニター通信で返答する。


 【皇王国直属調律騎士エル・クラウンナイツ】とは、皇王家防衛軍における最強の地位であり――そこに至る資格も通常では考えられぬ物を有する特別な存在。

 その騎士に無くてはならぬ資格――それは【観測者】によって剣を与えられた者――


 宇宙人そらびとの歴史千年来でも未だ存在していなかった――が、それは御堂みどうと呼ばれる青年がその手にしていたのだ。

 神格存在バシャールである【観測者】により与えられるは女神――【霊装の女神ウウェアドール・フレイア】と呼ばれる白銀の女神と……対となる存在【星霊姫ドール】。


 二つの資格を与えられた騎士は、宇宙そらに於いてこう呼称される。

 ――星霊姫ドールを従える者……【星霊姫使いサイドール・マスター】と――

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