デモンストレーション

第76話 勇者の絆、英雄の誇り



『では後ほど……場所と時間を追って連絡いたしますので――』


「〔はいはい、それではこちらも皆に連絡しておきます。では……。〕」


 宇宙人の楽園アル・カンデに訪れた非常事態宣言から、ようやく警戒解除となったソシャール内部区画――C・T・O本部内シェルターで事態を凌いだ学園長と生徒達にも、ようやく安堵の時間が訪れた。


 しかし事はそう単純では無く――理事長自ら、自分の息子が危険な任務に携わる旨を同武術部面々へ伝達した所……そこへ少しでも安心を届けるための策に奔走する理事長がそこにいた。


「〔まあ、そう言う訳で——渡りに船と言いますが……防衛軍からの招待を直々に受け付けました。〕」


「〔定刻には軍部からの誘導もあるため、皆さんはしばらくこの施設で待機と言う事で——〕」


 そこまで口に……で生徒へ告げた暁の理事長咲弥は、事のほか生徒に疲れが顔を出していたのを確認し——


「〔……軍部から、軍内部娯楽施設の臨時使用許可が下りています。皆さんはそこで暫く遊んでいらっしゃいな。〕」


 シャルター内の一角に設けられた長椅子で、項垂うなだれ……疲れを振りまく武術部のお騒がせ部員達——途端に輝く双眸で立ち上がる。


「ちょ!?……先生マジスカ!?いやぁ俺、何で遊ぼうかな~~!」


「イヤイヤ……ケンヤ今、死んだ魚の眼してただろ……(汗)つか——いつきの事はもう、どうでもいいんかい……。」


「さっすがケンヤ君、薄情者~~。」


「そうね~~薄情ね~~。」


「ぬわっ!?し……失礼なっ!オレはいつきの事を心配して……——」


 格闘少年も手こずるお騒がせ集団な武術部部員達。

 栗色の髪の後輩ゆずちゃんに、茶髪のサボり少女志奈ちゃん——ムードメーカーケンヤ自称ライバル良太

 親友の——先輩の、止ん事無き事情を知り得た後にも関わらず……重い心配もどこ吹く風なやり取りが、ようやく訪れた安堵の時間を如実に現し——

 その現金な親友が、直後に訪れたサプライズで度肝を抜かれる事となる。


「おお~~そうかそうか、心配してくれるのか~~。じゃあ一緒に宇宙そらへ上がるかケンヤ……こんちくしょう。」


「いっ!?いつきっ!?おまっ——」


「先輩っ!?嘘っ……軍の作戦に参加してたんじゃ——」


 軍部避難施設にサプライズで訪れたのは、軍が催すイベントのため——今しがた宇宙人の楽園アル・カンデ防衛軍本部へ、一足先に帰還していた格闘少年……紅円寺 斎こうえんじ いつきその人である。

 開いたシェルターの電磁開閉扉に気付かず、サプライズの餌食となった友人達——中々の惚けた顔を、格闘少年へ向けてしまった。

 のだが——


 彼らが眼にしたのは、馴染んだ武術部の部長である——しかし彼らですら感じるその雰囲気……で格闘少年を見た武術部員達は、そこに驚愕を覚えた。


「——お前……本当に……いつき——なのか?」


「おう……。正真正銘……紅円寺 斎こうえんじ いつきだ。さっきの今だぞ……俺の顔忘れたのか?」


 格闘少年もムードメーカーケンヤの――そして同様の思考に至った友人達の……その驚愕した理由を察していた。

 それは他ならぬ、あの己の真価——そこで得た揺るぎなき自信が、自分の双眸に宿っている事実。

 危機的状況を覆しながら、未だ包む戦場を駆けた雰囲気が……部員達をも魅了している事実を――


 そして宿す自信そのままに、自分が守り抜いた大切な友人を一望——最後に試練のキッカケを与えてくれた母親を見据え……皮肉混じりの感謝を述べた。


「ったく……Αアルファ・フレームに搭乗してこっち、こんな非日常な作戦行動ばっかだぜ。自分で志願しといてなんだけど――」


「けど——今あいつアルファで、多くの人を守りぬけてるのは親父とお袋の……暁の大企業フリーダム・ホープ・A・Cが、技術を結集してあいつを生み出してくれたお陰だ。……その……ありがと……。」


 最後に照れが混じるも、語る言葉は紛れも無い少年の本心。

 宇宙そらで大きく成長した息子へ、光は届かずとも双眸を向ける暁の会長 咲弥さくや——年齢にそぐわぬ幼ささえ残す笑顔で、炎陽の勇者として覚醒した息子へ祝いを手向けた。


「〔ええ、本当に——その声で戦場のあなたの姿が想像出来るわ。よく頑張ってるわね……でも、まだまだこれからよ?しっかりやって来なさいな。〕」


 視界に姿は映らずとも——車椅子の上で息子の存在を感じる暁の会長……その会長と格闘少年が醸し出す確かな親子の絆は、会長を蝕む重度の障害の壁など彼方に吹き飛ばす。


 神々しさすら感じる親子水入らずの情景に、思わず友人達も言葉を抑えた。


「——水を差す様で悪いが、イベントの支度があるぞ?いつき。会長も……お久しぶりです。」


 友人と母親との再会にふける格闘少年背後——同じく軍のイベントと言う名目で……何よりそのイベントの主人公である立場の、蒼き英雄が声を掛け——

 同時に暁の会長へ平にと挨拶を送った。


「〔あらあらその声、あの英雄君じゃないの。そう——どうやら貴方も宇宙そらへ戻れたのね?〕」


「はい、会長……その節はお世話になりました。」


「あ……やっぱクオンさんもお袋とは顔見知りなんだ……。」


「まあな……暁の大企業F・H・A・Cが【アカツキ・コーポレーション】の時代に、何かと世話になった。」


 少年の言葉に返す蒼き英雄——語る言葉には後ろめたさも混じっていた。

 蒼き英雄も、覚醒したとは言え……そもそも宇宙人そらびと社会でも稀に見る総合遺伝子劣化症を患う身障者——現暁の大企業の前身である、身障者達の戦いの砦旧アカツキ・コーポレーションには返しきれぬ恩を持つ。


 その恩を仇で返す様な8年の引き篭もりを演じた過去が、会長を眼にした今——さしもの英雄にも気まずさを生んでいた。


 が、そこは咲き誇る花の如き名を持つ会長——息子に送った笑顔を、今度は雄々しく再起したへと同じく手向けた。


「〔サイガ君……貴方は私達身障者の歴史でも、です。過去は過去——貴方がそれを受け止め再び立ち上がったのなら……私達暁の大企業F・H・A・Cは、全力を持って貴方を支援します。〕」


「〔——さあ……今の貴方に、後ろめたさで俯く姿は似合いません。顔を上げ……前を見据えなさい。身障者の誇り高き未来として——〕」


 格闘少年の友人達も目にした暁の会長——その姿はもはや、身障者だけでは無い……ソシャールに生きる人皆の母の様な慈愛で包まれていた。


 —— 【宇宙のヘレン・ケラー】——


 宇宙人そらびと社会で語られる言葉そのままの姿を見せる暁の会長へ……蒼き英雄でさえ、深き謝意と共にこうべを垂れるのであった。



 》》》》



 警戒解除も早々の救いし者部隊クロノセイバー

 関係者お披露目会からの、漆黒の指揮する部隊ザガー・カルツ襲撃に対するソシャール防衛戦――まさに息つくヒマ無しのオレ達だが、ようやくクルー達への休暇とも言える時間が訪れた。

 ――けどそんな中、あの内通者の件に加え……新参の【ラグレア隊】隊長の過去に関わる内容と、山積みな不穏材料へを指令へ献上しようと足を向ける。


 すでに別の案件が立て込む中、少々時間が押し気味でもあるが――優先順位と言う物もある。

 向かう先は、あの内通者の件を最初に通告された宇宙人の楽園アル・カンデ中枢――統合制御機関室アマテラス・システム傍の通信隔離施設……言うに及ばずこれも内通者への対応だ。


 すでにそこへフキアヘズ閣下を含む軍幹部の方々と、水奈迦みなか様にリヴ嬢――そして今回オレが提示する不穏案件に関わる人物……オレと同時にソシャールの軍本部へ帰還していたエンセランゼ大尉に同行を申し出た。


「よもや私達医療チームが、この様な作戦に表立って従事できるとは夢にも思わなかったけど――さらにそこへ舞い込む難題の数々……医者冥利に尽きるわね、全く……。」


「すまないローナ。その手の案件にはやはり、艦の総合医療を担当するローナが適任だったからな……。」


「ああ、いいのいいの。……その代わり、先の件で奢る約束が保留になってるから――この件が終わったら飲みに付き合いなさい。それでチャラよ。」


 C・T・O軍部の長大なメイン通路で隣りを歩く彼女――オレの準備した件にはまさに適任である医療チームの大御所……嘆息ながらもどこか楽しげな雰囲気を醸し出す大物感。

 医療の高みを目指せば少々の事には動じなくなると言う、どこか達観した様なオーラを振り撒いていた。


 その上にこの容姿であれば、それは数多あまたの男性隊員を骨抜きにして来たであろう――そう思考しながら彼女を視界に入れていると、美人女医殿がこちらの視線に気付き――


「あら何?もしかしてあなた、?……ふふっ……私はそう?」


 歩きざま、振り返り送るその表情――部隊でも一、二を争う妖艶さが炸裂する美人女医……やめろやめろ、オレはともかく周囲をまばらに歩く部隊員が(汗)


「はぁ……魅力を振り撒くのはいいが――あんたの場合が尋常じゃない……。そこは程ほどにしておいてくれ。」


「あら残念……これでもあなたとは8年前からの知り合いだと言うのに――その気もみせないなんて……部隊内で囁かれるは伊達じゃないわね~~☆」


 なん……だと?まさかそんな噂が立っていたのか?

 ――はぁ……自覚もないわけではないが、それは部隊の歴史が大きく抜け落ちたオレはまだ新参と事にあたっていたわけで――


「それは流石に初耳だが……(汗)まあ、あのブリッジクルーを初めとしたメンバーならば口にしそうな――」


 と口にしたオレに、盛大な追い討ちを準備した美人女医が――


「……それも――見境いない……って。」


 魔性のウインクと共に追撃して来た。

 ガクン!肩を落とすオレ――要は敵であるに、

 さらには新たにお目見えしたを指していると……察するには難くなかった。


 そこで美人女医もヒラヒラと手を泳がせ、フォローを口にしながら悠然と歩みを続ける。


「安心なさい。それはあくまであなたへの……英雄への憧れや、尊敬の念からくる物――決してあなたへの、そしりやののしたぐいの思考ではないわ。特に――」


――あなたの対応は、事がどう転ぶかも分からない中……ほぼ賛同する意見で占められている。恐らくこれは、とても凄い事よ?」


 唐突に告げられた内通者への対応と言う言葉――同時にその行為への賛同者が大多数を占めると言う内容には、胸中で安堵する反面……その責は重大と痛感させられた。


「ありがとうローナ……。ならオレもその重責――吐いた手前、部隊皆の期待を裏切る様な真似は出来ないな。……まあその件はおいおいとして、今回の件――」


「――ええ。そちらは違うベクトルで難題ね。」


 眉根を寄せて、会話内容を挿げ替えたオレを一瞥した美人女医ローナ――短い返答を返し、僅かに早まった足で目指す統合制御帰還室アマテラス・システムの方向を見据え……しばし無言の時の中、予定時刻を迎えるオレ達だった。

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