第79話 波乱の合同演習



 漆黒の指揮する部隊ザガー・カルツの強襲により、有耶無耶にされたお披露目会には関係各所からも煮えきらぬ者が続出していた。

 それだけに……急遽開催に漕ぎ付けた合同演習と言う名のイベントは、関係者を大いに期待の渦へと引き込んで行く。


 一部では宇宙人の楽園アル・カンデの被った被害から、この様な時にとの声も上がる一方――声の主たちも不安を払拭する物を求めて、興行イベントへ賛同する方向で同意する。

 当然C・T・Oにおける一部の部隊は、A・Fアームド・フレームが不足する現在……速やかなるアル・カンデ・ソシャール修繕に駆り出されるのであるが――。


「では今回行われる合同演習興行に於ける、我々の対戦配置についての周知だが——現場での指揮を任されるオレが、演習上の指示を出す事になる——」


「さらに――これ以降の軍事作戦行動時も、現場指揮は継続されるため……キルス隊及びラグレア隊には予め了承願いたい。」


 軍事演習興行の演習項目である案——その提出者である蒼き英雄クオンは、軍本部大会議室へ宙空モニターを映し……本題となる対戦配置説明に入ろうとし——


「あの……良いすか?クオンさん。俺、今一納得が行かないんすけど……——」


 その本題へ、疑問待ったなしと思い切った質問をぶつける格闘少年

 さらには——


「同じく、私もそれは流石に疑問しか浮かばないんだけど……どゆこと?」


 珍しく少年のサポートを担う美人大尉綾奈までもが意見を返し、想定済みであった蒼き英雄も即座に返答を返す。


「まぁ、二人の疑問は最も——まずその点から説明して行く。今回の対戦配置で重要な点……それは——」


「オレが先の【アル・カンデ】防衛戦で、灼銅色の戦狼アーガス・ファーマーけしかけた口撃がポイントだ。」


 英雄の言葉でΑアルファ・フレームパイロット組は愚か、エリート部隊キルス隊に加え女性を目指した部隊ラグレア隊までも疑問符の渦へ呑み込まれた。

 浮かぶ疑問符もそのまま……それこその説明に入ると続ける英雄が、一つの決定的な点を提示——


「オレは奴の戦闘スタイルから、その本質を見極めたんだが——そこにはただ、只管ひたすらに強者と拳を交える事にのみ特化した思考を感じた。」


「先の口撃は、その闘争心を煽り——ザガー・カルツに於ける、ツートップの一角を崩すための策——」


 語られる言葉——そこに内包される真意が暴露されるにつれ……中でもキルス隊エリート隊長へ、感嘆を如実に刻み——


「つまりは——奴がすれば……恐らくは必ず、を起こすと踏んでいる。——そして、いつき……——」


「はっ!?……はいっす!」


 提示される策に於ける重要人物へと向けられた。


「あの戦狼が動くとするならば—— 一体どんな行動を取るか……君は分かるな?」


「——……俺との一騎打ち……だと思うっす。」


「……本当にそうか?場合によっては、漆黒の指示で君を欺くために——」


「そんな事はあり得ないっす!」


 英雄の詮索へ、格闘少年は被せる様に声を荒げた。

 会議室に揃う一同もその声に驚愕を宿す。

 それは至極当然——格闘少年はあろう事か、を叩き付けたのだから。


 さらに——


「アーガスは……その——正直野蛮な感じは拭えない。けど……あいつの拳は何て言うか……ずっと迷いを抱えてる——そんな気がします!」


「それはきっと、あいつも——アーガス・ファーマー自身も気付いて無いだろうけど……本当は真っ直ぐな戦いを望んでる。……そんな気がするっす!」


 篭る熱を吐き出す様に荒げた声が、会議室に木霊し——無言の空間が僅かに過ぎると、蒼き英雄が口を開いた。


「——なら、その一騎打ちに……?」


 最後の言葉が会議室一同へ、その真意を悟らせる事となり——


「そう——いう事ね。ふぅ……回りくどいったらありゃしないわね、全く。要はいつき君をこの合同演習でしごき倒そう——って腹でしょ?クオン。」


 呆れる様に両手を挙げ、肩を竦めた赤のサポート大尉綾奈が嘆息と共に項垂れる。

 赤のサポート大尉の言葉へ首肯した蒼き英雄が、まさにその点へ集約している旨を明かした。


綾奈あやなの言う通り……これはいつきに対し、単機で挑んで来るであろう戦狼との戦いを想定した対策——しかしこの対策における成功の是非は、いつきがその時までに奴を屠る実力を備えている事が重要——」


 そこまで発言した蒼き英雄が、再び格闘少年を見る。

 双眸に宿すは少年への期待と……彼が秘めたる可能性への羨望——

 そして——


「もう一度問う……いつき——君は戦狼との一騎打ち……?」


 英雄はまさに英雄として、常に事に当たっている。

 初めて宇宙そらと言う、無限の大海へ出る前に霊園で宣言した様に——格闘少年がその背を追うに相応しき姿を見せつけながら——


 少年は……その大き過ぎる挑戦者の背へ追い縋るため——裂帛の気合いと共に宣言した。


「俺は負けないっす。……負ける訳には行かない——でなければ、クオンさんが進み続けるその背中……護れないっすから!」


 会議室へ叩き付けられた熱き情熱。

 その灼熱の闘志は、まさにキルス隊のエリート隊長が少年へ向けた——上げた口角と共に送った笑みの含む意である。


 エリート隊長も、勇者の魂の宣言を想像して笑みを送り——今その通りに事が運んだ形であった。


 しかし——

 その中にあってただ一人……他のパイロットらと異なる鋭い双眸を、向けていた。


 ——宇宙人そらびとの歴史上……身障者の軌跡と呼ばれた英雄を、刺し殺すかの様に——



 》》》》



 合同演習と言うイベントへ向けた周知会もそこそこに、各員へイベント時間までの機体メンテを指示した直後。

 大会議室を出た所でオレは少年である少女アシュリーに呼び止められた。


 今にも噛み付かんとする双眸に、蠱惑的な唇を震わせて——


「やってくれたわね、英雄殿。私のプランが台無しじゃ無い。」


「はて?それはどう言う意味だ?」


 蠱惑的な唇もそのままに一層鋭さをます視線……よほどこちらの方針がお気に召さなかったのだろう——少女の美貌が狂気に染まるのを感じた。


とぼけないで欲しいわね。私が受けた任務では主に、Αアルファフレームとのチーム連携——それを利用して、あの格闘バカからパイロットとして相応しくない――」


「霊装の機体を駆るには、である証拠を炙り出す――そのプランが台無しだわ。」


 狂気のままに曝け出す彼女の本性――しかし言葉の羅列は支離滅裂を極める。

 大方含む意味合いは……チームとしての任はであり、ならばそれを利用し少年に失態を晒させΑアルファ・フレームから引き摺り降ろそう――と言った所だろう。

 そして宿る視線は、自分の事しか思考に持ち合わせていない――いや……宿の視線。


 それも――なるほどこいつは、想定以上に危険だ。

 彼女の思考が、聞く耳持たぬ人種に見られる傾向であれば……それこそ部隊を指揮する上では致命的な弱点となる。

 が――


 双眸に宿る狂気の奥底に、オレは揺るぎなき信念を湛えた霊力震ヴィブレイドの揺らぎを感じた。

 それもへ向かう物。


 感じた思考より導かれる答え――むしろこちらにとっても、有利となる案を弾き出したオレは……奇想天外な策を


「そうか、それはちょうど良い。なら存分に、いつきへその不満をぶつけてやってくれ。」


「こちらが大人しくしてたら――って……は?今なんて――」


 荒ぶる狂気をさらに暴走させんとした大尉殿が、まん丸な目を見開いた。

 さすがにこの答えは想定していなかっただろう――

 けれどオレが感じた通りであれば……彼女の心――その奥底へ蔓延はびこる男性全てへの憎悪と言う呪縛を、断ち切る事が出来るかもしれない。


 そう――あの赤き炎陽が心に貫く真の正義が、

 だからこそ、オレは彼女へ……けしかける方向へ策を進めた。


「言った通りだ。君が今回の合同演習においての主力となり――残り全機にてサポートを行う――」


「様は、本気ガチで当たって構わない――と言う事だ。理解したか?」


 人間と言うモノは、己が思考こそが正しいと思い込んだ時……周囲でいくら真実へ正す働きが起きようとも、それを一切受け入れる事が出来なくなる生き物と――あの観測者リヴァハに聞いた事がある。

 だが……人生と言う経験の中で辛酸を舐めさされた時、そこで間違いに気付き――歩む道を、修正する事が叶う生き物でもあるとも言っていた。


 それでも――

 命が尽きる最後まで、その過ちに気付けぬ者が居るのも現実であり――総じて、血で血を洗う惨劇を生む引き金を引くんだ。


 しかしこの眼前の少女は違うと断言出来る。

 それは格闘家と言う、魂を研鑽する事で自らの拳の正義を律し続ける少年が……彼女の本質を見抜いていたから。

 ——過ちを過ちと気付ける者であると……気付いていたから。


 そしてオレはいつきが感じた、あいつと同じ正義の感覚と言う言葉を信じ――彼女の真の目覚めを信じて、翡翠色の死神タナトス・オブ・ジェイダイトと……炎陽の勇者天才格闘少年との直接対決をぶち上げたんだ。


 沈黙のまま見開く双眸に、あり得ないと言う感情の渦巻くアシュリー――きっとまだ小さな綻び……それでもこれから彼女は、オレ達と供に歩む家族。

 その綻びこそが希望だった。


「――上等……やってやるわよ!英雄殿も吐いた唾は飲めないわよ……あの格闘バカを、Αアルファ・フレームのシートから引き摺り下ろしてやるから!」


「そしてあの……禁忌の赤に搭乗する事を夢見て頑張ってた、――綾奈あやなお姉様へ、私がΑアルファ・フレームのシートを返すんだっっ!」


 狂気は綻びから来る迷いを纏い――それでもオレへ、己が願いを叩きつけて来る。

 そのほんの刹那……、オレは感じた様な気がした――

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