第79話 波乱の合同演習
それだけに……急遽開催に漕ぎ付けた合同演習と言う名のイベントは、関係者を大いに期待の渦へと引き込んで行く。
一部では
当然C・T・Oにおける一部の部隊は、
「では今回行われる合同演習興行に於ける、我々の対戦配置についての周知だが——現場での指揮を任されるオレが、演習上の指示を出す事になる——」
「さらに――これ以降の軍事作戦行動時も、現場指揮は継続されるため……キルス隊及びラグレア隊には予め了承願いたい。」
軍事演習興行の演習項目である案——その提出者である
「あの……良いすか?クオンさん。俺、今一納得が行かないんすけど……——」
その本題へ、疑問待ったなしと思い切った質問をぶつける
さらには——
「同じく、私もそれは流石に疑問しか浮かばないんだけど……どゆこと?」
珍しく少年のサポートを担う
「まぁ、二人の疑問は最も——まずその点から説明して行く。今回の対戦配置で重要な点……それは——」
「オレが先の【アル・カンデ】防衛戦で、
英雄の言葉で
浮かぶ疑問符もそのまま……それこその説明に入ると続ける英雄が、一つの決定的な点を提示——
「オレは奴の戦闘スタイルから、その本質を見極めたんだが——そこにはただ、
「先の口撃は、その闘争心を煽り——ザガー・カルツに於ける、ツートップの一角を崩すための策——」
語られる言葉——そこに内包される真意が暴露されるにつれ……中でもキルス隊エリート隊長へ、感嘆を如実に刻み——
「つまりは——奴が己の秘めたる野心のままに行動すれば……恐らくは必ず、その本能を満たす為の行動を起こすと踏んでいる。——そして、
「はっ!?……はいっす!」
提示される策に於ける重要人物へと向けられた。
「あの戦狼が動くとするならば—— 一体どんな行動を取るか……君は分かるな?」
「——……俺との一騎打ち……だと思うっす。」
「……本当にそうか?場合によっては、漆黒の指示で君を欺くために——」
「そんな事はあり得ないっす!」
英雄の詮索へ、格闘少年は被せる様に声を荒げた。
会議室に揃う一同もその声に驚愕を宿す。
それは至極当然——格闘少年はあろう事か、敵である者を擁護する言葉を叩き付けたのだから。
さらに——
「アーガスは……その——正直野蛮な感じは拭えない。けど……あいつの拳は何て言うか……ずっと迷いを抱えてる——そんな気がします!」
「それはきっと、あいつも——アーガス・ファーマー自身も気付いて無いだろうけど……本当は真っ直ぐな戦いを望んでる。……そんな気がするっす!」
篭る熱を吐き出す様に荒げた声が、会議室に木霊し——無言の空間が僅かに過ぎると、蒼き英雄が口を開いた。
「——なら、その一騎打ちに敗北してやる訳には……行かないよな?」
最後の言葉が会議室一同へ、その真意を悟らせる事となり——
「そう——いう事ね。ふぅ……回りくどいったらありゃしないわね、全く。要は
呆れる様に両手を挙げ、肩を竦めた
赤のサポート大尉の言葉へ首肯した蒼き英雄が、まさにその点へ集約している旨を明かした。
「
そこまで発言した蒼き英雄が、再び格闘少年を見る。
双眸に宿すは少年への期待と……彼が秘めたる可能性への羨望——
そして——
「もう一度問う……
英雄はまさに英雄として、常に事に当たっている。
初めて
少年は……その大き過ぎる挑戦者の背へ追い縋るため——裂帛の気合いと共に宣言した。
「俺は負けないっす。……負ける訳には行かない——でなければ、クオンさんが進み続けるその背中……護れないっすから!」
会議室へ叩き付けられた熱き情熱。
その灼熱の闘志は、まさにキルス隊のエリート隊長が少年へ向けた——上げた口角と共に送った笑みの含む意である。
エリート隊長も、勇者の魂の宣言を想像して笑みを送り——今その通りに事が運んだ形であった。
しかし——
その中にあってただ一人……他のパイロットらと異なる鋭い双眸を、蒼き英雄へと向けていた。
——
》》》》
合同演習と言うイベントへ向けた周知会もそこそこに、各員へイベント時間までの機体メンテを指示した直後。
大会議室を出た所でオレは
今にも噛み付かんとする双眸に、蠱惑的な唇を震わせて——
「やってくれたわね、英雄殿。私のプランが台無しじゃ無い。」
「はて?それはどう言う意味だ?」
蠱惑的な唇もそのままに一層鋭さをます視線……よほどこちらの方針がお気に召さなかったのだろう——少女の美貌が狂気に染まるのを感じた。
「
「霊装の機体を駆るには、取るに足らない存在である証拠を炙り出す――そのプランが台無しだわ。」
狂気のままに曝け出す彼女の本性――しかし言葉の羅列は支離滅裂を極める。
大方含む意味合いは……チームとしての任は渋々であり、ならばそれを利用し少年に失態を晒させ
そして宿る視線は、自分の事しか思考に持ち合わせていない――いや……自分の正義に一切の懐疑を宿さぬ者の視線。
それもこの合同演習で実行に移す気だったと――なるほどこいつは、想定以上に危険だ。
彼女の思考が、聞く耳持たぬ人種に見られる傾向であれば……それこそ部隊を指揮する上では致命的な弱点となる。
が――
双眸に宿る狂気の奥底に、オレは揺るぎなき信念を湛えた
それも正の方向へ向かう物。
感じた思考より導かれる答え――むしろこちらにとっても、有利となる案を弾き出したオレは……奇想天外な策をさらにかき回す方向へ振る事にした。
「そうか、それはちょうど良い。なら存分に、
「こちらが大人しくしてたら――って……は?今なんて――」
荒ぶる狂気をさらに暴走させんとした大尉殿が、まん丸な目を見開いた。
さすがにこの答えは想定していなかっただろう――
けれどオレが感じた通りであれば……彼女の心――その奥底へ
そう――あの赤き炎陽が心に貫く真の正義が、その鎖を焼き切る事が叶うはずだ。
だからこそ、オレは彼女へ……
「言った通りだ。君が今回の合同演習においての主力となり――残り全機にてサポートを行う――」
「様は、
人間と言うモノは、己が思考こそが正しいと思い込んだ時……周囲でいくら真実へ正す働きが起きようとも、それを一切受け入れる事が出来なくなる生き物と――あの
だが……人生と言う経験の中で辛酸を舐めさされた時、そこで間違いに気付き――歩む道を、修正する事が叶う生き物でもあるとも言っていた。
それでも――
命が尽きる最後まで、その過ちに気付けぬ者が居るのも現実であり――総じてその様な者こそが、血で血を洗う惨劇を生む引き金を引くんだ。
しかしこの眼前の少女は違うと断言出来る。
それは格闘家と言う、魂を研鑽する事で自らの拳の正義を律し続ける少年が……彼女の本質を見抜いていたから。
——過ちを過ちと気付ける者であると……気付いていたから。
そしてオレは
沈黙のまま見開く双眸に、あり得ないと言う感情の渦巻くアシュリー――きっとまだ小さな綻び……それでもこれから彼女は、オレ達と供に歩む家族。
その綻びこそが希望だった。
「――上等……やってやるわよ!英雄殿も吐いた唾は飲めないわよ……あの格闘バカを、
「そしてあの……禁忌の赤に搭乗する事を夢見て頑張ってた、私の命の大恩人――
狂気は綻びから来る迷いを纏い――それでもオレへ、己が願いを叩きつけて来る。
そのほんの刹那……闇の呪縛にヒビが入った音を、オレは感じた様な気がした――
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