第75話 女性権威解放戦線
部隊に於いてもはや定番となった歓迎パーティー——しかし、毎度の如く騒ぎが混じるそれもすでに定番となりつつあった。
が……今回の歓迎会で訪れた騒ぎは、事の重さが群を抜く。
その背景には新規参入となった異色の部隊……
更には現状……内部事情に関する情報提示には、機密レベルを最高に引き上げ——外部通信遮断設備でのみのやり取りを厳とされた。
当然それは、内通者である女性を警戒しての対応——ささやかな機密一つの扱いですら、最重要機密へ引き上げねばならぬ実情での情報公開となる。
加えて最高機密と言う情報の関係上、
「キルス隊の時は、こちらもクオンが絡まれる事態は想定していた――が、まさかムーンベルク大尉が
旗艦指令
さしもの少年も旗艦指令のお叱りとも取れる視線で、完全に縮こまる。
「いえ……その、言い訳の余地もないです。申し訳ありません……。」
「まぁ、それに付いては後回し――まずは話しておくべき情報だ。
いつに無く殊勝な
総司令部においてはアシュリー・ムーンベルク大尉と言う少女は、民間軍事部門扱いであるため……必要最小限の個人情報のみが部隊へ知らされていた。
通常【フリーダム・ホープ・
本人としてはその情報公開全般の責が回って来る事に、
「了解しました。では先ず皆に伝えねばならぬ件として……私がC・T・Oへ正式配属される前に、私が地球側守護宗家出向として受け持った事件——」
「火星圏のある星州で問題となっていた、某独裁国家からの自由解放を目的とした人権保護及び回復作戦……〔女性権威解放戦線〕についてです——」
大尉の口にした事件——それは一つの独裁国家が版図を広げる上で行った非人道制度……地球圏の負の面を、愚かにも継承してしまった部族に端を発する物。
女性の尊厳を特別に重んじる
》》》》
地球において【三神守護宗家】は一家——【ヤタ家】の当主筆頭候補と言う重責……そこから逃げ出したと
そんな誤解を受けてもおかしくは無い、宗家当主継承の儀が叫ばれた時期の……唐突な
『
『ですのでその件に対し――地球側守護宗家の擁する部隊にて、事態収拾の依頼をとご連絡した次第……。ご検討を願います。』
それは本来、
依頼を受けた守護宗家はその依頼に答える様に、宗家内の事態鎮圧部隊を組織し——その隊の指揮へ私が任命されたと言う経緯だ。
地球は日本の守護宗家がわざわざ部隊を送る必要があったのは、
そんな中……【ヤタ家】がその依頼へ先陣を切ったのは、【クサナギ家】と【ヤサカニ家】が地球圏における問題に手を焼く現状が存在——即座に動ける部隊が我がヤタ家の特殊部隊だけあであった事も含まれる。
「
「——お気になさらないで下さい。事態の程度は知れませんが……先ずは調査の後、早々に解決がなれば地球へ戻り継承の儀を受けます。私とて……この地球の我が家を捨てる様な真似は出来ませんので。」
当時地球圏で私に尽力してくれたSPは、守護宗家の現状を鑑みた依頼である——それでも私への労りが
そして上がった
数ヶ月の調査によって得られた情報は……常軌を逸した惨状だった。
国家とは名ばかりの星州の一部族が、勢力拡大の為周辺ソシャールを食い物にする事態……一見、その程度であれば地球圏では悲しくもありふれた紛争の類。
しかしその部族のさらなる調査を終えた私は、戦慄と共にその部族への憤り――否……憤怒そのものしか浮かばなくなった。
その愚かなる部族は男性至上社会——奴らは女性を奴隷として……物として扱っていたんだ。
——全ての調査を終えた私は……地上の宗家から、程なく縁を断絶する覚悟を決めた。
地球圏に居を置く【三神守護宗家】――そこにある掟に縛られる自分では……浅ましく愚かなる部族から、奴隷として集められた女性達を解放する事が叶わなかったから——
守護宗家における掟――それは、あくまで宗家の力を振るうは常軌を逸した霊災に対して……あるいは人外に対してのみと言う掟。
鎮圧目的であれ……通常の人類へ、その力と言う刃を向ける事が叶わなかったから。
「貴方も奴らに捕まったの……。——そう……あなたは男の子……けれど、それを捨てたのね?」
縁を断絶してすぐに組織した〔女性権威解放戦線〕は、【ヤタ家】から共に
「ならば私と共にお出でなさい。……貴方——いえ、貴女が目撃した強欲の権化共から……力無き女性達を解放しましょう。」
出会った一人の少女——否、彼女は彼であり……女性の家系でただ一人の男の子。
しかし父を早くに亡くし、女性の姉母家族によってその人生を支えられた彼は……強欲なる部族によって家族の全てを奪われた。
そして双眸を貫いた陰惨極まりない悲劇が、彼の脳裏に男と言う性は醜悪で傲慢で——救いようの無い愚物と刻み込み……彼は、男性と言う性を捨て去ったのだ。
》》》》
その場は重い沈黙に包まれた。
同席した
当の情報を欲しがった新参二人——最早怒りが怒髪天を衝く程の、歯噛みを浮かべる。
「全ての発端は、今お話した通りです。……まあ、それ以降私はこのC・T・O率いる当時の
「あの娘は違いました……。アシュリーは火星圏に残り、その後も生まれ続けた奴隷女性を解放し続ける戦いを続けたんです。」
そこで区切る赤のサポート大尉——視線を落とし……重い口を開く。
「——けど彼女はやり過ぎた。……彼女はその怒りの衝動のまま、男性至上社会と言われた独裁部族を——その部族社会までも滅ぼしてしまった……。」
「それこそが、彼女に名付けられた【
生まれたのは絶句。
常軌では考えられぬ、たった一人が一部族を滅ぼすと言う異常事態——そこに女性の人権など皆無とした部族の姿勢が絡むとは言え……あってはならない、血で血を洗う闘争——
赤のサポート大尉が
「これで分かったでしょう?
格闘少年が起こした行動へ、特大の釘を打ち込む様に話題を振り——少年をしておっかないと表現する大尉が、その
「これは私からのお願い……。あの娘に——アシュリーにこれ以上の闇を背負わせないであげて……。この通りよ……。」
懇願——男と言う性を捨て去った少女への、せめてもの労りが……赤のサポート大尉の下げた
今まで目にした事の無い美人上官の
――だが……少年は確かに上官からの忠告と懇願への理解を思考に宿していた――いたのだが、真実を聞き及んだが故にアシュリーと言う上官にあたる少女へ……これまで以上の関心を募らせた。
それは少なくとも、少女の正義が弱き者を守るために振るわれたと言う事実――にも関わらず、少女が自ら招いた結果によって死神と畏怖される現実に対し……そこはかとない無念を感じていた。
少年は――その少女の正義が悪として貶められる現実が……我慢ならなかったのだ。
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